第51 夏日の草刈り
「ユウカ~あぢぃぃぃ」
桂川は夏に入る前の気候の日差しにバテていた。
「だから、止めとけっていたのに。 お前絶対そうなると思ったよ……」
学なんて見てみろと言わんばかりに、彼はせっせと働いていた。
「学はすげぇよな」
お前が動かなすぎるだけだと忠告を入れるとユウカも、草むしりに励んだ。ここの成華公園はグラウンド2面程に広い。 野球をしようものなら2試合は普通にできる。 かと行って全面刈らないといけないかと言うと、そうでもない。 中心は砂利になっているので、グラウンドを囲う周りだけを刈り取ればいい。
近所の子供たちも、学校が終われば手伝いに来る。 そんな小学生の男女のグループがへたる桂川を見て笑いに来たのだ。
「お兄ちゃんもう疲れたの? だっせぇ」
「お兄ちゃん大丈夫?」
「うっせぇ。 お前ら暑くないのかよ?」
「こんなの屁でもないよ。 弱ぇなぁ。おじさんのくせに」
「何だとぉ!}
「わぁ~、逃げろ」
別に桂川も本気で怒ってる訳じゃない、こうやって遊ぶのが彼にとっては娯楽でもあり、こども達の楽しみでもある。そうして追いかけまわした後、バテて休む桂川のもとに、ジュースを持ってくる女の子。 そうしてその子は友達の輪へと帰って行く。 後はお決まりだ。追いかけまわした後、年上連中に桂川が怒られておしまいだ。 なんせ走り回った後は、しっちゃかめっちゃかになっているから。 そこを気を付けられれば桂川も大したものであるのだが……
そして彼女がやってくる。 ピカピカに磨き上げられた車から降りて来るのをユウカは見ていた。 公園の前に止めるわけではなく、もっと遠い人目のつかない位置に車を止めて歩いて来る。 降りてくる人の服装は一般人とさほど変わらない。 だけど彼女が着れば、それはドレスにも見える。
彼女もイベントごとにはよく顔を出す。家がらもあるらしいが、皆と一緒に頑張りたいのだとユウカに言っていた事がある。
「あら、アナタも来ていたのね」
「よう、零錠。 忙しいのにご苦労な事だな」
美人と話すユウカにいち早く気づいていたのは桂川だった。
「おい、そこ! 何さぼって美女と話しているだ」
鼻息を荒くして桂川がやってくる。 皆も桂川の大きな声に注目する。
「って、れ、零錠先輩!!?」
「桂川君だったかしら。 こんにちわ。 ユウカ君の友達よね?」
「あぁ、そうです。 こ、こんにちわ」
桂川は緊張して上がっていた。 なんせ零錠と話せる機会なんとそうそうないので、桂川嬉しさでいっぱいだった。 だけどいざ、喋ろうと思うと言葉が出てこないものである。
「零錠はこういった祭りごとには大体、手伝いに来てるんだ」
そ、そうなんですね。 と桂川は言っていたが、あまり思考は働いていない。そんな桂川は聞くづ手ならない言葉を吐くユウカを摘まんで引っ張った。
「な、何するんだよ」
「お前、何で零錠先輩にため口なんだよ! どういう関係だよ!」
「あ、いや、えっと、零錠先輩」
零錠はくすくすと笑っていた。察してくれたのか、零錠は急に敬語にしたの?なんて事は聞かなかった。
彼女の引き連れた男連中が遅れてやってくると、公園ないのスペースにテントを張っていた。 今日来てくれた、人たちに、冷えた飲み物やアイスを提供してくれた。 零錠が来ると人々の疲れも、消し飛ぶように笑顔になった。
話しながら手を動かす三人。 人数がいると言っても、やはりこのグランドは広い。できる事なら、今日で終わらせたい。 ここでユウカは難題な草に出会った。 これが抜こうにも抜けない。
それを見かねた零条が鎌を貸してくれてた。 こういう優しさが彼女の魅力の一つだ。
「いや、でもびっくりしたよ。 ユウカが先輩の事呼び捨てにするから、まさか、あんな美人な奥さんがいるのに、零錠先輩とまで浮気してんのかと、肝を冷やしたぜ」
「奥さん……?」
零錠の笑いが止まる。笑顔なのに、なぜか辺りがひんやりとした。
「だから、お前ほんとにしつけぇな。 違うって言ってんのに」
「あら、そうなの? ユウカ君付き合ってる人がいるのね」
零錠が話に入ってきてくれたことが嬉しくて、桂川はべらべらと話しだした。いつも一緒に帰ったり、出かけたりしていること。 本当にクールで、でもモデルのような女の子で、一緒に住んでいると。
「あっそう、良かったわね、ユウカ君」
名前を呼ぶ箇所に力強さを感じた。
