第xxx話 余計な教育
外伝です。
時系列はトーカの結婚阻止後あたりです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私は今、温泉館での仕事を終え、セクレタさん、カオリさん、トーカさんの四人で、豆腐寮を抜け、陸橋で本館へと向かっている所である。すると、豆腐寮と本館との間では、丁度、ラジルと転生者達との鍛錬を行っている時間であった。
「マッスルプロテインパワー! ビルドアップ!! 筋肉の力でお仕置きだ! テイヤッ!!」
ラジルが転生者たちに教えられた変な掛け声を上げて、鍛錬用に魔法で作られた氷の標的を叩き割る。
「あぁ…ついに私の大切なラジルが…転生者たちに染められてしまいました…」
私は虚脱して項垂れる。
「まぁまぁ、マールはん、そないな事言わんと、ラジルもようやく氷を叩き割れるようになったんやからええやんか」
カオリさんは「ははは」と笑いながら気軽に言う。
「全然、いいことないですよ!今後、ラジルが戦いで活躍する機会があったとしても、あの『変な掛け声』のラジルって、嬉しくない二つ名で呼ばれるようになるんですよっ! それに、私だって、他の貴族の方から、「マール嬢の所ではどんな教育をしているのかしら?」って嫌味たらしく言われるようになるんですよ」
「あぁ…貴族の人って、そんなご近所の奥様方みたいな嫌味を言うんや…それは、かなんなぁ…」
私の苦しみが分かったのか、カオリさんは気まずそうに鼻の頭を掻く。
「それなら、掛け声だけは私のお兄様から教えてもらえばどうかしら?」
私たちの状況にトーカさんが提案してくる。
「貴方の兄のトーヤの掛け声って、どういうものなのかしら?」
セクレタさんがトーカに尋ねる。トーカさんは待っていましたと言わんばかりに自慢気に語り始める。
「トーヤお兄様はね、こう片目を隠す様に頭を押さえながら、『我が右腕に宿りし、闇の根源の力よ、我が願いに応じ、その恐るべき闇の力を解放せよ! ダークエターナルパワー!!』って感じなの!」
トーカは振付付きで実演してくれる。
「うわぁ…トーヤはん、中二病を患っとったんかいな…それもかなり進行しているやん…ステージ3ぐらいまでいってそうやな…」
「ちょっと…いやかなり痛いわね…」
カオリさんとセクレタさん、容赦なくトーヤの掛け声を批評する。
「転生者にしろ、トーヤさんにしろ…どうして、私の周りには普通の掛け声が出来る人はいないのでしょうか…」
私ははぁぁぁっと大きなため息をつく。
「よくやったな!ラジ坊!」
下から転生者たちがラジルを褒める声が聞こえる。
「はい! 皆さんとここには居ませんがトーヤさんのお陰ですっ!」
ラジルは元気よく感謝の言葉を述べている。
「しかし、ラジ坊は俺達のマッスルパワーとトーヤのダークエターナルパワーの両方を習得したんだな。よく頑張ったぞ!」
転生者がラジルの頭を撫でる。
「あぁ…ラジル君、トーヤはんの方もおぼえてたんや…」
「ある意味、そっち方面のエリート教育がなされていたのね…」
カオリさんとセクレタさんは諦めたような目でラジルを見ている。
「あぁぁぁぁ… 私のラジルが… そんな方向のエリートのなっているとは…」
ラジルが強くなることは良いことであるが、その強さの方向がどんどん私の思わぬ方向へと進んでいる。
「ラジ坊! 強くなったからと言って、それだけではダメだぞ! 男にはもっと学ぶことがある!!」
変な掛け声を習得したラジルに転生者は慢心させないように忠告する。
「なんや、あいつら、ただのあほみたいな技を教えるだけやのうて、ちゃんとええこといってるやん」
「そうね、あの人たちにしてはまともな事を言っているわ」
カオリさんとセクレタさんが感心したような事を言っているので、私も気を取り直し、手すりにつかまって下の様子を眺める。
「はい!分かりました!では、どんな事を学べばよいのでしょうか!」
ラジルは忠告されてもめげる事無く、元気に尋ねる。
「それはだな…男と女の違いだ」
私はその転生者の言葉に悪寒が走る。
「ちょっと怪しい方向にいきはじめたで」
「まだ分からないから様子を見てみましょう」
私たちは固唾を呑んで、下の様子を見守る。
「いいか、男と女はな、昔は同じだったんだ」
「同じですか?」
ラジルは意味が分からず首を傾げる。
