蛇足.保護者のロルスさん~拾った小動物が厄介すぎる生き物だった件~
かわいい子には旅をさせよ。
かの世界にはそういう言葉があるのだという。
本当にかわいく思うのなら、甘やかすだけではなく、きちんと世の厳しさも教えてやるべき、という意味なんですよ、と今ではこちらの言葉を自在に使いこなすようになった「迷い人」が言っていた。
「まあ、わたしはかわいくもないし、先生の子どもでもないわけですけど」
旅くらいさせてくれてもいいんですよ、とでも言いたげにこちらを見ていたのには気づいていたが、あえて無視させてもらった。
ミャオ。
正確な名前はミヤオ=ネコだと彼女は名乗ったが、呼びにくいのでミャオと呼ばせてもらっている。そちらが名前だと思っていたのだが、つい最近ミヤオが家名だということを知った。
「村の人にも定着してますし、今の呼び方のままでいいです」
ネコと呼ぶべきだろうか、と迷っていたら、特にこだわりのなさそうな本人がそう言ったので呼び方は変わっていない。
そもそもこだわりがあったなら、僕が「ミャオ」と呼び始めたときに訂正していただろう。
もとの世界の親しい人々にはなぜか「ニャーコ」と呼ばれていたようだが、そちらの呼び方にも強いこだわりはないらしい。
彼女の性格は、好意的に言えば「おおらか」。順応性も高いし、よく周囲のことも見ているし、そのうえでゆったりと構える余裕もある。
ただ、いかんせん己のことにだけ危ういくらいに無頓着なのだ。
ちらり、と窓の向こうに見える庭先に視線をやる。そこに見えるミャオの姿を一瞥し、深々とため息をこぼした。
最近近くのラーテ村に出かけるようになった彼女は、村人たちに頼んで「はんもっく」なるものを作ってもらっていた。
「いちど、やってみたかったんです」
ちいさな投網のようなそれをうれしそうに持って帰ってくると、わざわざ僕の了承を得て庭の木と木の間に渡し、以来天気のいい日の午後には「はんもっく」に横になって読書をしたりうたた寝をしたりしている。
今も気持ちよさそうに夢の中だ。
ちいさく揺れる「はんもっく」のすぐ下では、ドラゴンの一種である獣麗竜――ミャオはミミガーと呼んでいる――が小型化したうえで丸くなって眠っている。無防備なミャオとは違い、こちらは何かあれば即座に本来の姿に戻って牙を剥くだろう。
そんなひとりと一匹の周囲を多数の精霊たちが右往左往しながら漂っているのを眺め、もう一度ため息をこぼすと、視線を目の前に戻す。
机の上に、親指と同じくらいの大きさのちいさな小瓶がむっつ並ぶ。水晶柱をくり抜いて作られたそれの蓋には、それぞれ色の違う石が嵌め込まれている。
赤、青、緑、黄、無色透明、漆黒――宝石のようにきらきら輝くそれは、石ではなく自然の要素の結晶だ。
火、水、風、土の四大要素に加え、光と闇。
この小瓶はむっつで一組の「試しの小瓶」と呼ばれる道具で、魔法使いが弟子の適性を見るときに使われる。
使い方は簡単。弟子に蓋に嵌め込まれた結晶と同じ要素を周囲から抽出して小瓶にそそがせる。それだけで要素の扱い方のくせや、扱える要素の量、それから各々の要素との相性がわかる。
特に光と闇の要素は特殊で、相性が良くなければ認知することすらできない。ほとんどの弟子はふたつの空き瓶を前に、注ぐべきものすらわからず途方に暮れることになる。
一方、魔法使いが弟子をとるための最低条件も光と闇の要素を見ることができる、ということになっている。弟子の才能を正確に評価できなければ師となる資格なし、ということだろう。
当然、僕も弟子をとる資格は有している――これまでひとりとしてとったことはないけれど。
指先でこつん、と「試しの小瓶」をつつく。
先ほど、昼前の魔法の授業の際にミャオにやってもらったのだ。
我が家に「試しの小瓶」がなかったため、取り寄せていたら魔法を教え始めてからふた月近く経ってしまった。