「へ? っち、違うぞ。 今の全部桂川の勘違いだからな」
「あら、でもお顔が真っ赤なのだけど」
零錠は口を押えて、ユウカの照れる表情を楽しんだ。
「いや~、俺もいきなり見て、びっくりしたんすよ。 こいつ全然言ってくれないから。 俺らは大事な仲間だって言うのに。 な、学」
いつの間にか学も横でうなずいていた。
「さぁ、そんな事より手を動かしましょ。 終わったらみんなでアイスを食べましょ。 持ってきているの」
桂川たちは喜んで草むしりに取り組みだした。それを見て単調な奴らだと思ったユウカだった。
「ほら、ユウカ君も早くしないと、アイスあげないわよ」
「あ、ごめん」
ユウカも草むしりに励んだ。 しかし、また何だいな草に遭遇したユウカは抜くのにてこづっていた。 申し訳ないがと優しい零錠にまた鎌を借りようとお願いしたら、
「嫌よ。 私も使っているもの。 自分で何とかして」
と素っ気なく言われてしまった。 この時ユウカはな零錠が何故か不機嫌になっていると察した。
ユウカは原因を考えたが桂川のついた嘘が原因だとしか思えなかった。
もともと、マンションの費用も零錠に貸してもらってるユウカは、きっと贅沢して、女性に奢って、マンション代などを滞納して払わないのだと、勘違いして怒っているのだろうと、推測した。
その瞬間、ユウカは動いた。このままでは良くないと、本能が危険をかんちした。
ユウカは舞の事は、令嬢の生徒で悩んでいたから、手を貸していただけなんだと、説明をした。 だから人助けの為には使ったが、お金も遊びや至福に使ったりなどしていないと言った。
令嬢はそう。だからどうしたの。とまた草むしりに戻った。
いい時間になったのだろうか。もう夕焼けも沈みかけてきていた。 流石夏に近づくにつれて日暮れが、長くなる。
貯めたゴミ袋はいっぱいになっていた。 令嬢は先にごみ袋をいっぱいにして先にゴミ捨て場の方へと捨てに行っていた。 ユウカもいっぱいになったゴミ袋を持って、捨てに行く。 これで今日の作業は終わりだ。
ずっとしゃがみ込んでいたユウカの腰が気づくと痛い。ユウカはその痛みを感じて今日の達成感を感じていた。
頬に冷たいものが当たる。
「はい。 これ」
横にはアイスの袋を当てる零錠の姿があった。
「あ、ありがとう」
「あ、後これ。 喉乾いてるだろうと思って」
夕日のせいなのか、よくわからなかったがユウカは顔が赤く染まった零錠から、お茶をもらった。 とても冷えて美味しそうなお茶だった。
「おい、こらぁ! 何してんだユウカ! てめぇ、零錠先輩を独り占めしやがって」
「本当にけしからんやつだ」
零錠は2人に、アイスが向こうにあると、今日一日お疲れ様と労うと、ユウカの分は持ってきたのに俺らの分は無いのかと悲しんでいた。
零錠の楽しそうに笑う姿を見て,怒りが収まって良かったと思うユウカ。だけど、どこか切なそうに見えて仕方がなかった。
そこへ金色の髪色をした、身の丈の高い女の子が赤い傘をさしてやってくる。彼岸花のような模様を模したその柄はとても可憐な容姿をさらに惹きたてていた。
「ユウカ~!」
遠くから可愛い声が聞こえた。 無論ユウカはこの声に聴き覚えがある。
「ここに居たのか、ずっと待っていたのに今日は帰りが遅いから心配したぞ」
桂川と学はその女性を知らない。 また女性がユウカの前に現れたと、唖然としていた。
「お前、何でできたんだ! それにまだ夕日出てるのに、何やってんだよ」
ユウカは急いで大人エリィーの元へと向かうと、帰るように促す。
零錠はあれが舞だと言う人なのだなと認識した。
「自分だけ美味そうなものを食べているな。 少しくれ」
そう言ってユウカの手に持っていたアイスをエリィーは食べた。桂川、学、零錠は関節キスの光景に目を開く。
「おい、お前な……」
「ユウカ君そちらの女性が、舞さんと言う方なのね」
「え、いや、違う?零錠? またなんか怒ってないか?」
「別に怒ってなんかないわよ。 彼女さんなら、そうと言ってくれたらいいのに。どうして、さっき嘘をついて説明なんてしに来たのかしら。貴方の言葉を信用してしまった私に嫌気がさしただけよ」
さらに誤解が誤解を生んでいる。
「こいつは舞じゃなくて、」
「おい! ユウカ!どういう事だ。こんな美人な外人さんと知り合いとか聞いてないぞ! 誰なんだ!!」
