第30話 有終の美
紫龍は、この場にいた全ての人間の記憶を消した。
カラスも、怨鬼も、怒りの種も、花が咲き争いが起きたことも全て、さっぱり消してしまった。
怪我をした人間の傷を、天記が丁寧に治してゆく。
赤龍があらゆる物を元の位置へ戻し、体育館へ避難していた者たちを開会式の時の通りの場所へ戻すと、紫龍が時の流れを動かした。
岳斗の楽しみにしていた体育祭は、無事に行うことができた。
あんなことがあったというのに、岳斗はまるで何もなかったように楽しんでいる。
まず、徒競走で一位になった。
その後の学年別リレーでは、岳斗が五位でバトンを受け取ると、あっという間にごぼう抜きして一位に。
一年から三年までの縦割りリレーでも、一年生のアンカーは岳斗だった。
母親達も、岳斗の大活躍を応援している。
天記はそんな母親達の姿を目にして、自分のさっきまでの活躍を、真記に見せられなかったことを悔しく思った。
もし見せられたとしても、記憶を消さなければならないということが、なんとなく切なかった。
体育祭を終え、二人は岳斗の家の風呂に浸かっていた。
試合の日のルーティンなのだが、今日は一日本当に頑張った。
そういう意味で、二人はお互いの労をなぎらった。
「ねぇ、天記さん。ソウルメイトってなんだろうね」
岳斗が、ずっと聞きたかったことを口にした。初めは知らない言葉だった。意味を知って自分に重ね合わせた。双子の兄弟でさえ、なかなかそんな存在にはなりえないのだ。だからこそ、自分と天記とのきずなは特別なものだと感じている。そして、天記にもそう思ってほしかった。
「うーん、なんだろう?よくわかんないけど、そんな言葉で決めなくても、俺と岳斗はいつも考えていることが同じなんだって思う。今もこれからも、同じ方向を向いて歩いていけたら俺はそれでいい」
湯船でウトウトしながら答える天記の言葉が、なんとなく期待していたものとは違っていて拍子抜けしたが、それでも岳斗は満足だった。
自分のしていることは間違いじゃない。
これからも、この優しくて、ちょっと頼りなくて、おっちょこちょいだけど、いざという時は信じられないくらいのパワーを出すご主人様に、ついて行こうと思っていた。
「そろそろ上がりましょう。天記さん眠そうだ」
「うん」
脱衣所でぼんやりしながら着替えている天記の頭を、タオルでガシガシ拭いてやりながら、岳斗はこの不思議な主従関係がずっと続くことを願っていた。
つづく
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