第45話 デミオ鉱山

 領主の迎えがくるまで時間があるので、街を散歩して美味しいお店や屋台を開拓したり、魔道具屋を覗いたり、宿で本を読んでゴロゴロしたり、魔法の練習をしたりして過ごす。

 しかし、そうやって過ごせたのも四日くらいで、五日目くらいになると採取に行きたくなった。


 最近は指名依頼をこなしてばかりだったので、今日は何かに縛られることなく気ままに採取に行こうと思う。そういう日も必要だ。

 今、気になっているのはランクCに上がったことで行けるようになったデミオ鉱山。


 この街でも有数の鉱山地帯だと聞いているが、一体どのような鉱石や宝石が埋まっているのだろうか。

 とはいえ、デミオ鉱山はどの辺りにあるのか、何を持っていけばいいかわからないので、俺は冒険者ギルドに行ってみることにした。

 冒険者ギルドに入ると、今日も冒険者が集まって依頼書を眺めていたり、テーブルで盛んに話し合いをしている。


「なんだか今日は冒険者が多いような気がしますね」

「シュウさんとルミアさんがレッドドラゴンを討伐して領主様直々に招待状を貰いましたからね。ここ最近は、自分たちも負けていられないとばかりに冒険者が奮起しているんです!」


 ああ、確かに。下の者が活躍をすれば、周りにいる者や上にいる人も対抗心を燃やすものだ。俺たちの影響でこんなことになっているとはな。


「しかし、以前にも増して冒険者の皆さんが討伐依頼ばかり目を向けて、採取依頼が滞り気味なんですよね……」


 ピンと伸びた耳をへにゃりとさせながら、どこか恨みがましい目を向けてくるラビス。

 俺はシレッと視線を逸らした。

 それについては関係がないと思いたい。元々、ここの冒険者は採取依頼をやらない人が多かったし。意識改革の問題はギルド職員の領分だと思う。


「それよりシュウさん。領主様との話し合いは無事に終わりましたか?」

「いえ、まだです。明後日に迎えをくださるそうで」

「そうだったのですね。ということは、今日は依頼をこなしに?」


 ラビスの目が獲物を狙う狩人のように鋭くなる。


「今日は依頼を受けませんよ。ちょっとデミオ鉱山を見に行きたくて、情報を聞きにきました」

「今後のために下調べは重要ですしね。わかりました。デミオ鉱山についてご説明します」


 採取依頼につながるとわかってかラビスが嬉々として説明し始める。

 デミオ鉱山はこの街の北側に歩いて半日ほどの距離にある。

 この街有数の鉱山地帯というのは少し前までの情報だったみたいで、魔物による被害が大きいせいか今は細々と採掘をしているだけのよう。

 それでも豊富な鉱脈があるお陰か十分な産出量があるらしい。


「坑道内は暗いですからランプ、もしくは灯りの魔道具は必須ですね。魔法が使えるならばライトボールで代用しても構いませんが、戦闘時のことは考慮してください。あとロープや杭があれば、上り下りも随分と楽になりますよ」


 ラビスから話を聞いているだけでデミオ鉱山が過酷な場所なのかわかるな。

 普通に歩き回るだけでこれだけの準備がいるのだ。その環境の中で魔物との戦闘まで考えると、いかに難易度が高いかわかる。ランクによって入場が規制されているわけだ。

 俺の場合は灯りの魔道具もあるし、ライトボールも使える。荷物もマジックバッグに入るので大分楽だ

な。


「後は鉱石を採掘するためのツルハシ、ロックハンマー、タガネですね! 鉱山には魔力鋼や魔晶石なども産出されますので、ザックザックと掘っちゃってください。でも、落盤で生き埋めにならないように気を付けてくださいね」


 ツルハシを振るうという可愛い仕草をしつつ、さらっと恐ろしい忠告をしてくるラビス。

 採掘する時は周囲や壁の様子をしっかり確認してからすることにしよう。

 暗い鉱山内で生き埋めなんてごめんだからな。


「丁寧なご説明ありがとうございます。では、準備をして向かってみます」

「はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 魔物などの細々とした注意点などを聞いた俺は、ラビスに見送られて冒険者ギルドを出た。




