第151話  オマケ その1


 サイド:リュート=マクレーン


 さて、約束通りに俺たち3人は一緒に生活を始めた。


 ちなみに今、世界はとんでもないことになっている。

 魔法は使えなくなるわ、筋力や反射神経のステータス補助はなくなるわで、とにかく大パニックだ。

 で、魔物は当然ながら普通にいたりして、最初にいきなり詰んでしまう可能性もあったんだが、そこは我らが女神様だ。


 というか、最初からシステムに仕込まれていた武装放棄時の安全システムが作動したらしい。


 人類がステータス補助を失ってから、その生活に慣れるまで……概ね100年の間、魔物は人類を認識できなくなるという。

 大気中に溶けたナノマシンが光学迷彩や、臭い消しやら気配消しを行い、常時に魔除けのスキルが効いているような状況になるんだとさ。

 ただし、こちらから手を出した場合はナノマシンの加護は得られずに、反撃を受けてぶち殺される。


 まあ、あくまでも過渡期での暫定的保護ってことらしいが、とにもかくにも時間稼ぎができて良かった。



 で、俺とコーデリアとリリスなんだが……山奥の小屋で3人で暮らすことになった。


 たまに龍王と愉快な仲間たちがやってきたりするんだが、俺たちが何をやっているかというと……


 ……魔物に対抗する術の研究だ。






 そんなある日――。



「滅茶苦茶よどうなってんのよ!」


 

 久しぶりに顔を出した劉海と、現状の人間と魔物の力の差を確かめるべく、魔物狩りに出ていたコーデリアが血相を変えて小屋に飛び込んできた。


「めちゃくちゃっつーと?」


「私と師匠……オークを狩りにでかけたんだけど、師匠……突如現れたヴァンパイアを狩っちゃったのよっ!」


「で、お前は?」


「オークを2体かな? それで限界よ」


「ナノマシン無しでオークを普通に切り捨てるお前も大概だ」


 普通はゴブリンを狩るにも複数人は必要だろう。


「まあ、俺等は劉海の所で、ステータス抜きでの武芸全般叩き込まれてるからな」


 と、そこで劉海が「ハハハ」と笑った。


「まあ俺様ちゃんはシステムとは別枠の力で延命しているし、1000年以上生きてるかんな。例えナノマシンによるステータス補正がなくても、武芸の技術については一日の長があるってわけだ、コーデリア」


「いや、でも無茶苦茶じゃないですか? 相手は手刀で樹木とかスパっとやっちゃう系ですよ?」


「つっても、俺様ちゃんもまともに殴り合いはしてねーだろ? テコの原理で関節技なり、相手の力を利用したカウンターが主体だ」


「けど、それにしたってデタラメです! 人間の動きには見えませんでした!」 


「ま、柳の動きだからな」


「柳?」


「剣術で言えば流水。東方でいえば……ちょっと違うが≪合気≫ってのが近いかもしれん。最小限の動きで後の先を取るってことだな」


「ふーむ……?」


「1000年以上の時をかけて研ぎ澄まされた武の理合い。ま、せいぜい数十年しか生きられないテメエ等には辿り着けん境地だ」


「だがしかし」と、劉海は笑った。


「テメエ等でも俺様ちゃんの足元程度には及ぶだろうよ。2、30年かけてシゴいてやるから覚悟しとけ」


 まあ、俺等は率先して魔物に対抗する手段は取っておいたほうが良いだろうな。

 ステータスゴリ押し主体の以前の世界と違い、今後……体系だった武術の確立と伝播は必要だろうし。


 とはいえ、生身で人間が魔物に対峙するのはやっぱり無理があるわけで……と、そこで奥の部屋からリリスが出てきた。

 ここしばらく部屋に籠もりっぱなしで、女神に貰った簡単な学術書を読みふけっているので、若干疲労が溜まっている感じだ。


「……リュート。トイレの改善をしようと思う」


「トイレ?」


「……つまりは尿の提供を願いたい」


 と、そこでポンと掌を叩いた。


「硝石か。火薬の生成をするつもりなんだな? まあ、俺も現実的な手段としてはそれしかないと思ってる。火縄銃……いや、ライフリング(銃の螺旋構造)の技術あたりまでは俺たちの代で完成しておきたいな。そういえばヨーロッパでは、家畜小屋の糞尿から硝石を得ていたという話だったっけ」


 リリスはトイレを指さした。


「……尿だけで良い。それは別に採取して……使用しようと思う。そして男子トイレと女子トイレに分けたい。つまりは私とコーデリア、そしてリュート専用のトイレが必要だ」


 と、そこで俺は「はてな?」と小首を傾げた。 


「確か硝石は糞尿から作るんじゃなかったっけ? どうして尿だけなんだ?」


「硝石? その話は今はしていない。さすがの私でも糞尿は無理だ。引いてしまう。さすがにそれはドン引きだ」


「どういうことだ?」


「尿とはマーキング。狼や犬の……マーキングだ」


「ん? どういうことだ?」


「つまり、私はリュートの尿でマーキングされる必要が――」


「ねーよ!」


 思いっきりゲンコツを落とした。


 ってか、どんどん酷くなっていくなコイツ。

 行きつくところまでエスカレートする前に完結して良かったぜ・・・と、メタなことを心底思う。


 で、俺がやれやれと思っていると、神妙な顔でコーデリアが俺に問いかけてきた。


「ねえリュート?」


「ん? 何だ?」


「古代文明の崩壊ってさ、文明が進み過ぎちゃってそうなったんでしょ? 環境破壊とか生態系とか、そういうのは私にはよくわからないんだけど、人間の力が強くなり過ぎて……大地を蝕むほどにさ」


