第一章 第2幕

第50 いつも唐突で



 ユウカはバイトに勉学に励んでいた。 相変わらず星は学校で彬良と言う男と一緒に居た。 見かけるたび、何かしら心の淀みをユウカは感じていたが、自分に勉学第一と言い聞かせてはしのいでいた。


 

 舞はと言うと、相変わらず、の関係が続いていた。 猛暑照り返す夏にぶちあったって、受験生達は蒸されていた。 



 「あちぃ~ エアコン」


 外は猛暑でゆらゆら地面が揺れる。 まるで蜃気楼でも見ているように。 だが、家に帰れば天国という訳でもない。 部屋の扉を開けると、熱風が押し寄せてくるからだ。  


 今日も勉学に励むため、食事は簡単なものを食べる。 だから買い物にもいかず真直ぐ家を目指した。 少しは後れを取り戻さなければ、大学がどんどん遠のいてしまうと言う焦りも、勉強すればするほど感じていた。

 いつもの事だが、玄関を空ければ熱風がなだれ込んでくる、これを耐えたその先に、エアコンがある。 覚悟を決めて、熱風へ飛び込んだ。



「あれ? 涼しい?」



 どうやユウカはエアコンをつけっぱなしで出たらしい。 電気代がかさむ。 今日ぐらいはいいかと、荷物を下ろしに部屋に入った。 なんせ、これで一気に勉強に集中できる。 エアコンが聞くまで違う事をしていた日々より時間の使い方は効率的だ。 


「あ゛ぁ~~ 涼しい」



 こけるユウカ。ずるずると煙を上げて床を滑りこける。



「だ、だれ?」



「おぉ~おかえりぃ ユウカ!」


「エ、エリィ?」


 以前に出て行った、エリィーの姿があった。 人の家で勝手にくつろいで、エアコンまでつけて。


「お前、……なんで? 無事だったのか」


 

