地球はこれからキャッシュクリアをはじめまーす

ちびまるフォイ

そろそろ地球もきれいにしましょう!

『地球のみなさんにお知らせです。

 これより1ヶ月後に地球のキャッシュクリアが行われます。

 どなた様も、クリアされたくないものには残留シールを貼ってください』


地球からの声が聞こえた後、空からシールがひらひら降ってきた。

人々はシールを手にして各々の大切な物や後世に残すべき物にシールを貼っていった。


有識者たちは集まって緊急会議をひらいた。


「キャッシュクリアされたら地球はいったいどうなるんだ?」


「たとえば、今行き場を失っているゴミや処理に困っている核廃棄物。

 それらがキャッシュクリアにより一掃されるはずです」


「それはすごい!! 一気に使える土地が増えるぞ!!」


キャッシュクリアのメリットを知った人々は「捨てるなら今」とばかりに、あらゆるものを山や道ばたに捨てまくった。


「おい! 俺の家の前に冷蔵庫捨てるなんてどういうつもりだ!」


「別にいいだろ。どうせ1ヶ月後にはきれいさっぱり消えるんだから」


「そういう問題じゃない!」

「使いみちのないだだっ広い庭なんだからおおめに見ろよ!」

「なんだと!」


各地ではケンカが絶えなくなり交通渋滞も頻発した。

これまで隠されてきたゴミが一気に表面化してどんどん汚くなる。

人々のストレスは頂点を突き抜けてしまうほど。


火に脂を注ぐようにして、今度は残留シールの不足が問題となった。


「おいこら! お前のゴミ屋敷なんかキャッシュクリアされるべきだろう!」


「なにがゴミだ! これは全部大切な宝物なんだ!」


「お前の生ゴミを残留させるくらいなら、もっと残すべきものがあるんだよ!」


「それはお前の価値観だろ!!」


「このやろーー!!」

「やったなこのーー!」


空から残留シールが降り注いだのはただの1回。

拾った人がそれぞれ自分の思うまま残留シールを貼ったために各地でシール不足が相次ぐ。

しまいには転売まで横行する地獄絵図。


キャッシュクリアまで残り1週間と迫ったのに、

まだ世界の文化遺産や世界遺産の数々に残留シールが貼りきれていない現状を見てついに国のトップが動いた。


「軍を動員させろ! 残留シールを取り返すのだ!!」


軍隊は人々が好き勝手に貼り付けていたシールをことごとく剥いで回った。

抵抗する市民には言葉より銃弾で返す強硬策を取った。


しだいに残留シールを多く手にしている国はそれだけキャッシュクリア後にも財産をキープできることに気づくと、

他の国に侵略してまで残留シールを剥ぎ取る大戦争とかした。


「こいつ核爆弾に残留シールつけてやがるぞ!」

「おのれ! キャッシュクリア後に牽制するつもりだったのか!」

「シールをうばえ! 我が国の財産を残留させるのだ!!」


他国からシールを奪いまわった国はもはや使いみちがなくなるほど残留シールを持て余した。

それでもキャッシュクリア後に、シールを奪われた国が一気にすべて失うという点では外交戦略としてシールの確保に意義がある。


残留シールを手に入れた国は知的財産や町並み、個人の宝物にまでシールが行き渡る。

残留シールを失った国はただ世界終焉を待つように最後のひとときを過ごしかなかった。


ついにその日は訪れた。



『地球のキャッシュクリアを実行します』



残留シールが貼られていないものは粒子状に分解されて消えていった。

ゴミが消え、危険なものが消え、あらゆる不要なものが淘汰された。



キャッシュクリアから数日後。


Gotoギャラクシーのキャンペーンで地球へやってきた宇宙人は、

地球に残されているあらゆる建築物や町並みを見て感動した。


「いやはや、地球に住んでいた古代生物はすごいものを作ったんだなぁ!」


ゴミがクリアされた無人の地球で、宇宙人はしこたま観光を楽しんでいった。

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