第4話
クエスト紹介所でギルドの設立申請を終えた俺は、その足で街の<奴隷商>の元へと向かった。
たどり着いたのは、街の外縁部の薄暗い通りにひっそりと佇んでいる建物。
そこが、目的の<奴隷商>の根城だった。
俺の目的は、もちろん奴隷を買うことだ。
実績のあるギルドであれば、普通の冒険者を採用すれば良い。
だが、なんの実績もなく、メンバーは雑用係(バック)ただ一人のギルドに、冒険者が集まるはずもない。
仮に集まるのだとしても採用活動をする手間も惜しい。
だから、手軽にパーティメンバーを揃えるために奴隷を買うのだ。
「いらっしゃい……」
店の扉を開けると、老人が出迎えてくれる。
<奴隷商>の店に足を運んだのは初めてだが、なんとも陰湿な場所である。
店の奥からほのかに漂ってくる異臭。
それだけで奴隷たちの境遇を察するには十分だった。
「今日は、どんな奴隷をお探しで?」
「戦闘用の奴隷が欲しい」
「なるほど。では、いいのがそろってますよ」
老人はぐひひと笑いながら立ち上がり、俺を奥に案内してくれる。
廊下を歩いていくと、奴隷が“置いてある”区画に着く。
鉄格子で囲まれた中に、様々な奴隷が並べれられている。
獣人が中心だが、中にはエルフや人間の姿もあった。
「このワーウルフなどは、屈強ですぞ」
まず案内されたのは、檻の奥で静かにこちらを睨んでいるワーウルフ。
ワーウルフはまさしく戦闘向きの人種だ。
「今時、ここまで高ステータスの奴隷は手に入りません。前の持ち主が破産してたまたま手に入れることができた逸品です」
確認するまでもなく高ステータスなのはわかる。
そりゃ戦闘では大活躍だろう。
だが、俺にはオーバースペックだった。
「悪いが、あまり金はない。それから高ステータスである必要もない。人手が欲しいだけなんだ」
「なるほど……。ではもう少しお値打ちなものがいいですね」
老人は再び歩き出し、その先の牢を見せてくれる。
「こちらのドラゴニュートなどはいかがでしょう。金貨20枚です。少し年寄りですが、雑用で戦わせるには十分でしょう」
なるほど、確かに一線で活躍するのは無理だろうが、簡単なダンジョンなら十分活躍してくれそうだ。
だが俺は、長く働いてくれて、成長してくれるような人材を探していた。
なにせ、新しいギルドを作って、これからどんどん成長させていこうと言うフェーズなのだ。
「ステータスはもっと低くてもいいから、若い奴が良い」
「ふむ、では……」
と老人はさらに歩みを進める。
だが老人が次の奴隷を紹介する前に、俺の目に止まった存在があった。
――獣人の少女だ。
年齢的には12歳かそこから。檻の奥でうずくまっている。
だがワーウルフというより、かなり人間に近い。亜人というやつだ。
おそらくワーウルフと人間のハーフ、そんな印象。
少女は、俺に見られていることに気がつくと、虚ろな視線を送ってきた。
「あの子は、いくらだ?」
俺が聞くと、老人は「金貨2枚ですな」と答える。
相当リーズナブルだ。
「そんなに安くていいのか?」
「獣人ですが片腕が動きません。戦闘や労働には不向きですし、かといって夜のお供という需要もあまりありませんからな。使いどころかないののです」
老人はそう説明する。
――これは、かなりのお買い得品だ。
老人は気が付いていないが、確実に金貨2枚以上の価値がある。
騙すようで悪いが、こちらも商売だ。遠慮なく買わせてもらおう。
まぁ、老人も神に顔向けできるような商売はしちゃいないだろう。商品の価値を見抜けないほうが悪いのだ。
「あの子を買わせてもらおう」
俺が言うと、老人は驚いた表情を浮かべる。
「買っていただけるのはありがたいですが、何に使うんですか?」
その質問に正直に答えると、彼女がお値打ち品だとわかってしまうので、適当に濁す。
「まぁ色々な」
すると、何か勘違いをしたのかグヒヒと笑う老人。
「やっぱり、夜のお供ですかね。なるほど、獣人の子供好きでございましたか」
それを聞いて、“安く買うこと”に全く罪悪感がなくなった。
老人は、鍵を取り出して鉄格子の扉を開ける。
そして老人は中に入っていって、少女の腕を取り無理やり立ち上がらせる。
「ほら、新しいご主人様だ。ご挨拶しろ」
「……ご主人様……」
やはり、ちゃんと人の言葉も喋れるようだ。素晴らしい。
「それでは旦那様、早速主従の契約を……」
奴隷は契約魔法で主人に逆らえないようにさせられる。ゆえに、強力な獣人を奴隷にしても、物理的に裏切られる可能性はないのだ。
だが、俺はこの子の「主人」になるつもりはなかった。
「俺との契約はいい。お前との契約だけ解いてくれ」
俺が言うと、老人はさらに驚いた表情を浮かべる。
「契約しない? いくらひ弱とはいえ、逃げられたらどうするおつもりで……?」
「それならそれまでだ」
「ほう……。まぁ買っていただけるのであれば、余計なことは申しませんが」
俺は金貨を老人に手渡す。
老人は「確かに」と受け取ってから、少女に向き直り呪文を唱えて、少女との契約を解除した。
「これで、この奴隷はあなた様のものです」
「ああ、ありがとう」
俺は奴隷商にそう言ってから、女の子に向き直る。
「今更だが俺の名前はレイだ。君は?」
聞くと、女の子は怯えながら答える。
「……リリィ」
「そうかリリィ。じゃぁ、とりあえず(・・・・・)よろしくな」
<ハケン切り>でギルドを追放された雑用係の俺だが、戦闘から経営まで全て学ばせてもらったので未練はない。さて、ギルド経営をはじめたが、部下に好かれすぎて支障をきたすのでギルド内恋愛は禁止にしようと思う。 アメカワ・リーチ@ラノベ作家 @tmnorwork
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