物陰

しゃくさんしん

物陰



 昨夜、女のからだの吊り下がっているのが発見された、公園の真ん中に佇む一本の樹。夜が明けて、そこにはなにもなくなっていた。

 樹へただ風が吹き葉は軽やかにさわぐ。人の無い公園は、光に溢れて、地の果てまで静まり返っていた。少女はその傍にぼうと立って、枝の広がるあたりを眺めていたのだった。円い目に霊が映ってでもいるように、なにも語らぬひたむきな眼ざしを投げ出している。そこに首を吊った者があったと、誰か彼女に教えた者でもあったのだろうか。私は少女の周囲にも公園の外にも人の気配がないことを再び確かめて、そっと歩み寄り、傍らに立つ。こちらを見返さぬ白い横顔に、私の影がかかる。



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物陰 しゃくさんしん @tanibayashi

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