「うむ。 なんとかな。 いや、酷い目に逢ったがな」



 ユウカは目を細めた。 



「お前本当にエリィ-か?」


 ユウカは蜃気楼か何かが発生しているのではないかと思った。


「何を言っている、失礼な。 どこをどう見ても私だろ」


「俺の知ってるお前とは色々違うんだよな。 身長とか、背の高さとか、俺を追い抜いているとか」


「バカもん! これで普通だ。 あの小さかった方がおかしかったんだと言うておろうに」


 どう見ても。成長しすぎているエリィ-らしきものは、なぜか違和感でしかないユウカだった。


「だけどよ、いきなり成長して、エリィ-って言われてもな」


「うむ。 そうだな。 だが、とりあえず消えゆく死は。乗り越えられたようだな。 なぜか魔力が戻ってきたのが分かる。

 これでお前も守ってやることが出来るぞ 」


「もう、子供の姿に戻ったりすることは無いのか?」


 エリィ-はにんまりと目を細めた。


「なんだ、もしやお前、子供の私に惹かれていたのか? そうか、そっち系か」


「じゃねぇよ」


「つうか今まで何してたんだよ。 


 エリィ-は今までのいきさつを話した。 結局の所、一人で、全てを解決しようとして、穴を探したりなんだのしていたらしいが、エネルギーが付きてユウカの家に来たらしい。 



「お前な、もう勝手に1人で行かないって約束しただろう。 たく、どれだけ心配したと」



 その表情を見た時エリィ-は心の底から悪い事をしたと思った。



「すまん。 魔力も戻ったからどうしても一人でできると思ったんだ。 フランも変わってしまったしな、これ以上私の事でお前に迷惑を掛けるわけにはいかないと」



「だからそれをしない約束だったろうが」


 ユウカは頭をポンポンと撫でた、 だけど、……高い。 ユウカは前とは同じような気持ちでは撫でれなかった。


 エリィ-は嬉しかったのか甘えたようにユウカに抱き着く


「なぁ、ユウカ、今日も食べていいか?」



「ん? 御飯の事か? だったらいいけど、つうかお前ん家なんだからそんな事聞く必要があるか?」


 ユウカは不思議な事を聞くと思った。 だけど、それよりも無事で戻ってきてくれてた事が何よりも嬉しかった。


「そ、そうか。 やはりそうなのだな……」


 フランは寂しそうな顔していた。 


「ん? どうかしたのか?」


「いや、何でもない」



「ったく、じゃあ飯でも作るか」


 っと前の調子で冷蔵庫を開けてみたら具材が空っぽ。 二人は仲良く買い物に出かけた。




 次の朝目覚めるとなりにはエリィーがしっかりと居た。 夢ではなく。 ちゃんと居るのだ。 ただし、一緒に寝ていると言うのは問題だと、ユウカは飛び起きた。 それに気づいてエリィーも目をこする。


「お、お前何で隣で寝てるんだよ」


「ユウカかぁ。 おはよう」


「おはようじゃねって」


「何を照れているのだ? いつもこうして寝ていたじゃないか」


「バカ。小さいと時と一緒にするな。 もうお前大人みたいなんだから、ちゃんとしろ」


「いいじゃないか。 昨日はちょっとしかしていないぞ」


「ちょっとでもぎゅーって抱き着くな」


 エリィーが成長した姿は思春期のユウカには恋愛対象そのものである。 なんせ見た目はままんま人間そのものだ。



「昨日はユウカから抱き着いて来たんじゃないか」

 

「な、なんだって俺から!? そんな訳ないだろ」


「何を言っている。 あれは相当、思いっきりだったぞ。 逃げる私を思いっきり抑え尽きえて」


 マジか、とユウカは自分を疑った。確かに、布団を引かず、雑魚寝で床に二人寝ていた。 エリィーが腕枕にしていた腕が痺れる。


「はぁ、ふざけるな。そんな事するはずがない。 あの後、飯食って、風呂入って、勉強していた後

お前に呼ばれて、遅い時間にテレビ見てたから、俺も一緒に見てただけだろう」


「その後だ」


 エリィーは興味津々な眼差しでユウカをみていた。 


「その後、……、俺どうしたんだっけ? 気づいたら朝で、お前が寝ていて」


「ほれ見ろ」



「どこが、ほれ見ろなんだよ、どこにも襲った記憶なんてない!」


 ユウカは支度をして、学校へと向かった。


 





 星が生徒会の準備もなく普通に登校していた。  彬良のおかげもあってここ最近は仕事が速く片付いて来たのだ。


 だからだった。 詩野達から、思いっきり押された星はその場でこけてしまった。


「えっ、超ださい、なんも無い所でこけてるとか」


「ウケる」


「足元気を付けなよー」


 そう言って彼女たちは去って行った。ついでに前にあった袋の入れ物を足で蹴っていった。 中に入っていた書類やノートがあたりに散らばる。


「うわっ、あぶない。 こんなとこに鞄とか、私もこけるとこじゃない。 こんなとこに置いとくとか危ないでしょ」


 三人はそう言ってお構いなしに学校へ入っていった。

 星はただ黙って鞄を握りしめて、一息つくと、一人で書類を拾った。


 その時たまたまだった。 今日はもしかしたら会えるかなと期待していた彬良が、生徒会室を出て教室に移動していた時、偶然星と詩野達を見ていた。



 星が黙って拾っている時だった。 


「未来さん?」


 男性が声をかけてきた。


「ユ、……ユウカ君?」


 それはユウカだった。


「なにしてんだよ」


 ユウカが慌てて駆けつけると、一緒に書類を拾ってくれた。 


「あ、ありがとう」


 星は嬉しくて、我慢していた涙をこぼしてしまった。


「これ、何があったの?」


「ちょっと、転んじゃって。ものいっぱい持ってたから。 ドジだよね私」

 

