第8話:念願叶う(?)

した学校から合否通知が入った封筒が届いた。今回受験したのは私立校のため、合格した場合には一週間以内に入学金30万円を納めることになる。恐る恐る封筒を開くと“試験結果”という白い紙が目に入った。その紙をゆっくり開けると“今回の試験におきましてあなた様の結果は合格となります。”という文面が目に入った。つまり、彼は難関校の進学クラスの定員30人とし手選ばれたということになる。そして、彼女である奈津実に連絡し、「今度時間を合わせて会おう。」と伝えた。


 数日後、奈津実と約1年ぶりに会った。すると、最初、友隆は奈津実の姿を見つけられなかった。しばらくして、電話を鳴らすと近くから聞こえてきた。なんと、彼の立っていた反対側に待っていたのだった。彼は彼女が痩せ細ったように見えた。そして、彼女は近くの喫茶店に入って友隆にこう打ち明けた。


「私は友くんと別れることはないけど、少し距離を置きたい」


 彼は予想外の展開に驚きを隠すことが出来なかった。なぜなら、今まで彼女の口から“別れたい”や“距離を置きたい”という言葉は聞いたことがなかったからだ。しかし、初めて会ってから8年、付き合い始めて3年で交際に終止符が打たれる可能性が高くなっていた。彼にとって彼女以外の女性と付き合うことは考えられなくなっていたが、高校に入ると勉強に専念しなくてはいけないような気がして、彼女の意思を尊重した方が良いのか、ここで、距離を置いて関係を終わらせることが正しいことなのか分からなかった。


 実は彼女も同じ高校に入りたくて勉強していたが、彼のようにはうまくいかず、これ以上勉強してもかえって邪魔になってしまうのではないか?と感じたのだった。彼女は出会ってから彼の背中を追いかけてきたが、経済的に同じ背中を追うことは難しいという結論に至ったのだった。


 2年後、彼女は進路を東京の進学校に進学することに決めて、友隆とは受験勉強が忙しくなることもあるため1度別れることにした。


 そのことを知った友隆はショックでその高校に行くかどうかを迷っていたのだ。というのは、彼女が進学校に行くと学業が忙しくなるため、なかなか会えない。だからこそ、勉強を頑張って彼女に会いに行けるときには会いに行こうと思って頑張ってきた。そのモチベーションが彼女の口から“別れる”という衝撃的な言葉によって会えないさみしさにブレーキを掛けてきたが、そのブレーキがついに壊れてしまった。今回、彼女と別れることで今まで保ってきたモチベーションが一気に崩れていくことになる。


そのため、進学クラスの生徒の中では点数が下位に沈んでしまった。その結果、進路部長の先生から呼び出しを受けることになった。実は友隆の高校は異性交際禁止、規定校以上の合格など校則や暗黙の了解が多く、毎年2年生の段階で普通コースへの編入を勧められる生徒が多いことでも有名なのだ。そんな環境下で友隆は下位5人の中に入っていた。しかし、彼はなんとか留まりたいと進路指導部長、学年主任、担任に直談判をした。しかし、彼の懇願理由を聞いて3人は検討するに留まった。なぜなら、友隆は成績の下降率がクラスで上位3人に入っている。これは、通常の対応では退学相当と判断されてしまう。おまけに残留規定基準といういわゆる個人の成績で進学クラスはこのレベル、普通クラスはこのレベルという判断基準があり、彼の成績では普通Aという進学クラスに残留することは現段階では難しいという判断だ。


 彼はなんとかして東京の大学に進学し、彼女と復縁できるように努力したいと思っていたが、普通コースでは休日の講習を受けることが出来ないため、進学クラスの同級生と距離を離されてしまう可能性があるのだ。そんなこともあって、なんとか吹っ切れる方法を探した。しかし、現時点では進学クラスはバイトも禁止、部活も週2回までとかなり厳しい制限があるため、首が回らない状態になっているのだ。


 なんとか、成績を上げなくてはと思って半年間休まず勉強し続けた。もちろん、他の同級生が遊びに行っている時も部活をしているときも周りには目もくれずにひたすら参考書と教科書、大学の過去問題集などをひたすら繰り返しやっていた。その結果、クラスにはついて行けるようになったが、成績は大きく変わらなかった。しかし、基準値が今年は高いことが分かっていたため、どうなってしまうのか分からない春休みは不安のまま過ごしていた。友人から連絡が来ても「遊んで良いものなのか?」・「成績が落ちてしまうのではないか?」と心の中で葛藤しながら過ごしていた。


 そして、3年生のクラス分け発表の日、学校に着くと学年のクラス分けが書かれた紙が貼ってあった。彼は無事に進学クラスに残留することが出来た。そう思っていた。しかし、彼の名前の横には※が入っていて、下部の同じマークを見ると“※が付いている生徒は条件付きです。”と書いてあった。なおさら意味が分からなくなり、頭が混乱していた。そして、進学クラスのメンバーを見るとやはり3人は普通クラスに編入していた。


 初めてのホームルームが終わった後、彼を含めた3人が呼ばれた。彼は「なんで?」という言葉が頭をよぎっていた。なぜなら、呼び出されたのは※が付いていた生徒で1人ずつ担任の先生と面談することになっているというのだ。そして、自分の順番が回ってきた時はかなり緊張していた。3年クラス棟にある教室の向かいにある面接室に入ると怖い先生と担任の先生が座っていた。怖い先生はなんと去年まで少し離れた進学校でトップ・オブ・アカデミックと言われるほど有名難関大に子供達を進学させてきた凄腕の先生だった。実は塾に通っている時に噂になっていた先生だった。(ちなみに自分は偏差値が足りておらず、受験する勇気が無かった。)その先生が目の前にいるというだけで彼の意識が高まったのだろうか?やる気のみなぎったような目をしていた。


 その後、先生からさまざまな質問をされていき、全ての質問が終わった時点で強面の先生から「君はもう少しレベルを落としなさい。今のあなたではこの大学に入るには難しすぎます。」と言われた。そう、あのマークは進学クラスに在籍できる代わりに規定校と目標校を再検討することという条件だったのだ。

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瞳の奥の小さな光 NOTTI @masa_notti

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