第150話


・エピローグ


 サイド:ギルドの少女剣士


 ――森の中


 私達、ギルドの討伐隊はただただひたすらに奥に進んでいく。

 今日は総数20名でゴブリンの巣を潰すのが仕事だ。

 事前調査によると、巣穴にゴブリンは5匹。

 

 まあ、本当に危険な任務だから、これくらいの大戦力は当たり前に必要ってわけだね。


 で、道すがら、私は隣に歩いていた筋肉モリモリの戦士さんに声をかけた。


「ねえ、昔はヴァンパイアを人間が一人で討伐してたって本当なの?」


「魔法が存在した時代か? 高位の冒険者ならそれもできたって話だな。ま、今は単独ならゴブリン……良い所がオークが関の山だ」


「でも、ヴァンパイアみたいな高位の魔物を狩る人達もいるんでしょ?」


「はは、そりゃあ都市伝説の類だな。えーっと……ヴァンパイアハンター……魔物の天敵、千魔狩りの一族だっけか?」


「え? あれって嘘だったの?」


「そんな連中が本当にいたら卒倒しちまうよ。ギルドも商売あがったりだ」


「信じてたんだけどなァ……」


「人間にはできることとできんことがある。ってことで俺たちは身の丈にあった……ゴブリンの駆除だ」


 と、そこで――先を行く連中のところから悲鳴が聞こえてきた。


 どうしたものかと前方を見てみると――


 ――そこには5人を超える死体が転がっていた


 悲鳴が聞こえてからたった時間もほとんどたっていない。

 つまりそれは一瞬でやられたということ。

 

 そして、死体の首筋にかぶりつく、その魔物の姿を確認して私は絶句した。


「ヴァ、ヴァ……ヴァンパイア!」


 視認した全員が、我先にと後ろに向けて脱兎の如くに駆け出し始める。


「あんな高位の魔物がこんな辺境に……また……村を一つ捨てることになるのかっ!」


 戦士さんの言葉に、私は冷や汗を流す。


 強力な魔物が村の周囲に現れた場合、私達が取ることのできる選択肢は一つしかない。


 つまりは、村を捨てて……魔物がいない地域に丸ごと移住することだ。


「ともかく、はやくギルド長に連絡――アビュっ!」


 戦士さんの頭が飛び、私の頬は鮮血に染められる。

 

「あ、あ、あ……」


 周囲を見て、へたりこむ。


 ゴブリン討伐の総勢20人は全て死体へと変わり、残るは……私だけ。

 

 ヴァンパイアは震える私を見て、ニヤリと笑った。


「美しいね君は」


 曰く、不死の貴族。


 曰く、常闇の貴公子。


 曰く――高位アンデッド。


 それらの言葉が意味することは、つまりは……明確な死ということだ。


「あ、あ、あ……」


「良し、君は特別に眷属にしてあげよう。まあ、ヴァンパイアゾンビになれば君の美貌も一か月ももたないがね」


「ひ……ひ……ひィ……っ!」


 腰を抜かしてしまった私は、ヴァンパイアから逃れようとして這いつくばって手足を動かす。


「はは、せっかくの美しさも……そうなってしまえば台無しだよ」


 嫌だ。


 死ぬのは嫌だ……そして……ゾンビになってしまうのはもっと嫌だ。


 ゾンビになっても、人間としての脳と意識は生きているという。

 ただし、ヴァンパイアに行動は支配されるから、外から見るとただのゾンビと何も変わらない。


 体が腐り落ちても、ウジが湧いてきても……人間の意識はそのままで、苦しみ続ける。


 嫌だ、嫌だ。そんなことは絶対に嫌だ。


 恐怖のあまり、涙を流しながら必死に逃れようと手足を動かし続けた、その時――


 ――パンと乾いた音が鳴った


 何事かと周囲を見ると――ヴァンパイアの胸から血が流れていた。


 ヴァンパイアは不思議そうに胸の傷を確かめ、手についた胸の傷の血を眺めて――


 ――パンと再度の乾いた音


 同時に、ヴァンパイアの頭頂部分が弾けた。


 割れたスイカのように、あるいは潰したイチジクのように。


 パンという音と同時に弾けた。爆裂した。


 ……音が鳴ったのは後方?


