第12話今の自分
俺さ。思うんだ。
思い出はきれいなままであるべきだって。
どんなに嫌で汚くて酷い終わりを迎えても、大切な過去の思い出はずっとずっと、宝箱や宝石箱の中身みたいにキラキラ輝いていて欲しい。
きっとそれが、辛くて挫けるような時のエネルギーになってくれる。
ただし、これは過去の思い出のこと。
今、大きくなった俺は、二度とあんなことが起こらないように必死に現実にすがり付いてカッコ悪くも足掻き続けている。
大学に進学して専門的な知識を身に付けた。
そして、父さんと同じように水質調査を主とした専門分野で働いている。
過去は戻らない。いなくなった人たちは、もう二度と戻らないんだ。
それを知っているから、俺は後悔しないように大切なものにすがり付くんだ。
失ってからじゃ遅い。
あの後で俺は兄さんから貰ったワクチンを打った。だから、もうあのウィルスで発症することはない。
生かされているんだよ、俺は。あの子に。
あの子の血からつくったワクチンに。
父さんや母さんやたくさんの人に守られた。
あの町の出会いに助けられた。
あの子に生かされた。
みんな、みんないなくなってしまった。
守れたはずのあの子も、いなくなってしまった。
赤く染まったあの夏は、たくさんのものを持っていってしまったんだ。
でも、ここに残ったものもある。残してくれたものがある。
俺はこれから生きていく。
貰ったものを握り締めて、限りある命を燃やしていく。
伝染性吐血症害 犬屋小烏本部 @inuya
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