ミャオは戸惑うことなく瓶の中身を満たしていった。
火の赤。
水の青。
風の緑。
土の黄。
そして――。
こつん、こつん、と小瓶をふたつ倒し、うなる。
ひとつの瓶にはほのかな光が。
もうひとつの瓶には渦巻く闇が。
「見事に抽出されてるな、光も、闇も」
傍らから聞こえてきた声に眉をひそめる。
いつの間にか現れていた大精霊を横目に見て、ついつい嫌味を口にしてしまう。
「またいらっしゃったんですか? ずいぶんとお暇なんですね」
「ミャオは私のご主人さまだよ? 四六時中いっしょにいたっておかしくない。そうだろ?」
きらきらしい美貌の主は、どこか優越感をにじませ、ほほえんでいる。
確かに使役魔法で結びついた主人と従者は、主人に何かあったときすぐに駆けつけられるよう、つねに共にいるのが普通だ。現にミャオのもう一方の従者である獣麗竜は愛玩動物のような姿でミャオのそばに張り付いている。
「だまし討ちのような手段で従者になっておいてずうずうしいですね」
ミャオ自身が望みもしなかった契約を押し付けたくせに、とにらみつけると、氷雪の大精霊も不満そうに目を細める。
「それはあの獣麗竜だって同じじゃないか。それなのに、お前は私ばかり遠ざけようとして」
この家やラーテ村、そこを結ぶ道など、ミャオが出かける場所には火の力を込めた場を張ってある。火とは相性の悪い彼にとっては「入れないわけではないが、長時間滞在したい場所でもない」はずだ。
それでも一日に一回はミャオの顔を見に来るし、こうして僕に文句を言う。
「あっちは別の一族とはいえ、同族ですからね、手軽で有効な手段がないだけです」
ドラゴンには多種多様な一族がいるが、共通しているのはこの世を動かす火・水・風・土・光・闇という要素がむっつに分かれる前の「原始の力」を扱うという点だ。目の前の大精霊のように何か特定の苦手な要素があるわけではないし、ドラゴンがひどく苦手にしているものは半竜である僕自身にも多少なりとも苦痛を与える。
「どっちにしろ、使役魔法解除の方法が見つかったら、双方追い出しますよ」
ミャオ自身がいらないと言っているのだから。
「そうなったらなったで、姫君のそばにいられる別の方法を考えるよ」
「なんでそうなるんです」
不要なのだと突きつけてみても、まったく引く気配がないのはどういうわけだ。
うんざりとため息をこぼして、これ以上の会話を切り上げようとしたのだが――。
「だって、あんなにおいしそうな香りをさせている子から、離れるなんてできないよ」
恍惚の響きを帯びた甘いささやきに、ぎょっとそらしかけた視線を戻す。
白銀の髪にアイスブルーの目をした美青年姿の大精霊が、うっとりとだらしなく緩んだ笑みを浮かべ、窓の外を見つめていた。
もちろん、その視線の先にいるのは、無防備に眠るミャオだ。
「ああ、なんていい香りなんだろう。さわやかで、甘くて、でもまだ熟しきっていないような青さもあって、少し苦い……」
ちろり、と薄い隙間からのぞいた舌が、薄紅に色づいた唇を舐める。アイスブルーの目は潤み、とろけそうに揺れていた。
「かじってみたら、きっと――」
うわごとのようにそこまで言って、やっと身構えた僕に気づいたらしい。
「やだな、そんなことしないよ」
たった今までの欲をあらわにした表情を引っ込め、こちらを馬鹿にしたように片手を振る。
「食べたりなんかしたら欠けてしまうじゃないか。そんなもったいない」
今のままの姫君がいいんだよ、と言ってから、底意地悪そうに唇をつり上げた。
「お前だって、そう思うだろう?」
内心を見透かされたようでぐっと言葉に詰まる。
ミャオを見つけたとき、最初、そこに誰かがいるなんて思わなかった。彼女は、あまりに自然にその場になじんでいた。空気を乱すことなく、まるで空気そのもののように。でも、一度目にしてしまえば、視線を交わしてしまえば、もう目を離すことなんてできなかった。