 ユウカは黙って聞いていた


「怪我は? どこも痛い所ない?」


 星は一瞬俯いて顔を隠した。


「う、うん……」


 そして顔を上げると笑顔で答えた。


「大丈夫。 ありがとう、ユウカ君」


「ならよかった。 これで全部だよね」


「うん。風で飛んでなければだけどね」


 無邪気な笑顔で返してくる星にユウカは心を打たれていた。


「とりあえず、こっち、保健室行こっか」 


 ユウカは舞の手を引っぱて行った。


「ちょっと待って、ユウカ君。私別に怪我してないし」


「膝と肘、すりむいてるでしょ。 結構ひどく。 だからダメだよ。 行っとこ」


 星は黙って照れながら。ユウカに引っ張られるままついて行った。


「はい。終わりだよ。 あんた、ほんとに大胆にこけたんだね。 何だい?ドジっ子かい」


 この学園の保健の先生は女性だが言動がいちいち逞しくて人気だ。


「あのっ、あ、……そ、その、えっと」


 星は照れながらあたふたとしていた。本当に小動物とはこの事だなとユウカは見ていて思った。 

 その後は星は職員室に届け物があると2人は分かれた。

「もうこけるなよー」


「へへっ、こけないよぉ~。 ありがとう」


 そう言って去って行ったとき、また星と少しく慣れた気がした、ユウカだった。 いつもユウカに敬語で話す、気を使って話す話し方じゃなかったからだ。




「なぁなぁ、ユウカ、今日は楽しそうだな。 なんかあったのか」

 