 ◆



 鉱山に必要なものを買いそろえた俺は、北の城門から出発してデミオ鉱山にやってきた。

 赤褐色の山肌にはあちこちに坑道があり、作業員の拠点として使われていた小屋などが見える。

 昔は活気があったのかもしれないが、今はその面影しか残っていない。どこか寂し気な雰囲気が感じられるな。

 坑道の中に入ってみると、日光の差し込む入り口付近は明るいが奥は暗い。

 ラビスの言う通り、灯りがなければ足元すらとても見えない状況だ。


「ひとまず、ライトボールっと」


 無魔法のライトボールを発動させる。

 ライトボールは夜に宿でも練習できるお陰かある程度コントロールできるようになってきた。もう、前のように閃光を放ってしまうようなことはない。

 光の球を浮かべると、坑道の中が明るく照らされた。

 人が通る場所だけあってか、坑道の壁は鉄や木材で崩れないように補強されている。

 少なくとも入り口付近であるこの場所が崩落してくるようなことはなさそうだ。


「魔石、調査」


 魔石調査をしてみると、範囲内にいくつかの魔物が表示された。

 アリの魔物、カマキリの魔物、コウモリの魔物など。しかし、範囲内にいるもののそれらは地下のようだ。

 今すぐに遭遇するようなことはない。


「んん? 右側の道は行き止まりかな?」


 坑道内は狭いせいか魔力の波動を飛ばすと反響してくる。

 それ故に魔力のぶつかり具合で何となく道が続いているのか、行き止まりなのかわかるような気がする。

 試しに魔力の反響が多かった右側の坑道を進んでみると、行き止まりだった。

 やはり、今の感覚は行き止まりを表すものらしいな。

 これはいい。入り組んだ坑道内でも地形を把握できる。狭い坑道内だからこそ発揮できた技だな。


「でも、どうしてこんなすぐに行き止まりが?」


 採掘された形跡はあるのに、どうして中止されてしまったのだろう?


【脆くなった壁 衝撃を与えると落盤の可能性大】


 思わず壁を鑑定してみると、そのような結果が出た。

 おお。どうやらここは落盤のリスクが高いので放棄された場所のようだ。

 行き止まりだからといって安易に採掘をしてしまうと、痛い目に遭いそうだな。

 引き返して、奥へ続く道を進んでみる。

 この鉱山はたくさんの鉱石や宝石が産出されると聞いた。一体、どれほどの素材が眠っているのか気になる。


「調査」


 地中に浸透するように魔力の波動を飛ばすと、視界にたくさんの素材が表示された。

 しかも、桁違いの数の鉱石類が埋まっているからか、視界がとても色鮮やかだ。

 やはり、大きくなっているものは価値が高いのか、サイズの大きいものはほとんど赤や橙だった。


「うおおお、すごい! まさに宝の山だ!」


 すぐ傍の壁に赤で表示される鉱石類らしきものがあるので、壁を鑑定してみる。

 こちらは先程と違って落盤の可能性もないようなので、マジックバッグから取り出したツルハシで壁を掘ってみる。

 表示されている素材を傷つけないように丁寧に掘ると、岩の中から銀色に輝く鉱石が出てきた。


【魔力鋼】


 軽くて丈夫なだけでなく、輝きも美しい鉱石。魔力を込めると変形する性質があり、身体にフィットするような防具などに使われる。

 拾い上げて鑑定すると魔力鋼だと表示された。

 確かラビスが採掘するならオススメだと言っていた素材だ。

 どうやら魔力を込めると変形する不思議な性質を持っているようだ。


 試しに魔力を込めてみると、ゴツゴツとしていた鉱石がまるで粘土のように柔らかくなった。銀色の粘土をこねているようで少し不思議な気分。

 この変形を生かして防具などに使われることが多いみたいだが、アクセサリーなんかに利用してみても面白いかもしれないな。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界のんびり素材採取生活 錬金王 @bloodjem

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