C級地縛霊が出品されているなら今が買い時

ちびまるフォイ

便利と幽霊を支える人々

「お前、ほんと運動神経ないんだな」

「ほらジャンプしてみろよ」

「あっはは。こいつの動画撮ろうぜ」


学校は地獄だった。

群れのときだけ強がる奴らに俺はいつもからかわれていた。


「ただいま……」


学校を早退してきたが誰も家にいないのは幸いだった。

父子家庭で父親はいつも配達業で忙しくしている。


俺の早退はあいつらと距離を取るのと同時に、

学校に対して「早退させる原因がなにかある」と気づかせるSOSなんだ。


「あーーあ、あいつら早く死なねぇかな」


頭の中ではどうにかしてクラスメートを暗殺する事ばかり考えている。

スマホでは無意識のうちに包丁だとかロープだとか物騒なものを検索していた。


ふと、ショッピングサイトのおすすめ商品に見慣れないものが並んだ。



あなたへのおすすめ:C級 幽霊



「幽霊!?」


思わずページを表示すると、幽霊のプロフィールや怨念の強さが書かれている。


「これをあいつらにおしつければ……!」


購入ボタンを押して、配送先を嫌な奴の一人の住所を選択する。

最近は置き配ができるのでかえって好都合。


翌日、いじめっ子のひとりが学校に投稿していないことで群れた奴らはざわついていた。


「なんか熱があるんだってよ」

「昨日はめっちゃ元気だったよな」

「それに体が重いってうなされてるとか……」


漏れ聞こえる心配そうな会話に笑いがこみあげてくる。

因果応報とはまさにこのこと。


その日はひさしぶりに穏やかな学校生活を送ることができた。

けれど、けしてアイツらへの攻撃の手を緩めることはない。


購入ボタンを連打して、たくさんの幽霊を奴らの住所へと送り届けていく。


幽霊を送られた人間は体調を崩したり、軽いけがをしたりと症状はさまざまだった。

しだいに学校に奴らが来なくなってからは快適そのものだった。


人に害をなす人間はさっさと追い出すのが良い。


次に配送する幽霊はどれにしようかと選んでいるとき、

目の前にいじめっ子のボスが立っていることに気づかなかった。


「おい、お前。オレのダチになにした?」


「え? なんのこ……ぐえっ!!」


答えをいい切る前に顔をぶん殴られた。くらくらと脳が揺れる。


「お前にかかわっていた人間が立て続けに体調崩してるんだよ!

 てめぇ、なにか毒を盛ったりしたんじゃねぇか!?」


「ただの学生にそんなことできるわけ……」


「だったら説明つかねぇじゃねぇか!!」


なおもうずくまる俺の背中に蹴りを入れてくる。

友情とかいうためだったら人を傷つけていいと思ってるのか。

絶対に許さない。


腹立ちまぎれに俺をなぐり終えたボスは去っていった。

でもこのまま見逃すわけにはいかない。


俺はあいつの住所を把握していないので、幽霊配送ができなかった。

これだけ殴られたんだからそれ以上の報いを与えないと釣り合わない。


「あ、あれ……体が……」


起き上がろうにも痛みで動くことができなかった。

ぼやける視界の中で遠ざかる背中を見守るだけだった。


家からの迎えが来るとボコボコに殴られた顔を見た父は絶句した。


「お前……どうしたんだ!?」


「別に……」


「別にじゃないだろう。いったいなにが……」


「もとはといえば、父さんが離婚したせいもあるんだからな!」


「離婚? お前が殴られたことと、父さんの離婚になんの関係が」


「みんな参観日のときに母親が来てたのに、うちだけ父さんが来てた。

 そこから"お前の父親オカマか?"ってからかわれたんだ!」


しだいにからかいの対象は"なにをしてもいい相手"へとシフトして今に至る。


「すまん……そんなこと気づきもしなかった」


「だろうね。普段から家に帰らないし俺に興味もないんだろ!

 どれだけ殴られても"かわいそう"で済ませて、明日には仕事へ行くんだから!!」


「それはお前の生活のためでもあるんだ」


「俺のせいにして逃げようとするな! なにがお前のためだ!!」


「悪かった……明日は早く帰るよ。なにか美味しいものでも食べてゆっくり話そう……」


「それで父親として努めを果たした気になれるなら好きにすればいい」


肉親ですら自分の味方になる人は誰もいない。

この世界ではすべて自分で解決しなければならない。


「どうにかあいつに特大の幽霊を押し付けてやれれば……」


最後に残ったボスには特大のA級幽霊をぶつけてやろうと思った。

問題は住所がわかっていない点。


個人情報が厳しく扱われている現代で調べるのは難しいだろう。


「……待てよ? あいつ学校にいつもあの方向から来てたな」


住所はわからないが、どの道を通って学校へ来ているかは把握していた。

それなら必ず通る経路に幽霊を押し付ければいいんじゃないか。


A級幽霊の注文ページで購入ボタンを押す。

画面には大きな注意が表示される。


『A級幽霊は非常に危険な幽霊です。

 あなた自身や家族にも害をなす危険があります。

 それでも購入しますか?』


「それでこそA級幽霊だ」


俺は迷わず購入ボタンを押した。

害をなすといっても送られるのは俺ではなく別の場所。


幽霊が仕掛けられる道には俺は通らない。

それに注文履歴からこちらが特定されないように別アカウントでやっている。

幽霊の力が俺に及ぶことはない。


「明日が楽しみだ」


翌日は早めに学校に行って机に座ると、窓から外を眺めていた。

目線の先には今日配送される幽霊のポイント。


「あっ、来た!」


いじめっ子のボスが登校して指定のポイントに向かうのが見えた。

どんな不幸な目に遭うのか楽しみで仕方ない。


そして、幽霊が送られている通学路に足を踏み入れた。


「いけーー!!」




ボスは何もないまま普通に道を過ぎて、淡々と学校へと入ってしまった。


「なんで……!? なんで何も起きないんだ!」


何度確認しても配送場所の指定は間違えていないし、購入もされている。

注文詳細を確認したときまだ「配送中」という表示になっていた。


普段ならとっくに幽霊が送り込まれている時間なのに。

なんで一番欲しいタイミングでこんな焦らされなくちゃならないんだ。


「くそ!! なんでこんなにトロいんだよ!! さっさと配送しろよ!」


思わず毒づいたとき、担任の先生が慌てて入ってきた。


「はやく病院へ! 君のお父さんが……!!」



病院へ着く頃には、とっくに父親は死んでいた。

配送中に事故に遭ったという。



荷物はなかった。

ただ配送先は俺が指定したあの通学路になっていた。

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