二限目が終わった時だ。 出た。 まとわりつく桂川。 だが居は桂川よけスプレーを持ってきている。と言って桂川にスキンガードを振りかけた。 


「うわっ。 なんだよ、お前、くせぇ。 なんつうもん持ってきてんだよ」

 以外にも人間の桂川にも聞いた。


「これ、虫よけスプレーなんだけど、桂川にも効くんだな。 ……やっぱりお前って」


「そんなもの顔にかかったら誰でも嫌がるわ。 大体、やっぱりってなんだよ。お前俺の事そんな風に見てたんか!!」


「と言うか、本当に何でそんなもん持ってきてんだ?」


 学もスキンガードを持つユウカに疑問を抱いた。


「帰りに公園の掃除があるんだよ。 ほら、これから夏祭りが始まるだろ。 それに向けてさ」


 二人は顔を合わせて驚いた。


「お前そんな事やってんのか?」


 桂川は楽しそうと言ったように聞いて来た。


「来年受験だぞ。俺たち」


「まぁな。 だけど、ほら、学校の休校とかで結構勉強出来る時間はあっただろ。 それに、気分転換にもなるしな」


「何だよ。楽しそうな事やってんな。 俺も行くわ」


「何でだよ。別に楽しくねぇって。 草むしったりそんなんだぞ」


「ほんで夏休みきたら、俺らが掃除した場所で皆が祭り楽しむんだろ。 めっちゃ素敵じゃんか」


 どことなくユウカは桂川が飽きて止める姿がイメージできた。


「お前らちゃんと勉強してだな……、」


「じゃあ俺らで行くから学ぶ勉強だな」


「えっと、……なんだ、俺も今日は勉強のやり過ぎだから気分転換に行こうかなと……」


「何だよ、結局来るんじゃん」


 結局三人は一緒に行くという事だ。





 その頃星は黎たちと移動していた。 


「選択だるいなー」


「そんな事言わないの黎」


「よ、星」


 前から彬良が歩いて来た。彼はいつも通り、小説しか持っていない。いったい何をしているのか。まるで学園内をうろうろしているだけにしか星には見えなかった。


「あれ?彬良君?」


「次選択か?」


「うん。そうだけど」


 周りの女子は彬良に釘付けだ。無論黎も驚いている。


「どうした? その傷?」


 彬良は星の足の包帯を見て伺う。


「ちょっと転んじゃって。 ドジだから私」


 星はなんてない顔で頭に手も当て、笑っていた。


「ふ~ん」


 彬良の表情はとても冷たく見えた。


「明日は来んの?朝?」


「う~ん。わかんない。 今日の仕事量次第かな。 それじゃ私達、移動だから」


 星は彬良と仲良さそうに話していて、どれだけ周りの女子が羨んでいたか等、知らない。


「そっか。 じゃな」


 急に彬良は素っ気なくなった気がした星だったが、特にそのことに気にはしなかった。


「だ、誰よあれ」


「ん? ほら前にカラオケで話した彬良君」


「え?あれが彬良君?? 話には聞いてたけどイケメン過ぎない? 想像の遥か上なんですけど」


「えぇ?そうかな?」


 星は笑って疑問視しているのを見て黎は思った。


「あんた絶対、学校生活大変になるわ」


 星は何のことだか全くわかっていないように、笑っていた。


「てかさ、こけてその怪我とかださすぎない? どんだけ子供なの星ちゃんは」


「わ、私だってこけることぐらいあるよ。 まぁちょっとこれは大分こけ過ぎだけどね」


 星はいつもの素敵な笑顔で笑っていた。 


 事業中何やら、手提げの中をごそごそとしている星がいた。こう言った事が多い。


「ごめん黎! ノートと教科書貸してくれない?」


「はぁ? また? 最近忘れ過ぎじゃない?」


「ご、ごめん。 生徒会室に復讐で持って行って忘れてきちゃった」


 黎はため息をつきながら、教科書とノートをちぎって何枚か渡した。


 授業が終わると、黎は星を呼び止めた。


「星、やっぱり嫌がらせ受けてるでしょ」


「な、なんでそんなことないって」


「じゃあ手提げのそのノート見せてくれる」


「いや、だから入ってないから」


 黎は手提げを取り上げると、中のノートを取り出した。


「入ってるじゃん」


「それは……私の日記だから。 見ないで」


「日記? 何でノートに日記なんて書く訳? 星そんな事絶対しないでしょ」


 星は顔をしかめる。 


「日記ていうか色々見られたくない事書いてあると言うか……

 だから、見ないで。 お願い、黎」


「ごめん星。見るよ」


 この時ばかりは星も必死だった。


「黎、止めて」


 黎がノートを開くと、そこには、罵声や、黒や赤のマジックで使えないほど乱雑に沢山の線や円が書かれていた。ノートすべてにである。


「あんた。やっぱり……」


「ち、違うの、これは」


 黎は怒りにかられたように、星の手提げの中の教科書を自分のもののように取り出して勝手に開いた。

 落書き。なんてものだけじゃない。 教科書の何枚かは破りちぎられていた。


「星……これはいつからなの? その傷もやっぱり自分でこけた訳じゃないでしょ?」


「……」


 星は黙りこんでしまった。


「星!」


 黎はまるで自分の事のように怒っていた。 それが、まるで星自身が起こられているような感覚に星は脅えていた。


「先生ん所行こ」


「嫌、待って黎! それは止めて」


 星は必死に止めた。 星いわく、大事にしたくないと黎にいった。だが黎は

ここまでやられてそうする星の気持ちを理解できない。

 普通ここまでされたら命の危険だって考えてもいい。 それのこれはあまりにも辛すぎる。 星はこれをずっと受けていたのだと思うと、その悲しみにぞっとする。


 だけど、今まで以上い星は黎を必死に止めた。 もう少しだけ待ってほしいと。その本気の意志に黎は押し負け、その日は黎の胸の内でとどめた。


「なぁ、飯だろ さっさと食おうぜ」


「あ、月!」


 月がコンビニ袋を提げて二人の前に来ていた。そっちの選択は終わったのかと星が聞いていた。 今日一限目の体育が終わってから待ったっく月とは合わなくなっていたので2人はどこに行っていたのかと伺った。