ユウカを問い詰めるのは零錠だけではない、二人も急に現れた女性との関係を問いただしにユウカに迫る。
エリィーはにっこりと零錠を見つめていた。
「私はエレーナだ。 こやつとは一緒に住んでいる。 皆の者、よろしくな」
辺りが凍り付く。 桂川は舞と言う女性がいながらと、ユウカの首を泣きながら絞めにかかってきたので、しばいて大人しくさせると。 事を話した。
「こいつ、1人勝手に留学して来て、一人で困ってたからちょっと面倒見てやってて……」
皆は驚いてたい。 この嘘がまかり通るかユウカは内心肝を冷やしていたが、桂川達はすんなりと乗ってきた。 おかげで空気は海外留学生と言う認識で周りを包んだ。
「それにしても日本語ぺらぺらですごいな」
「うむ。親しんでいるからな。 ところで皆何をしておったのだ?」
エリィーは興味深々に周りを見ていた。 かと思うとまた、パクっとユウカの手に持つアイスを食べた。
あぁぁあぁ、と言う叫び声と共に桂川を自分のアイスもどうぞと差し出していた。 エリィーは嬉しそうに食いつこうとしたが、燥ぐ子供たちに目を奪われた。
「ねぇ、いいんだけど、いつもこんなにべたべたくっついている訳?あなた達」
「こいつ、海外育ちだからスキンシップが激しくて。 まぁ、こんなやつなんで」
「こんなやつとは失礼だろ、お前」
「でも、めっちゃ身長高いけど、高校生? 大学生か?」
学は、いくつの人なのかと、問うてきたので、ユウカはとっさに同い年だと言った。
「ふ~ん、それであなた、学校はどこに行っているの? 見たところ制服じゃないみたいだから、一度家に帰って着替えて来たみたいだけど」
「ん? 学校なんぞ、行っておらんぞ。 私はユウカのいえで――――」
「わぁぁあぁぁぁあ、こいつ、結局何も知らないで飛び出してきたもんだから、学校行けてねぇんだよ」
「え? なんだよそれ。 可哀想じゃん」
本当に桂川がいると助かるとユウカは思った。
「そう、なの。 で、今どの辺に住んでいる子なの?」
ユウカの家――――と言おうとするエリィーの言葉を遮りユウカが説明した。
「俺の家の近くだ。 近所の人の所の一軒家のおばさんの家が、彼女の知り合いで、そこにホームステイしているみたいで」
零錠は頭を悩ませた。
「そう? それなら、なぜホームステイした先の人は学校へ行かせてあげてないのかしら」
まずい発言をした。 ユウカは頭をフル回転させる。
「実はおばさん、忙しいらしくて、すぐに仕事で海外に行ってしまったらしいんだ」
零錠はまだ腑に落ちなく何か言いたそうだったが、私もアイスを食べたいと言うエリィーの言葉に話が中断した。 ユウカは、エリィーをアイスのある所まで誘導する。
「おい、お前、本当に何しに来たんだ!? 出てきたらお前の正体をばらすだけだろ」
「構わんではないか。 ばれて何か問題でもあるのか?」
魔力を取り戻したからだろうか、エリィーはとても強気な眼差しでユウカに話しかけていた。
大ありだろ。とユウカは伝えたが、エリィーは特に気にしていなく、嬉しそうにアイスを選んでいた。エリィーは特に草むしりをやった訳ではない。
時刻は18時半を過ぎて、全ての草を刈り、お開きとなった。
ユウカが気づくとエリィーの姿がなかったので、どこにいったのかと気にしていると、桂川たちが後ろから絡みついて来た。
「おい、あのかわいい子を紹介しろ」
また、面倒くさい話になりそうだと思うユウカだった。
夜になってエリィーに問い詰めると何やら日の光に当たってもあまり燃えなくなったと言い出した。
次の日、学校には熱風漂う熱さで、生徒たちは動く事すらしなかった。先生はいつものように変わりばえなく教室に入ってくると、HLを始めた。
「今日は転校生を紹介する」
また何やらしょうもない話が始まると、熱さのせいで生徒たちは聞く耳すら持たなかったが、急な転校生来日の話しに一斉に教卓を注目した。
「それじゃぁ、入りなさい」
入ってきたのは、モデルかと思うほどに足の長い白人で、お人形のような顔をした、金髪の女の子だった。身長は男子を悠々と超えそうなほどに高い。 誰もが、その姿に息を飲んだ。
「転校してきたエレーナだ。 皆の者よろしくな」
血鬼 ブラッドバッド ―守り抜くと決めたから。たとえ君が何であっても、― AIR @RILRIL
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