第11話赤に沈んだ夏

がたごと がたごと

俺はたった一人で電車に乗っている。






俺を誉めた、あの団体の若い人が町から出る電車に乗る直前まで見送ってくれた。

その時、個人的な連絡先を君なら特別にって言ってメモに書いてくれた。

後日、といっても家に着いて次の日に電話がその人からかかってきた。

その人はまず、自分が団体を辞めたことを俺に告げた。

それと、自分の兄があの町で小学校の先生だったことも。多分、俺たち四人を怒った、あの時まっすぐ家に帰れと言った人だと思った。面影が似ていたな。




元の町に帰った俺を待っていたのは、誰もいない家だった。

俺はその夜、一人で泣いた。


もう九月に入って学校も始まっていたけど、しばらく落ち着ける所で休んだ方がいいっていうことで、俺は母さんの実家へ行くことになった。




がたごと がたごと

電車に揺られながら、俺は父さんのノートを開く。

ページには、あの町に行った初日にみんなで撮った集合写真が挟まっている。

みんな笑っている。

みんな笑っていたんだ。

たった一夏の思い出。

俺の、大切な大切な思い出。




団体を辞めた人、兄さんと呼ぶぜ。兄さんはあの町の調査した事実を教えてくれた。

まず、生存者はやっぱり俺たち二人だったこと。

ウィルスは水路だけでなく、水路からとった水を使用していた畑も汚染していたこと。

あの工場の偉い人が、何ヵ月も前に失踪していたこと。

あとは大体俺の考え通りだった。


俺は兄さんに気になることを聞いた。

まず、あの子は元気かということ。

兄さんは沈黙した。

実は、あのウィルスは致死率が異常に高いため発症途中で治るなどあり得ないそうだ。

団体はあの子からたくさんのデータをとって、「今後」に「役立てる」つもりらしい。

つまり、実験体だ。

せっかく生き残ったのに?


あの子にはもう会えないだろう。そう、言われた。

あの子はつれていかれてしまった。

あの子は、もういなくなってしまったんだ。


俺は気落ちしたままもうひとつだけ聞いた。

△△企業って知ってますか?

もしかして、失踪したその人がウィルスを流していたとか?

兄さんは首を横に振った。

失踪したその人は発見されたらしい。工場の中で。

工場の一番奥にある、大元の水を汲み上げて溜めておくタンクの


中 に


沈んでいたそうだ。

腕には注射器で刺された痕。


え?ぅえっ!

俺は思わず吐きそうになった。

直感的にわかってしまった。ただ、受け入れたくなかったから、兄さんに聞き返した。


あのー、その人、感染してます?

感染してました?

あー、そうですよねー。

いやー、知りたくなかったかなー、俺。


あー、そうですよねー。


オブラートに包むと、俺たちその人のだし汁(血だよ、血)飲んでたんだよなー。

出てきてたのヤバいウィルスだったけど。

はははははは

はぁ…


兄さんもこれには苦笑いしか返ってこなかった。

しばらく水はコンビニでミネラルウォーター買うことにした。根本的な解決ではないと思うけど。


あと、俺が名前を出した△△企業。

兄さんはそれが理由で団体に見切りをつけたって言った。

△△企業が作った団体が、今回俺が世話になった団体。兄さんがいた団体だったんだ。

大きい企業だし、別にいいと思うだろ?


実はさ。父さんが調べていたんだ。

ウィルスの出所。

△△企業だって。


△△企業はあの父さんの勤めていた工場、感染源になってしまった工場のスポンサーだったんだ。

俺はそれをすっかり忘れていた。

団体の人が「△△企業から来ました××団体です」って紹介してくれた時に気づくべきだった。


はっきり言って、自作自演だったんだ。


工場のお偉いさんが邪魔になったから、変なウィルスを着けてタンクに沈めた。

それに工場が気づきそうだったから、ウィルスがたくさん入ったガラス容器を水路の飲み水に溶かした。

工場だけ変な病気が流行ったら、町の人たちに怪しまれる。なら、町ごと病気にさせてしまえ。

運悪く生き残った子供がいたら、遠くへやってしまえ。どうせ覚えていないだろう。

ワクチンの材料が手に入ればなんてラッキーだ。


あいつら、人の命をなんだと思ってるんだ。


兄さんもそう怒って抜けてきたんだってさ。






がたごと がたごと

もうすぐ電車が駅に着く。

俺の今年の夏休みももう終わりだ。


赤く染まった水が、あの子の幼い笑顔を思い出と一緒に過去へ押し流していく。

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