身分違いの恋というのは少女漫画の醍醐味だよなと僕は思っているのですが、これはまさしくそこをダイレクトに抉ってきた作品。特待生で頭の良い主人公の少女が、お金持ちのボンボンだけれど優秀な兄の陰に隠れてちょっと冴えない男の子に恋をするって感じ。
こういう「私は彼の良いところを知っているの」的な男女の組み合わせはいいですよね。とてもいい。大好き。
さらにそこに一部の上流階級しか住めない寮とか、そこに特例で主人公が入って急接近とか、ブラコン気味の兄貴がちょっかいかけてきてとか、色んなイベントや彼の過去に触れて、はわわどうしようどうしようって、もうなんか最高だよね。
うん、こういうのアタイ大好き。
って、おっさんなの内なる乙女が叫びそうになる作品でございます。
すごくシンプルかつ丁寧に、少女漫画に読者が求める恋愛要素をなぞってくれているので、読んで損することはまずないんじゃないかな。こう、飛び抜けて奇抜に感じる要素はないけれど(いや、お相手の男の子が結構なオタクだったり陰キャだったりするのはありますけれど)、それを上回る安定感がある。
安心してほっこりしたい&きゅんきゅんする少女小説を読みたい方には、ぜひおすすめという作品でございます。いいですよ。
成績優秀な女の子、園田菜乃花は、ある日男子生徒とぶつかって怪我をしてしまう。
しかしぶつかってき男子生徒、天坂千影の対応が予想外。まさか土下座までして謝ってくるなんて……。
幼い頃から優秀すぎる兄と比べられ、いらない子扱いされてきた千影くん。
顔はいいけど、兄ほどじゃない。地味で勉強は全然できない彼は劣等感の塊みたいに育ってしまっていましたが、菜乃葉はそんな千影くんに提案をします。勉強をして、期末テストで一位を取ろうと。
本当は影で努力をしていたけど、それが実を結んでいない千影くん。菜乃葉はそんな彼に、密かに淡い想いを抱いていたのでした。
好きな人がコンプレックスを抱えていて、頑張っていることさえ認められないなんて我慢できない。絶対に皆を見返してやるんだ。
よほど千影くんの事が好きなのでしょう。読んでいて菜乃葉の情熱と好きだと言う強い想いが、ひしひしと伝わってきます。菜乃花の隠すことないストレートな好意に、何度キュンとさせられたことか。
好きな男の子のために勉強を教える、健気な菜乃葉。
はたして千影くんの成績は上がるのか? そして、菜乃葉の恋の行方は?
二人の恋路の他にも、優秀なお兄さんと千影くんの兄弟の複雑な関係も、見ごたえがありました。色んな意味で!
本作の主人公、園田菜乃花の恋する相手は、一流企業の御曹司であり、イケメン、成績は学年トップ、スポーツ万能、芸術面にも秀でているという、完璧超人、天坂総司……の弟、天坂千影。
こんなも完璧なお兄さんを持つ千影君ですが、彼自身はお兄さんと比べると、いえ、例えお兄さんを抜きに考えてても、テストで赤点をいくつもとる落ちこぼれという、恋愛もののヒーローとしては、いささか以上の低スペック。さらにはお兄さんへの劣等感と、周りの心ない声によってすっかりコンプレックスを抱えてしまってい、女性不振になり、二次元に彼女を作るように。
しかし、恋というのは相手のスペックを求めてやるものではありません。恋愛好きの読者目線で語るなら、いかに勉強やスポーツができようと、それらはあくまでオプションにすぎず、真にそのキャラの魅了となるのは、大抵の場合、その内面です。
そして菜乃花が千影君に惹かれるようになったのも、スペックや外見ではなくその中身。いつも図書館で黙々と勉強する彼を見て、日々努力を続けるその姿を見て、自分も頑張ろうと心動かされます。
実際読んでみると、千影くん、いい子なのですよ。先に挙げた努力家な面はもちろん、物語の開始早々、ふとしたことから菜乃花をケガさせてしまうのですが、その責任を感じ、治るまでメイド付きの特別豪華な学生寮での暮らしを提案。どうして周りの子は、彼の良さに気づかないのと思ってしまいます。
もっとも、一途に彼に好意を寄せる菜乃花を思うと、良さに気づいてライバルが増えたりしたら、ちょっぴり複雑ではありますが。
さらに菜乃花の恋を阻むのは、彼がこれまで培ってきたコンプレックスと、二次元にいる彼女。千影くんだって菜乃花のことを憎からず思っているでしょうけど、恋愛となると、そう簡単にはいかず。
彼のコンプレックスと二次元彼女を越え、その心を射止めることができるのでしょうか。