「むかーしむかしはな、男という存在はアダムという男だけで、女はイブという女だけだったんだ」
えっそれ、どこの話だろう? 私はそんな神話を聞いたことがない。
「その頃の金玉は金玉ではなく、普通の玉で、男も女も玉を持っていたんだ」
「ちょっと…」
話が如何わしい方向に進みそうだったので、私が声を上げて止めようとしたところ、カオリさんが私の口を塞いで声を止める。
「まぁまぁ、焦らんと、最後まで聞いてみよ」
カオリさんも転生者の話に興味があるようで、最後まで聞きたいようだ。
「異世界の神話なのね…興味深いわ…」
セクレタさん…おそらくそんな高尚な話ではないと思いますよ…
「ある日、アダムが湖のほとりで立ちションをしていると、タマタマが外れて転がり、湖の中に落ちてしまったんだ…」
「えぇ…」
その話を聞いて、ラジルは股間を隠す。ラジルもそんな話、真に受けないで欲しい…
「すると、湖の中から女神が現れて、アダムにこう言うんだ、『貴方の落とした玉は金の玉ですか?銀の玉ですか?それとも普通の玉ですか?』と」
「なんか落ち分かったような気がするわ…」
カオリさんが乾いた声で言う。
「そして、正直者のアダムはこう言うんだ、『私の落とした玉はその小汚い普通の玉でございます』と…」
今まで沈黙を保っていたトーカが肩を震わせている。
「すると女神は笑顔でこう答える、『おぉ、貴方はなんという正直者か!正直者の貴方にはこの光り輝く金の玉を授けよう』と」
その言葉を聞いてラジルの顔はぱぁっと開いていく。
「こうしてアダムは金の玉を持つようになったが、それを羨んで見ているものがいた…女のイブだ。イブは自分も金の玉が欲しくなって、湖へと行ったんだ」
ラジルはゴクリと唾を呑み込む。
「そして、アダムと同じように湖に玉を落とした。すると女神が現れて、アダムと同じように聞いてくる。『貴方の落とした玉は金の玉ですか?銀の玉ですか?それとも普通の玉ですか?』と… しかし、欲深いイブは、『私の落とした玉はその光り輝く金の玉でございます』と答えた…」
「えぇぇ!そんな嘘をいったらダメだよ!」
ラジルは転生者の話に声を上げる。
「そう…嘘をついたらダメだ。女神も怒ってしまい、『嘘つきのお前には渡す玉などありません』と怒って湖の中に消えてしまった…それ以来、男には金玉があり、女には玉が無くなったしまったんだ…」
転生者は神妙な顔をして話を終える。
「ちょっと!あんた! 何言ってんの!! あやまれ! 全ての女性にあやまれ!」
話を聞いていたカオリさんが、転生者たちに大声を上げて怒り始める。
「そうですよ! 貴方たち、ラジルに何を教えているんですか!!!」
私もカオリさんと並んで転生者に声を上げる。
「やべぇ!! マールたんとカオリンじゃないか!! 皆、逃げろ!!」
一人が声を上げると転生者たちは蜘蛛の子を散らす様にわらわらと逃げ始める。
私は本館へと走り、急いで階段を降りて、ラジルの所へ辿り着く。
「あっ、マールお姉さま!」
ラジルは私の姿を見つけて、笑顔で手を振る。
「ラジル! あんな変な話を信じちゃいけませんよっ!」
「はい! 分かってますよ、マールお姉さま、男は強いだけではなく、笑い話の一つでも話せるようになれという事ですね?」
「えぇぇっと…別に笑い話でなくてもいいのよラジル…」
私はそれ以上、どう話してよいか分からなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、陸橋では…
「あぁ…つまらない話だったわ…聞いて損しちゃったわ…ところで、トーカ、どうしたのよ?」
「お、お腹が苦しくて…」
どうやら、トーカには受けたようだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
現在、新作として『悪[霊]令嬢 ~とんでもないモノに憑りつかれている私は、そのまま異世界に転生してしまいました~』を連載中です。
同一世界観の物語です。
異世界転生100~私の領地は100人来ても大丈夫?~ 野生の転生者が100人もやってきた!? にわとりぶらま @niwatoriburama
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