 月は女子なのだが、見た目がかっこよくて女子にモテる。それは零錠でも変わらなかった。 何かと女子からモテるのだ。


「どうせ月の事だから、また女子につかまってたんでしょ」


「いんや、俺はただ、うちの生徒をいじめてたやつを懲らしめてただけだ」


 月は正義感も強い。 日常は無口だ。だけど、まがった事や、弱い者いじめなどは許せないので、堂々と突っかかっていく。そう言う女の子だ。女の子なのだ。


「もう、いっそのこと、男子でもいいんじゃないの」


「黎! それは良くないよ」


「ん?別にどっちでもいいけどな。 男の方が楽かもな」


「ちょっと月までぇ」


 三人は中よくお昼を食べた後、星は職員室に用事があるからと、先に抜けて職員室を目指していた。


 先生と話して、頼まれ事の荷物を取りに行ってまた戻る途中だった。 一階に向かっていた時の事だ。体が軽く浮いた。16段ほどある階段がコの字に連なっている。 手が荷物で塞がっているので、受け身は取れない。落ちれば確実に頭をぶつけてしまう


「うわぁ、」

 

 星は目を瞑って恐怖を遮ろうとした。 自分では何もできない。 


「おっと、あぶねぇ」


 星の脇を抱える様に、腕の間に手を入れ、彬良が受け止めてくれていた。


「え? 彬良君!? あ、ありがと……うわぁ、」


 彬良はそのまま星を引き上げる。 星は落ちかける寸前だった。 そのまま彬良の胸元で抱かれる。


「お前らさ、最低だな。 こんなことやってて楽しいか?」


「えっと、何で。 私達たまたま通りかかっただけで、そしたら桜華さん落ちかけてたから驚いて」


「そ、そうそう」


「俺さこういう事する人ほんと嫌いなんだけど」


「な、何言って……私は何も……」


 詩野達は驚きながらも自分たちはやっていないと言い張った。だけど、彬良には一言一句届くことは無かった。


「俺見てたから、お前らが、星突き飛ばした所。 こんな危ねぇ事してけがでもしたらどうすんだよ」


 彬良の起こった顔は女子たちに多大な恐怖を植え付けていた。大きな声が聞こえてくると、生徒たちは何かあったのかと注目する。


「あ、彬良君もういいよ。私大丈夫だったんだし」


 だんだんと人だまりができ、そして周りを囲う。


「そ、その……」


 詩野は涙目で彬良に訴えかけた。 嫌われたくない。私は違うの。と。


「星のこの怪我もお前ら何だろ? 違うのか」


 詩野は息を飲んだ。 それは違うとハッキリ言えなかったから。


「あのさ、別に詩野の事、嫌いとか言ってる訳じゃないけど、こんな汚い事平気でする人は嫌いだな、俺」


 詩野の瞳孔がしぼんでいく。 その瞬間、防衛本能から、星への怒りがこみあげてくる。

「ちょっと待って、そうやって、この子猫かぶってるんだから。 自分が被害者ぶって、こうやって他の人陥れるんだよ」


 そうなの、星?、と彬良は聞きたかったが、俯いてただ黙って耐える星を見た彬良は、そう聞くのをやめた。 彬良はしっかりと詩野を捕えていた。


「あのさ、もうやめとけよ。 俺弱いものいじめするやつが一番嫌いだって話した事あるよな。 お前も言ってなかったか。 今のお前、それだぞ」


 詩野の体が一瞬震える。 きっと自分でも感じているところはあるのだろう。 やってはいけない事だと。 悪い事だと。 だけどどうしても止められない。 目の前に居る悪魔は、自分の大切な人を奪っていくからだ。何としても守りたかった。 そう思うだけで、自分が、攻撃されている様で、許せなかった。


 その内がガヤから声が漏れてくる。 なんだ?またいじめか? 最近酷いよね、あれ成華の生徒会の人でしょ。違う学校だからってだけで目の敵にするのほんと最低だよね。 何だよ。 なんかアイツ生徒突き落そうとしたみたいだぞ。酷い子とするよな。 最低。