「まあ、お前の言う通りであってるよ」


「それで文明の進歩……人間の過度な増長って火の力。ひょっとして火薬から始まったんじゃないの?」


 そういえばこいつも前にリリスに火薬の概要の説明を受けていたっけ。


「ご明察だ」


「マーリン様も研究しているし、リリスならできると思う。でも、それを他の人に教えるのって……魔物に対抗するためとはいえ、危険じゃないかな?」


「言われてみれば、そうかもしれんな」


「それに、魔物に対抗する武を極めるにしても、そんなの無理じゃん? それこそ子供の時から英才教育でもしないとさ。普通の人にはできないよ」


 まあ……おっしゃるとおりかもしれん。 


 そこで、コーデリアは覚悟を決めたように頷いた。


「前から思ってたことなんだけどさ。私達が勝手に決めたんだから、私達で何とかしなくちゃいけないって思うんだ。そうじゃなきゃ無責任だよね?」


「っていうと?」


「私達で、他の皆が対処できない魔物を率先的に狩っちゃうのよ。武器やらの色んな製法の秘密は必ず守る身内でね」


「言ってることは分かるけど、現実的に可能だと思うか? 俺等の仲間って10人もいないぜ?」


「例えばなんだけどさ、ここで村を作って……血の分けた一族内で秘術の伝承をしていくみたいなのはどうかな?」


 と、そこで俺はポンと掌を打った。


「ああ……結構良いアイデアかもしれんな」


「と、なると……」とコーデリアは何やら思案を始めた。


「タイムリミットは100年……か。身内……世代をかけて人数を増やすにして、最初でたくさん作らないといけないね。私達の子供をさ」


 ん? と俺はコーデリアの言葉に耳を疑った。


「私たちの子供って……? どういうことだ?」




「結婚しようって言ったつもりなんだけど?」



 

 少しだけ頬を染め、どこまでも真っすぐなコーデリアの視線を受け、俺はドキリとして――


「……そういうことであれば私も協力しよう。遠慮はいらないリュート。産めよ増やせよという言葉もある」




「無茶言うなよっ!」


「不倫とか絶対に許さないんだからねっ!」




「お前もだコーデリア! 結婚前提にすんなよなっ!」


 いや、流石に嫁二人を同時に貰うのは俺には無理だ。


 でも、まあ、実際問題として、子供を作るとなったら……相手はコーデリアかリリスのどっちかになるんだろうな。


 俺もこいつ等は嫌いじゃねーし、こいつ等以外の女を選ぶのはちょっと想像できん。

 

 と、そんなことを考えていると――


「……正妻気取りは辞めろと言っている! コーデリア=オールストン!」


「うるさいわね! 大体、どうしていつも夜中にリュートのベッドに潜り込もうとしてんのよ! 隣の部屋まで響くリュートの悲鳴で毎晩起こされるこっちの身にもなってよね!」


「……私は寝相が悪い」


「自室から隣の部屋のリュートのところにドアを開けて歩いてベッドにもぐりこむ。うんうん、そんな夢遊病みたいなことも寝相が悪ければ良くあるよねーーって、そんなわけないでしょっ!」


「……無駄に積極的なお前が悪い。私に実力行使をさせるまで追い込んだのはお前なのだ……コーデリア=オールストン」


「いや、好きなもんは好きなんだから仕方なくない!?」


「……それが私を苛立たせる。不安にさせる」


「大体アンタはいつもいつも――」


 ギャーギャー言いながら、取っ組み合いを始めそうな感じだ。


 でも、何だかんだでこいつら楽しそうなんだよな。

 で、俺も毎日こんな感じだけど、疲れはするけど嫌じゃない。


 で、いがみ合う二人を見て、はー……と溜息をつく。


 いつかは、どっちか選ばないといけない……そんな気はする。


 でも、時間はいくらでもあるし、すぐに決めなきゃいけないことでもないだろう。


 今は――


 ――この何でもない日常をこいつらを一緒に過ごし、バカやって楽しく暮らせたらと、そんなことを思っている。




・補足

 まだオマケ書くかもですが、一旦ここで更新終了となります。

 ちなみに書籍版は確か2巻と4巻と5巻と最終巻が書き下ろし多かったと思います。最終巻は別エンディングとなります。

 2巻は陽炎の塔とリリスのレベリング関連。

 4巻はゼロの騎士団にコーデリアが入団して酷い目にあってからの逆襲の話。

 5巻はコーデリアの父親関係の話だったと思います。

 最終巻は重複も多いですが、別ルート&別エンディングですね。

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異国の地でイジメられて誰にも頼れないロシア美人のリーリヤさんを助けたら、なんか変なスイッチ入ったらしく料理教室に通い始めて毎日俺の家に料理作りに来るようになった件


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