ありがとう神様

松長良樹

ありがとう神様


 あるとき何の前触れもなく、北海道ほどもある巨大隕石が地球に降ってきた。俗にいうハルマゲドンだろうか。アブラハムの予言が的中したのか人類は絶滅した。


 残念な事だが自然の脅威の前に人類はあまりにも非力であった。


 黒雲が延々と大気に棚引き、有毒ガスが見る間に地表を覆ってしまうと、陽光は遮断され極寒地獄が続き、人類だけでなく、ほとんどの生命は死に絶えてしまった。

 


 その劣悪な環境はなんと五百年以上も続いたが、やがて落ち着き、雲の合間からやわらかい光が差し込んできた。


 そして荒れ果てた地面に小さな一輪の花が咲いた。輝かしい生命の復活である。

 

 それを待ち望んでいるものがいた。残念なことにそれは地球上の生命ではなかった。その機を待ち望んでいたのは狡猾な宇宙人だった。彼らは人類がいたときから、虎視眈々と地球を狙っていたのだ。

 


 銀河の彼方から彼らは地球を覗いては『いい星だねえ』とよだれを垂らして地球を欲しがっていた。しかし戦争を仕掛けるにも、力がほとんど同じぐらいなので長年躊躇していた。


 それが天変地異によって人類が絶滅したと知ると、彼らは大船団を連ねて地球にやってきた。濡れ手に粟とはこの事だと思ったに違いなかった。

 偵察隊が数名降りて地上の様子をみる。すでに沢山の植物達の芽は地中から伸びていた。新鮮な大気と豊かな自然がそこに復活しようとしていた。


「ふふふふふっ、この星は我らのものだ!!」


 彼らが宇宙語で奇声を発したその時だ。まったく彼らの予想に反することが起こった。宇宙人に恐れもなく話しかける者がいたのだ。


「あなたたち誰なのですか? 見慣れないお方ですが」

 宇宙人は驚いて声の方を注視すると、神々しい程に古代的な人物の姿があった。なんとそこにいたのは二人の男女で仲睦まじく寄り添っていた。


 宇宙人は驚いて反射的に殺人光線を二人に目掛けて発射した。しかし二人は笑っていた。倒れないし、なんともないのだ。

「おやっ、いきなりなにをするのですか? 君たちは地球の者ではないな。いたずらに好戦的だし!」


 男の方がそう言い、女の方は柔和に頷いている。


「きさまら、人類の生き残りだな。しかし良く生き残ったものだ、お前達は科学者なんだな。シェルターにでも退避していたのか!」


 しかし二人はまるで的外れという顔をしてこう言った。


「私たちは神様です。名をイザナギ、イザナミノミコトといいます」


「カミサマ? それはなんだ、人類の新種か?」


 訳の分からない宇宙人たちは、もちろん彼ら二人を排除しようとした。


 しかし彼らのすべての武器はなんの役にも立たなかった。


 恐れ慄いた宇宙人たちは、『人類、恐るべし』というセリフを残して、くやしそうに宇宙に消えて行った。

 


 その後の話は、古事記と酷似している。彼ら夫婦は愛し合い島々を産み落とすのである。その島々こそ日本列島であり、そこに生まれたのは我ら日本人である。




 ありがとうございます。イザナギノミコト、そしてイザナミノミコト。


 


 ――ありがとう神様





              了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ありがとう神様 松長良樹 @yoshiki2020

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