最終話:村娘、帰還する
お城に帰ってきたわたしを出迎えたのは、ポケーっと口を半開きにしたアリスとアリシアだった。
アリシアはともかく、アリスがこんな気の抜けた顔を晒すのは珍しいなぁ。
「み、ミナリー、あなた、もう帰ってきたのですか!?」
「ふぇっ? あ、うん。ただいま」
腑に落ちないと言いたげなアリスは落ち着かない様子で「とりあえず我が王を呼びに行かなくては!」とお城の奥に引っ込んでしまった。
残されたアリシアは未だにポケーっとした顔をしている。
えーっと、どうしよう?
「あ、ただいまー、アリシア?」
わたしが声をかけると、アリシアはハッとした様子でわたしを見た。
その途端、ガシッと、わたしはアリシアに抱き着かれていた。
「ちょっ!? どうしたの、急に」
「べ、別に何でもないわよっ!」
「……えーっと、もしかして、わたしが居なくて寂しかったとか」
「は、はぁっ!? さ、寂しいなんてそんなわけないじゃないっ! あんたが居なくたって、あたしにはお姉さまとシュード様が居るんだから! だから全然っ、寂しくっ……なんか! ない……んだからぁっ! う、うぅっ……ぐすっ……うぇええええええんっっっ!!」
「やっぱり寂しかったんじゃん」
「寂しかったわよバカぁああああああっっっ!! うわぁああああああああああああんっ!!」
「……うん、まあ、その、改めてただいま、アリシア」
泣いているアリシアをなだめながら待っていると、エントランスの階段からアリスを従えた王様が降りてきた。
「来てくれたんだな、ミナリー。シルヴァは一緒じゃないのか?」
「シルヴァさん? どうして?」
「どうしてって、もう縁談を受けてきたんだろ?」
「え、断ったけど」
「ああ、だからてっきりシルヴァが一緒なのかと…………え、今なんて言った?」
「シルヴァさんとの縁談なら断ってきたよ。と言うか、初めからそのつもりだったし」
「…………そう、だったのか?」
「うん」
驚いた様子で目を丸くする三人。
そんなに意外なのかなぁ?
「ど、どうして断ったのですか、ミナリー。あなたにとって、シルヴァは申し分のない人物だったはずでは……っ!?」
「そうかなぁ? 確かにすごく競争率高そうな人だったけど」
中性的な整った顔立ちでルックスも抜群。
貧しい家に生まれた村娘のわたしにも優しく接してくれる紳士的な性格。
シルベール商会の次期頭目筆頭候補と、将来性もある。
結婚相手として、シルヴァさんほど魅力的な相手はそう易々と見つからないと思う。
「そ、そこまでわかっていながらどうして……」
「少し考えたらわかることだよ。シルヴァさんはまだ、ただの一商人。シルベール商会の次期頭目筆頭候補と言っても、頭目になることが決まってるわけじゃないし、そもそも、シルベール商会なんて地方の一商会の頭目になったところで、たかが知れてるじゃん。わたしはそんな人と結婚して満足するほど、安い女じゃないもん。…………って、みんなしてどうしたの? 頭が痛そうだけど」
「いや、何と言うか……」
「ミナリーらしいと言いますか……」
「あんた本当にぶれないわね……」
ほとほと呆れたと言いたげに、王様たちは揃って溜息を吐いた。
けれどすぐに、三人ともプッと噴き出して笑みを零す。
何がそんなに面白いんだろう?
「本当にこの村娘は……。……それで、あなたはこれからもこの城で働くつもりですか?」
「もちろん! 他に働き当てもないし、ここよりお給料が良い職場もなさそうだし! それに、まあ、……わたしもちょっと寂しかったし」
「何か言いましたか、ミナリー?」
「あ、ううん。何にも言ってないよっ!」
「それなら別に構いませんが……。どうされますか、我が王。私はその……ミナリーが居てくれると助かる部分があるのは確かなので、どちらでも構いませんが」
「しゅ、シュード様! あ、あたしはっ! えと、その……ミナリーと働きたい……です」
アリスとアリシアの声を聴いて、王様はわたしの前に立つ。
「アリスとアリシアがそう言うなら異存はない。それに俺としても、ミナリーにこの城で働いて欲しい。これからも頼めるか、ミナリー?」
「うんっ! お給料を上げてくれるなら喜んでっ♪」
こうしてわたしは、またこの城で働くことになった。
「ちなみに給料を上げる気はありません。良いですね、ミナリー?」
…………………………やっぱり結婚しとけばよかったかなぁ?
fin
村娘ミナリーは守銭奴であるっ! KT @KT02
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