第71話 次なる地へ!
幻のアスモデウスが、手にした巨大な剣を振るう。
セシリアがこれをかい潜りながら、敵の目を引きつける。
後方からはエノアが弓による支援を行い、敵に自由な行動をさせない。
そしてセシリアが攻撃を食らったと見るや否や、いつの間にかマナディアが近くにやって来ていて、杖の先から放たれる癒やしの魔法が傷があるであろう箇所を癒やす。
「かなり完璧かも知れない」
「カイル兄ちゃんずっと見てるだけじゃない!
お兄ちゃんも参加して!」
「あっ、はい」
マナディアに叱られてしまった。
あれっ、そう言えば、俺を面と向かってこうして叱るのはマナディアだけじゃないだろうか?
セシリアは無限に甘やかしてくるし、エノアは空気を読んであまり触れてこなかったりする。
英雄姫によって、俺への対応の仕方もみんな違うのだ。
「どれ、じゃあ、性能が上がった俺の力も見せてやる!」
マナディア登場以降、ずっとサポートに回っていた俺である。
自分でも、どこまでできるようになっているのか把握していない。
「行くぜ!」
幻のアスモデウス目掛けて走る。
すると、俺の動きを察知して、ヘルプ機能が必要な魔法を詠唱し始めた。
俺の足が宙を踏む。
飛行魔法ならぬ、空中歩行魔法だ。
空は地面と違って、踏めば踏むだけ加速していく。
「おおおおおっ!!」
スマホから展開した光の刃を構えて、アスモデウスへ切りかかった。
敵も、振り上げた刃でこれを迎撃する。
だが、スマホの剣がぶつかりあった瞬間、俺の周りの空気の流れが変わる。
俺の姿にダブって、幾つもの俺が出現して、それがアスモデウスの剣に光の刃を叩きつける。
分身攻撃みたいな感じだ。
連続して、俺の全力攻撃みたいなのを受けたアスモデウスの剣は、一瞬でへし折れた。
「何だ今の!?」
『英雄姫を支援するリソースを、全て勇者カイルに用いました。勇者カイルの運動エネルギーを連続復元することで、任意の攻撃のダメージを倍加させることができます。“
なるほど、OSの性能が上がったことで開放された機能らしい。
これを使うと、俺の攻撃の威力は一気に跳ね上がるが、その分だけみんなを支援できなくなる。
「やるじゃん、カイル兄ちゃん!」
「カイル様すごい! 黒貴族の剣を一撃なんて!」
「今、カイルくんがたくさんいなかった?」
英雄姫たちは、口々に驚きを伝えてくる。
まあ、こいつはあくまで幻のアスモデウスで、それに俺の攻撃は何発も連続で叩き込まれたんだけど。
『トレーニング用の幻は、実体を有しています。実物とは強度が異なりますが、速度と質量は現実の対象と大差ありません』
「おいおいおい、つまり、本物の黒貴族を再現してるのか。とんでもないな……」
幻の動き自体は、作り出した時に外部演算機能みたいなのを与え、独自に動かしているらしい。
そのぶん、一定時間で演算機能の電池らしきものが切れ、動かなくなるらしいのだが。
「よし、じゃあ、続き!」
『訓練を再開します』
律儀に待ってくれていた、幻のアスモデウス。
再び動き出した。
今度は、俺と英雄姫、全員で合わせての訓練だ。
アスモデウスの剣が再生し、セシリアに向けて振るわれる。
同時に、俺にはやつの口から吹き出した炎が見舞われた。
「理力の壁を!」
光の壁を展開し、俺は炎を防ぎながら空中から敵に肉薄する。
セシリアは剣を槍でいなしながら、低く構えてその下を猛スピードでくぐっていく。
遥か上と、地を這うような下からの同時攻撃だ。
頭を打たれ、足を薙ぎ払われ、アスモデウスがよろけた。
そこに、放たれた強烈な一矢が突き刺さる。
エノアの矢は、強力なものならば射撃と言うより砲撃といえる威力がある。
アスモデウスの巨体が一瞬、浮いた。
「セシリア!」
「はい、カイル様!」
俺の呼びかけに応えて、セシリアが跳躍した。
アスモデウスを連続で斬りつける俺。
斬撃の合間に、隙間なくセシリアの槍が放たれる。
間断のない、超連続攻撃!
俺たちのコンビネーションを受けて、アスモデウスは断末魔みたいなものを叫んだ。
幻が消えていく。
「よし、これで戦闘終了か」
『幻に設定された耐久力を超過したダメージを受けました。形状の維持が不可能です』
どうやら強制終了させてしまったらしい。
だが、これで分かった。
今のメンバーなら、アスモデウスのレベルは正面から押し切って勝てる。
これはアスタロトであっても同様だろう。
「終わりだね! おつかれさまー!」
マナディアは無邪気に叫ぶと、ポンっと音を立てて煙に包まれ、いつものマナとナディアに分かれていた。
うーん。
ブレイブグラムが生んだ奇跡なのは分かるが、あの煙と、合体の仕組みはなんなんだ……。
「カイル様とのコンビネーション、良かったですね! あれならどんな相手でもいちころです!」
セシリアは、最後の攻撃の感触を確かめるように、槍を握ったり振ったりしている。
こちらも戻ってきたエノアも、満足げだ。
「うちら、全体的に隙が無くなってきたよね。
今までちょうど足りなかった隙間を、マナディアが埋めてくれた感じだよ。
めちゃくちゃじっくりと敵を狙っていられる。
キャノンショットは溜めに時間がかかるんだよね」
最後のあれはキャノンショットというのか。
キャノンというからには、この世界には大砲があるのかな?
『あります。ただし、人間同士の争いでしか使われることはありません。大砲の精度が低く、狙った場所に命中しづらい上、大量の魔力を必要とするからです』
「火薬じゃないんだ……」
『魔法が発達した世界において、火薬を開発、運用するメリットがありません』
納得した。
もっと安易な代替品があるなら、運用と管理に手間のかかる火薬は使われないってことか。
考え込んでいたら、仲間たちが俺の周りに集まっている。
「カイル様。これで準備は整ったと思います。
さあ、ご決断を」
みんなを代表して、セシリアが俺に告げる。
決断というのは、次に向かう場所ということだ。
休養は充分。
戦闘の準備も充分。
それならば、次は新たな目的地に向かって旅立つだけだ。
「よし、目指すのは聖王国エルベリス!
みんな、行くぞ!」
おーっ、と元気な掛け声が、俺の声に唱和した。
聖王国は、英雄姫たちが任命される……言わばこの世界の中心みたいなところ。
色々な情報が錯綜してきているこの旅だが、また新事実みたいなものが分かったりするかも知れない。
────────
ここまでで、ひとまず書き溜め分が終わりです。
機会を見て、マニュアル無双と同じような頃合いにちょこちょこ更新できればと思います。
最強勇者の異世界スマホ冒険記~SNSでヒロインと繋がるほど、俺は強くなる~ あけちともあき @nyankoteacher7
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。最強勇者の異世界スマホ冒険記~SNSでヒロインと繋がるほど、俺は強くなる~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます