第7話:いざ決戦の舞台へ

友隆は大阪の難関校に願書を提出し、後日受験票が家に届いた。封筒を開けて中身を確認すると、これは偶然なのか、必然なのかは分からないが、受験番号は550番だった。語呂合わせにすると“ゴーゴー”となり、まるで自分を応援してくれているのかもしれないと思った。そして、今年度の定員250人に対して志願者は800人となり、競争倍率は約3.2倍という高倍率だった。しかも、彼の志願している難関大学進学クラスは定員30人に対して250人と倍率が約8.3倍と更に高倍率となり、不安しか残っていかなかった。試験当日、友隆は一睡も出来ずに試験会場である高校に向かった。着くとまだ開場まで1時間もあるが、すでに続々と集まっていた。その中に見たことがある制服の集団がいた。そこは大阪で知らない人がいないくらい有名な私立中学校の生徒たちだった。彼らだけで40人くらいいる。つまり、彼らがライバルとなる可能性が高いのだ。そして、開場時間になり、試験会場に入ると先程の学生たちは半分が進学クラスへ、半分が普通クラスへそれぞれ向かっていった。おそらく半分は滑り止めとして受験しているのだろう。なぜなら、多くの子たちはアメリカなどの海外の高校に進学するため、日本の高校は受けることはない。ただ、ごくまれに海外の高校を受験する前に受ける試験で受験資格を失ってしまう子もいるため、その子たちが進学クラスを受けているのだろう。そして、試験開始前の説明を経て1科目目の数学が始まった。問題を開くと彼は自信に満ちあふれていた。なぜなら、彼が今まで勉強してきた範囲が類似問題として反映されていた。解き進めていくとそこまで難しい事はなかった。しかし、2科目目の国語で事件が起きた。それは、大学受験レベルの問題が出題されていたのだ。彼は噂ではこういうことがあるとは聞いていたが、まさかここまで難しい問題が出てくるとは思わなかった。しかも、配点が25点分という高配点だった。彼は事前に準備はしていたが、想像していたレベルをはるかに超えていた。結局、彼は自己採点をしたが、配点25点中10点しか取れていなかった。3科目目は英語だが、普通の出題方法ではなかった。それは、問題が英語で出題されていて、答えもそれぞれ英語で書くもしくはマークすることになっていて、初めて見た生徒はびっくりするだろう。この高校は2年生の春休みまで毎年姉妹校への留学がある。そのため、授業は全て英語で進められていく。


 だからだろうか、英語の試験だけは全て英語で指示をされる。彼は今まで日本語と英語で過ごしてきたが、今度は主言語が英語に変わるため、慣れるまでは苦労しそうだ。そんなことを思いながら問題を解いていくとこれはいったいどんな意味なのだろうか?と思うような文が出題されていてびっくりしてしまったことは今でも忘れていない。


 そして、4科目目の創作文のテストが始まった。しかし、彼はそれらの対策をしていなかった。というのは、この科目は事前の傾向と対策も過去問題も高校側で情報開示厳禁になっているため、その場で問題文を提示され、内容を理解して日本語と英語で解答するという形式だった。この試験の時に出たのは“労働改革に必要なこと”というテーマだった。彼は社会も得意だが、政治経済に関しては成績があまり納得のいく成績ではなかった。経済に関してはあまり深掘りして学んでこなかった部分があるため、彼にとっては難易度が高かった。


 彼は問題理解をして、日英で解答をするところまで順調に解き進めていたが、試験終了10分前にあることに気付いてしまう。それは問題文の“You should summary your opinion when you answer the question.”という部分だ。これは”答えを要約しなさい“という指示だった。つまり、自分の意見を全て書き終わったのち、文章中からキーワードを抜き出して答えよ。ということだ。


 彼は急いで要約し、日本語と英語の文を作って解答した。なんとか終了1分前に答えきった。


 無事に試験が終わり、学校を後にすると身体の力が少しずつ抜けていった。そして、学校の最寄り駅に着いたときには受験生が黒山の人だかりのように押し寄せていて、上り線は何本電車を待つと乗れるかなという状態になっていた。その時、ふと近くにあったコーヒーチェーンに入った。実は勉強の合間にコーヒーをよく飲んでいたが、いつもは本格的な物ではなく、安価なインスタントコーヒーを飲んでいた。そのため、インスタントの味に慣れてしまっていて、本当の味が分からなくなっていた。そんなときに高校の受験が終わり、おいしそうな匂いにつられて「本格的なコーヒーが飲んでみたい」と思ったのだ。彼は4人掛けの座席に案内された。当時コーヒーショップ内には学生と思われる人が数人いるだけでほとんど席が空いていた。彼は当時受験優先の生活を送っていたため、お母さんからもらっていたわずかなお小遣いで飲めるアイスコーヒーを頼んだ。そして、彼はいつもの癖で勉強道具をテーブルに広げ、外を見ながら勉強していた。そして、今日の試験の自己採点の結果を見て驚愕した。それは、国語の問題を凡ミスで間違えている箇所が6カ所もあったのだ。通常の試験ではこれらの凡ミスは原点となるため、3科目で300点満点中270点だった。他の2科目に関しても凡ミスはあるものの、点数が大きく引かれる可能性のある減点はなかった。しかし、4科目創作文は模範解答がないため、試験官の先生がどのようなポイントで見てくるか、この問題で必要なキーワードを抑えているかどうかという部分が分からないため、採点のしようがなかった。


 今回の試験で得たのは難関高校を受けるためには凡ミスやこれらの問題に対する速読理解が出来ないと受からないということだった。しかも、今回受けた高校以外にも進学校はあるが、その中でも飛び抜けて競争率の高い高校であることから彼の将来を考えると、有意義な学生生活を送れるのではないかと考えたのだった。


 2週間後、高校からの合格通知が入った封筒が届いた。噂だと合格は大きい封筒、不合格は小さい封筒というが、彼が受け取ったのは大きな封筒だった。恐る恐る封筒を開封するとなんやらいろいろな書類が入っていた。そう。彼は無事に合格したのだ。

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