たぶん、しばらくの間、自然と息を止めていた。
心拍数が上がって、喉が渇いた。
ごくり、と自分の喉が鳴ったことで、口の中に唾があふれていたことに気づく。
おいしそう、だなんて。
人間相手にそんなことを思ったことに驚愕する。ドラゴンの血を引くとはいえ、僕自身は人間と大差ない。
それなのに――彼女の存在は僕の中に眠っていた欲求をかき立てた。
あれを、まるごと自分のものにしてしまいたい。自分の中に収めてしまいたい。
同時に、理性が制止の声をあげる。
彼女は確かに甘美だろうが、食の快楽は一瞬だ。あの輝きは失われて、もう二度と戻らない。
指の先だろうと、耳だろうと、声だろうと、まなざしだろうと、何ひとつ失ってはならない。
あのとき、獣麗竜のことを思い出さなかったら、僕はいつまでだってミャオを見つめて固まっていただろう。
「ああ、どうして姫君をいちばんに見つけたのが私じゃなかったのだろう」
何やらぼやく声がするが、そんなことになっていたら、今頃ミャオは万年雪に閉ざされた宮殿に軟禁されていたに違いない。
精霊やドラゴン、魔法使いや一部の才に秀でたもの――そういったものが惹かれずにはいられないものをミャオは持っている。
彼女自身は自分のことを少し器用なだけで特筆するところのない「キヨービンボー」なのだと言っていたけれど、とんでもない。
確かにずば抜けた才能はない。それでも、すべてを、同じように、平均より上手にこなす。
すべてのことを、だ。
特別得意なことがないかわりに、苦手なこともない。
それは「万能」と呼ぶにはささやかな、しかし確かな「調和」の結実。
方向音痴だけは彼女の欠点と言えるかもしれないが、あれだって彼女自身「調和」がとれているばっかりに力の偏りのある場に引き寄せられているのだと僕は睨んでいる。
加えて、すべての要素を扱う才能。
僕や精霊、ドラゴンたちにはそれでじゅうぶんだ。
僕たち魔法使いや精霊は大きな力を持てば持つほどどこか偏った存在になっていく。一部の特殊な才能を持つ人間も同じだ。そんな僕らにとって「調和」のとれた存在は自分とは対極にあるもので、だからこそまばゆい。それを自分のものにしたいと願ってしまう。
一方、ドラゴンは「原始の力」を扱うため、混沌としてはいるもののバランスのとれた存在だが、自分たちによく似ているもののまったく違う六要素の使い手を好む傾向がある。
母(ドラゴン)曰く、ちいさくてか弱い小動物がわたくしたちと同じような気配をさせていたら気になるじゃない、と。
風変わりでひ弱な自分たちの変種、くらいのつもりらしい。そしてもともと同族に甘いドラゴンはその「変種」に強い庇護欲をそそられる。
独占欲ゆえか、庇護欲ゆえか、違いはあれどこの世界の力あるものは六要素の使い手に魅了され、彼ら彼女らを囲い込もうとする。
それが難しいとわかれば、普段は誰に膝をつくこともしないものたちが、彼女と関係をつなぐために頭を垂れ、なりふり構わずすり寄ってくる。
はあ、とため息をつくと、隣で目を細めてミャオを見つめ続けている大精霊に声をかけた。
「そろそろお帰りになっては?」
ミャオは彼と顔を合わせれば挨拶くらいするが、特に従者として扱うつもりはないらしい。むしろ会うたびに困惑をあらわにしている。
ミャオの顔を見るという日課は済んだのだ。さっさと帰ればいいのに。
「起きている姫君にご挨拶申し上げたかったが、しかたない」
アイスブルーの目を切なげに伏せてから、ちろりとこちらを流し見る。
「お前も『先生』などと姫君から呼ばれているが、ゆめゆめ己の立場を違えたりするなよ」
ふん、と鼻を鳴らすと、その姿は幻のように揺らめき、消え去る。
言い捨てていったのは、牽制か、負け惜しみか。
「……心配無用ですよ」
