アビントン邸
都の中心部からおおよそ五十キロ、たちまちにして辺り一面に田園風景の広がる四区にアビントン邸は位置する。
ひどい、事件だった。
その夜、一組の男女が殺害された。男はその日、ラスティーユ監獄から脱走した捕虜で、後頭部を銃で撃ち抜かれていた。女はアビントン邸の家主で、胴に一発と首を絞められた跡がある。
事件発生当時、近隣でラスティーユ監獄からの脱走者を追っていた軍警察の一団が通報を受け事件現場に急行、被害者の救援に当たると同時に現場付近に居た多数の不審者を拘束した。
その後も軍警察による捜査が続けられると思われていたが突如として、軍警察兵備局は内務省への一任を決定した。折しも、捕虜の関係している事件であり、今回の事件も捕虜にとっての故国である連邦から送り込まれたエージェントによって実行された可能性が疑われたが、軍警察が捜査する必要はないと判断したのだ。
軍警察の手で拘束された不審者は、内務省への一任が決まると四区を管轄とする警察署に連行された。
所持品検査と厳しい取り調べ。彼等は、だが、全員が口を揃えた如く、自分は何も知らないと主張した。
実際に調べてみると彼等は皆、近隣に住む者が凄まじい銃声を耳にして様子を伺いに来た、あるいは単なる野次馬で、凄惨な事件現場を視認し、タジタジとなっているところを逆に怪しまれ、拘束されたようだ。
そんな中、アデラールは取り調べ中の一人の女に興味を示した。
「アニアスさん、貴方は被害者の女性…アビントンさんと顔馴染みだったそうじゃないですか」
アビントン、王国系の名前は彼女が移住者だったことを意味している。
アデラールはアニアスの所持品リストを見るなり、リストのサブコンパクトピストルを持ってくるよう命じた。サブコンパクトピストルとは三.五インチという極端に銃身長の短い小火器で、その大きさは手のひらにおさまる程度であり、よく御信用に用いられる。
言うまでもなく、犯行に使用したと疑ったのだ。
しかし、サブコンパクトピストルはその短銃身、故に威力が少ない。撃たれた上に首まで絞められて殺害されたアビントンはともかく、捕虜の説明がつかなかった。後頭部に受けた一撃で殺害されている為、サブコンパクトピストルの様な代物ではそれを成すことは出来ないからだ。
私がそんな自己解決をしている間に、若手の鑑識官が口を開いた。
「警部、そのサブコンパクトピストルでは、いくら後頭部に当てたとは言え人間をたった一発で殺害するのは、不可能です」
「いや、方法はある」
アデラールは両肘を机に乗せて、そう言い放ち口元に笑みを浮かべた。
猟犬 @magoichi-tsumugi
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