「……ち、違う。私は……」


 詩野はすがる思いで幼馴染だった彬良を見た。この状況から助けてほしかった。


「星に謝れ」


 しかし、詩野に突き付けられた言葉は、詩野の思う言葉とは真逆だった。その言葉に詩野の心は割れた。 込み上げる涙が止まらない。自分は悪くないのに。何故、なぜ? 大好きな人が奪われるのを守りたかっただけなのに……、なぜあなたは悪魔の見方をするの? こんなに思ってきたのに。 その声は大きく彬良に当たりかかった。


「どうして、何で彬良はその子をかばう訳? そいつは何なの? どうせ好きなんでしょ。 だからか、そうなんでしょ? 好きな女だもんね。 肩持つよね」

 流石に詩野は言い過ぎた。横に居た水野と神木も言い過ぎだと止めようとした。 詩野もここまで言うつもりはなかった。 だけど口が勝手に、思っていることをどんどんと吐いてしまう。まるで何か妖怪にでも取りつかれたように。

 当の彬良は冷たい真顔をしていた。 相当言いたい事を言われ、挙句に、嘘までついた彼女を彼がよく思う事は無かった。 彼が思ったのは救いようがないだ。


「あぁ、好きだよ。 俺は星が好きだ。 何も間違っちゃいない。だけどそんな事でじゃねぇ。 人に怪我させて、数人で、大人しくしてるやつ寄って集って、虐めて楽しんでるおめぇらみてーの行動見てんのが一番腹が立つんだよ」

 彬良はここ一番の睨みを利かせた。 まるで孤高の狼のようなその瞳は、思いを一気に刻み付けるほどに鋭い。


「お前ら、次星に何かしやがったらただじゃ置かねぇ」


「な、なによぉ……」


 詩野はそう言って囲う生徒の包囲網を割いて走って行った。 水野と神木も気まずそうに後を追う。


「よ、よかったの? 彬良君…… 私は大丈夫だったのに。 これじゃあ彬良君まで……」


 それを聞いた彬良はお腹を抱えて大笑いした。


「あっはははは、 星、お前、本気で言ってんのか。 どこまで他人想いなんだよお前」


 彬良は優しい表所を浮かべると。星の頭の上軽く手を置いて撫でた。


 「俺の事は気にすんな。 お前また何かされたら、絶対俺んとこ来い。 もうこんなひどい事させねぇ」


 それはととても優しくて、心地の良いものだった。 星はしばらく顔を赤くしてうつむいた。


「だけど、……いいの。 あの人、詩野さんだっけ、泣いてた」


 星の瞳は純粋な瞳で彬良を見ていた。 


「はーい。お前らも見世物じゃないぞ。 ほら散った、散った。 俺が恥ずかしいだろうが。 お前ら、今日の事大きくするんじゃねぇぞー」


 だらしなーい感じでぽっけに手を突っ込んで回りの生徒を解散させる彬良。


「彬良君やっぱりかっこよかったよね。」

「うん。 ほんと王子様みたい。 いいな、あの子、私もあんな風に彬良君に守られてみたい」


「流石彬良だよな、丸く収めやがった」

「彬良が言うなら大事にする事じゃないな」

 そうぼやきながら生徒たちは散っていった。2人きりに、なった時、彬良は恥ずかしそうに星に近づいて行った。


「あ、あのさ、さっき言った事だけど、俺……」


「ん?何のこと?」


  星は分かっていないようだった。 表情を見ればわかる。 ガチの奴だ。彬良は溜息をつきながら、少しほっとした。 ちょっと残念だったが、今回の事はこれで良いと思った。 


「別に何でもない。 行こうぜ」


 星の肩に手を回して、一緒に職員室を目指した。 


 職員室前。

「はぁ、ついたぁ~。」


「何だ星、めっちゃ疲れてるな。 やっぱさっきの気疲れか」


「ううん、書類が重くて」


「あっ、……」


 星は首をかしげていた。 と言うより、早く、職員室の扉を開けてほしかった。


「……俺も、持つよ」


 ――――星の心の中。


「い、今!?」


もう職員室の前なのでその必要はなかった。 それより早くドアを開けて欲しい星だった。

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