第31話 エピローグ


 怨鬼と戦い、後始末をし、それから体育祭。

 さすがに疲れたのか、二人は風呂から上がった後、岳斗の部屋までたどり着くのが精一杯だった。

 そのまま寝床へダイブすると、一言も喋らず深い眠りについた。



 

 次の日の朝、天記はダンダンダンと近づいて来る大きな足音で目が覚めた。

 岳斗も然りである。


 「お兄ちゃん!岳斗!起きてる?」


 希々が、岳斗の部屋の扉を勢いよくスライドさせて入ってきた。

 眠い目を擦りながら上半身を起こし、二人がぼんやり希々の顔を見た。


 「龍神族の村、見つけたのよ。今日は私の誕生日。予知夢よ、予知夢」


 二人は飛び起きた。

 チシャが言っていたことは本当だった。

 それは今日、自分たちが龍神族の村へ行くということに他ならなかった。

 体育祭の振替休日で、二人は今日も休みだが、希々は学校がある。一緒に行くのは無理かもしれない。


 「遠いところなの?」


 「お兄ちゃん、びっくりしないで。……ここよ」


 「ここ?」


 一体どういうことだろうと、二人は目が点になった。

 岳斗と天記は急いで着替えると、希々に言われるがまま支水神社の奥、幼い頃からよく遊んでいる森の中へ入っていった。

 そこには、岳斗の部屋の地下に通じる祠がある。

 希々は祠の前に立つとこう言った。


 「この祠自体が結界みたいなの。私が生まれた九時四十分、結界が一度消えるはず、そうして村の中に入ることができる。その後お兄ちゃんがまた新しい結界を張れば、そのあとは自由に出入りすることができるようになるわ」


 希々がランドセルを背負って力説するものだから、天記はなんだか少しおかしくなって笑った。

 しかし、そんな天記を見て


 「何よ」


と、希々が凄むものだから、


 「ごめん」


と、謝った。

 やはり、希々は怖かった。




 そうして希々が学校へ登校した後、岳斗と天記は食事を済ませ、竜之介を呼び、紫龍と赤龍とチシャと共に祠の前で待っていた。

 皆、息を飲んで祠をじっと見つめている。

 風ひとつなく、まるで紫龍が時間を止めてしまったかのように、何もかも動かなかった。


 「本当にここなの?」


 熟睡していたところを突然の電話で起こされ、まだ頭がはっきりしない竜之介が、少々迷惑そうに聞いた。


 「そろそろ、九時四十分ですよね」


 岳斗が言った時、祠の向こう側の雑木林が、ザワザワと音を立てて少し動いたような気がした。

 この奥は十メートルくらい雑木林になっていて、その先には国道が通っている。

 雑木林の奥から少し光が差し込んでいるように見える。

 かと思うと、木々の葉がサーッと両側に避けるように空間ができた。

 人ひとり通り抜けられるような穴がぽっかりと空いて、向こう側が明るく見える。

 道路はない。

 天記が、恐る恐るその穴を潜る。

 するとそこには、とてつもなく広大な平原と、その先には大きな森、手前には美しい池が広がっていた。

 後ろから岳斗と竜之介、皆が入ってきてその光景を見た。


 「うわーっ!何これ?!」


 一気に目が覚めた様子の竜之介が大声をあげた。

 岳斗も目を見開いていた。


 「やっと見つけた。龍神族の村と龍神の森」


 天記がつぶやく。


 皆、並んでその光景を眺めた。


 「こんなところに結界を張るなんて。よくもまあ、うまく隠したもんじゃ。この景色は昔と全く変わっておらん」


 紫龍が、懐かしそうに目を細めて言った。

 今まで長い間隠されていた森、なぜ今開かれたのか、この先一体どうなってゆくのか。

 岳斗も天記も竜之介も、新たな冒険が始まるのを感じていた。



              つづく

 

      


 

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龍神の子2 〜天記と隠された森〜 藤沢 遼 @ryo-fujisawa

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