大好きな君に。

雨世界

1 流れ星の落ちる場所。

 大好きな君に。


 登場人物


 日下部若菜 中学三年生 十五歳


 双葉守 中学三年生 十五歳


 プロローグ


 流れ星の落ちる場所。


 本編


 私は走る。……大好きな君のいるところまで。


 誰かが誰かに恋をすることは、星が大地の上に落っこちることに似ている。気持ちのいい夏の夜風が吹き込んでくる開けた窓から、夜空に流れる一つの流れ星を見てそんなことを今年、十五歳になる中学三年生の少女、日下部若菜は一人思った。

 ……明日は、きっといいことがありますように。

 そんなことを流れ星の消えてしまった美しい星空に若菜は願った。

 そして、とても安らかな気持ちで、若菜は世界で一番安心できる場所である自分の部屋の自分のベットの中で、安心できる眠りについた。

 その日、若葉は夢の中で、大好きな双葉守くんと出会った。


 日下部若菜が双葉守に一目惚れの恋をしたのは、(……たぶん)偶然の出来事だった。(きっと偶然、その場所に星が落ちたのだ)

 

 どーん、と夜空に綺麗な花火があがった。


 その花火の光と音を合図にして、紫陽花柄の浴衣を着ている日下部若菜は全速力で走り出す。

 お祭りの日の、ところどころにぼんやりと淡く光る灯篭の灯りのともっている、真っ暗な夜の中を。

 見慣れた神社の境内を。

 君と歩いた参道を。

 賑やかな声の溢れる、屋台の並んでいるたくさんの幸せそうな顔をした人たちがいるとても明るい道の上を。

 ……大好きな、君のところまで。


「守くん!」

 神社の裏手にある暗い土手の上にいる双葉守の姿を見つけて日下部若菜はいう。その場所から一人で花火を見ていた守は驚いた顔をして、さっき別れたばかりの若菜を見る。

 それから若菜はゆっくりと歩いて、紺色の朝顔の柄の浴衣を着ている守の前まで移動をした。


「好きです」汗をぬぐって、呼吸を整えてから、まっすぐな目をして、とても真剣な顔をして若菜は言う。

 その若菜のまっすぐな眼差しを見て、まっすぐな声を聞いて、きょとんとした顔をしていた守は、若菜と同じように真剣な顔になって、若菜と同じまっすぐな目で若菜を見る。

 そうやって、二人がもう一度、向かい合う瞬間、また、どーんという音がして夜空に綺麗な花火が上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大好きな君に。 雨世界 @amesekai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