 後ろを見ると、そこには小さな筒を持った少年がいた。


 女の子のように美しい顔をした少年。


 燃えるような赤髪に、所々に水色の髪の房が混じっている。そして、背はかなり低い。


「……筒の先から? 煙が……?」


 そう呟くと、少年はクスリと笑った。


「拳銃ってんだよ。転生者のご先祖が魔物に対抗するために考案した超古代文明の武器だ。ドワーフの連中が試作に苦労したらしい」


 続けざま、少年は懐から袋を取り出し、ヴァンパイアに向けて中の粉末を振りかける。


 そして少年が続けてヴァンパイアに向けて何かを投げて――


 ――炎と共に爆発が起きた


 それはまるで、御伽噺の中で見た、あの現象と一致する。


「それは……炎の魔法? 失われし……魔法なの?」


「これまた、ご先祖の……人間の龍魔法使い、転じて火薬研究家が残したものだ。曰く、龍の叡智をもってすれば魔法の復元は道具で可能ってな」


 パンパンパンと筒から何度も音が鳴り、その度にヴァンパイアの体から血が噴き出ていく。


 血を噴出しながら、ヴァンパイアは狼狽した表情で口を開いた。


「何だ!? 何だ君は!? その道具は何なんだっ!?」


「銀の弾丸なんだが……これだけ打ち込んでもピンピンしてやがる。さすがにタフだな」


 そこでお手上げだとばかりに少年は肩をすくめた。


 そのまま、何やら思案してヴァンパイアの様子を伺い始めた。


「え? その筒で攻撃を続ければ……良いんじゃないの?」


「ああ、弾切れなんだ」


「タマギレ……?」


「分からんなら良い」


 ヴァンパイアが少年に躍りかかる。


 伸ばした爪で、少年に向けて右手での突き。


 あまりの速度に私では目で追うのがやっとだ。

 そして、ヴァンパイアの一撃の威力は、ここに転がる死体を見れば誰でも分かる。


 と、そこでヒュンと煌めく剣閃。


 ボトリ、とヴァンパイアの右手がボトリと落ちる。


「で、こいつはご先祖から伝わるかつての勇者の剣術。今でだって十分に使える」


 左手のみとなったヴァンパイアは、それでも少年に向けて攻撃を続ける。


 左手の爪で。


 蹴りで。


 あるいは頭突きで。


 けれど、少年は最小限の動きで、舞うように攻撃を避け続ける。


「筋力が落ちようが、反射神経が落ちようが、鍛えた体は嘘をつかない」


 そうして少年はヴァンパイアに足払いを仕掛ける。

 そのまま、ヴァンパイアは地面へと這いつくばった。


「つってもまあ、回避がメインなんだが。流石に真正面から殴り合いはできんわな」


 そうして少年はヴァンパイアの首に向けて剣を一閃。

 続けざま、懐から金属片を取り出して、筒に込めていく。


「吸血鬼の回復能力は侮れん。なあに釣りは要らなえ。銀の弾丸をたっぷりとくれてやる」


 パン、パン、パン、パン。


 森の中に乾いた音が鳴り響く。ビクンビクンとヴァンパイアの手足が痙攣し、そして――動かなくなった。


「はい、これでお終い」


 そうして少年は「じゃあな」と私に告げると、踵を返して森の奥に進もうとした。


「ちょっと待って! ちょっと待ってよキミ! 何者なの? ひょっとして魔物狩り……千魔狩りの一族ってやつなのっ!?」


 そこで少年は立ち止まる。けれど、こちらを振り向きもしない。

 そのままの状態で、声だけを私に投げかける。


「そう呼ぶ者もいるが、そんな大それたもんじゃねえよ。それと……何者かと問われれば、まあ、秘境の村に住んでるんだから……俺はこういう風に答えることにしているんだ」


 そうして、少年は後ろ手を振りながら、私にこう告げたのだった。



「村人ですが何か?」





【あとがき】

ルートが違うので書籍版と結末が違いますが、ネット版は……ニュージェネレーションにバトンタッチ風のエンディングですね。

 まあ、最後のセリフは一緒なんですが、リュートが言ってるのか子孫が言ってるかの違いはあります。


 結局、コーデリアとくっついたのかリリスとくっついたのかは想像にお任せします。


 少なくとも、三人は後の秘境の村となる場所で、一緒に生活を始めたので、どちらでもあり得ます。


 で、一緒に暮らすということは、何があろうがリリスは絶対に諦めないということです。


 と、いうことで完結しました。オマケの後日譚をちょろっとだけ予約投稿してますのでフォロー登録はそのままでお願いします。




「面白かったよ!」


「まあ、とりあえず最後まで読む程度には良かったよ!」


「結局どっちとくっついたんだ!」


「お疲れ!」




 以上のように思われた方は最後ですので↓から☆で称えていただけますと助かります。



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