気配はもうないとわかっていたが、つい口に出してつぶやいた。
手元の「試しの小瓶」にもう一度視線を落としてからゆるく首を振る。
何度眺めたところで結果は変わらない。
立ち上がり、家を出ると窓から見えていたミャオのもとへ向かう。
日が翳るにはまだ早いが、そろそろ夕方の家事を始める時間だ。すべて僕が終わらせてしまってもいいのだが(大した手間ではない)、それをするとミャオが「働かざる者、食う、べからず……」とつぶやいて死にそうな顔色になり、夕食になかなか手を付けようとしなくなるので、家事はなるべく分担することにしている。
「はんもっく」に近づいていくと、そこから一定の距離を保ち飛び回っていたたくさんの精霊たち――僕が火の力を込めた場を張っているせいで氷雪や木に属する精霊はほとんどいない――が僕に道を譲る。ドラゴンの母を持ち六要素の魔法使いでもある僕を慕って家に宿ってくれている精霊たちはもともと多いが、ミャオが来てからは数がさらに増えた気がする。
家の中にまで入ってくるのは古株の精霊たちだけなので今のところそれほど警戒する必要も感じていないが――と周囲の精霊たちに視線を巡らせていると、滅多に表に出てこない我が家のかまどの火の精と目が合った。
ミャオはかまどの火の精にあまり歓迎されていないと思っているが、それは違う。火の精はミャオと仲良くなりたくて、でも仲良くなりたさすぎて、うまくしゃべれずにいるだけなのだ。あと、緊張しすぎて火力の加減を間違いかねないので、僕のほうでもミャオとの接触を避けさせている。
今も僕からぱっと目をそらすと、恥ずかしそうにしながらちらちら「はんもっく」で眠るミャオを盗み見ているくらいだ。ふつうに意思疎通できるようになるにはもうしばらくかかるだろう。
「罪な子だよ、ほんとに」
苦笑まじりにつぶやく。
ミャオに一歩近づくごとに、空気が澄み、おだやかに凪いでいく。彼女自身の「調和」の性質が周囲にも影響しているのだ。
調和のとれた場というのは、そもそも安堵に包まれる場所だ。自分に欠けているものを補ってもらえるような、満たされまどろむような、幸福感を与えてもらえる。
そんな心地いいミャオのそばにいたくて、ミャオに好いてほしくて、下手なことをして嫌われたくなくて、ぎこちなくなって遠巻きにする。かまどの火の精霊も、今、ミャオの周りを漂う精霊たちもそれは同じだ。
自信をもってぐいぐい行くのは、あの氷雪の大精霊のような一部の例外だけだろう。
「はんもっく」の傍らに立つと、足元の獣麗竜が薄く目を開け、鼻を鳴らしてすぐに目を閉じた。
僕が近寄るのはあまりおもしろくないが、追い払うほどでもない、ということか。
「ミャオ」
呼びかけても、警戒心もなく眠りこけている娘はそう簡単に起きない。うっすらと目の下に浮かぶクマが痛々しい。
時おり、夜中にベッドの中で声を殺して泣いていることは知っている。本人は割り切ったようにふるまっているし、一度もパニックに陥っていないところはすごいと思うが、彼女だって木石ではない。いきなり飛ばされた異世界で、不安にならないはずがない。
そんなとき、何もしてやれない自分が歯がゆくなる。
「ミャオ」
もう一度呼びかけ、頬にかかってしまっている黒髪をそっとよける。
「ん」
ちいさくうなって身じろぎしたものの、やはり目は覚まさない。
彼女が動いたことで指先に触れたなめらかであたたかな頬の感触に誘われるように、さらに指を這わせようとしてしまった自分を戒める。
本能の衝動を押し殺しミャオに手を差し出したときに決めたのだ。
僕は彼女を守る。保護する。
彼女が望むよう、いつか元の世界に戻るまで。
魔法使いとしての独占欲でも、ドラゴンとしての庇護欲でもなく、ただ、彼女をこの世界で初めて見つけた者の責務として。
だから、僕自身がミャオを縛りつけるような存在になってはならない。
「先生」と慕ってくれる彼女にいとしさが募ろうと、僕はあの大精霊が危惧しているようなことはしない。
安らかな呼吸を繰り返す寝顔は、起きているときより少しだけいとけなく見えるが、彼女がたびたび主張するようにもう十分大人のものだ。
これといった特徴もなく、かといって崩れたところもない地味だが整った目鼻立ち。目を覚ませばそこに愛嬌のある表情が浮かび、感情に従ってくるくると変化する。
僕の守るべき、望むと望まざるとにかかわらず強力なものを引き寄せてしまう困った生き物。
彼女のような存在はめったに生まれてこないし、生まれてもすぐにどこかに囲い込まれてこの世から姿を消すか、知能より本能に従った魔獣に襲われて幼いうちに命を落とす。
たまに我が家を訪れる魔法使い仲間も、僕がミャオをどこかから見つけてきて囲い込んだのだと思っているらしく、何度か「ほーん、淡白そうなお前もやるもんだね」だとかからかいの言葉を投げかけられた。もちろん否定して、二度とそんな軽口が叩けないように釘を刺しておいたが。
本当は、元の世界に戻ることもあきらめて、誰かに囲い込まれてしまうのがミャオにとっていちばん楽なのだろうと思う。きっとその誰かは、ミャオのことをそれはそれは大切にしてくれるだろう。ただ、食べて、寝て、好きなことだけをして暮らすことも許すだろう。
「そんなこと、君は望まないんだろうけど」
どんなに望んでも、努力しても、ミャオは彼女自身のあこがれる「才ある者」にはなれない。わかっていると口にして、もうあきらめましたと笑って見せるくせに、ふとした瞬間に悔しそうに唇を噛み締めていることを本人は気づいているのだろうか。
ミャオは――おおらかでいて、負けず嫌いなところのあるこの子は、たとえ自分があこがれの姿に到達できないとしても、ひとりで立つことも、自分ができることから目をそらすことも、決してしない。
自分を「キヨービンボー」だと言ってコンプレックスをにじませるけれど、たとえ一流にはなれなくても、一流に限りなく近い二流にはすべての分野で到達できる能力をミャオは秘めている。それは時として、何かひとつの分野で一流になるよりもずっと難しいことだ。
もしかしたらミャオは、彼女自身が想像もしない、厄介で偉大な存在になるかもしれない。
どこに囲い込まれることもなく成長する六要素の使い手にして「調和」の体現者は珍しいが、いないわけではない。ひとり立つことをやめなかった彼らの中には歴史に名を遺す精霊使いやドラゴン使いになった者もいるのだ。
でも、今はまだ、自分の身を守るのも心もとない雛鳥だから――。
「守るから」
もういちど、彼女自身に聞こえていないとわかっていて口にする。
君を囲い込もうとする力あるものからも。
君を喰らいつくそうとするけだものからも。
君を愛してしまいそうになる僕自身からも。
いつか君が元の世界へ帰るときが来たら、必ず笑って見送る。
「誓うよ」
耳元でささやくと、何もわかっていないだろうにミャオは「んふふ」と笑う。
「せー、んせ」
ごにょごにょと寝言をつぶやき、頬に触れるか触れないかのところにとどまっていた僕の指をつかみ、握り込み、そのまま寝息を深くする。
まるで赤子のような無邪気さだ。
「これ、なんて試練なんだろうね……」
そうぼやきながら、僕はあともう少しだけこのおだやかな幸福を享受することにした。
自分の力で飛べるようになったら、君はきっとここから飛び去ってしまうだろうし、それはきっと遠くない未来の話だ。
だから、あと、少しだけ。
僕が拾ったかわいらしい小動物を愛でようが罰は当たるまい。
迷子のネコさん~方向音痴の自覚はあったが異世界なんて聞いてない~ なっぱ @goronbonbon
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