とても痛い聖誕祭17:50

琉水 魅希

第1話 誰にも祝って貰えないなら自分の生み出したキャラ達に祝って貰おう!


 木枯らしも吹き、紅葉が世界を包みし頃。

 人々は風情と非日常を求め、森に、谷に、川にと足を運ぶ。

 そこに純然たる意志はない。人の遺伝子の中に、秋は紅葉を楽しむものだと刻み込まれている。


 それは他の事にも当てはまる。

 可愛いものを愛でる、頭を撫でたくなるのは必然。

 そこに悪意も雑念もない。

 人々は集う。現実では得られないものを得るために。


 【ないものねだり。】


 ここはそんな非日常の中に安息と萌えを提供する。 


 今日もまた、日常に疲れし企業戦士が一人その扉を開いた。



 「いらっしゃいませにゃ。ご主人様。」



☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 この日店員……ねこみみメイド達は慌ただしかった。


 17時に予約のご主人様をもてなすための準備に追われていた。

 カレン曰く、本日のご主人様は夕方からお店を16時から4時間貸し切りにしているらしい。

 それはつまり、超VIP。

 ……というわけでもない。普通に時間単位いくらで貸し切りは可能である。

 飾り付けと料理の準備も含めれば中々の時間である。

 最初の1時間はその準備の時間のためでもあった。

 そうとう気合の入ったご主人様なのだろう。 



 17時、ご主人様達がご来店ならぬご帰宅してくる。

 全部で10人程度。お誕生日席に座った冴えない中年が本日の主役。

 綺麗な飾り付けのされた店内は秋だというのに、夏祭りの中にいるようであった。

 それは色々な色の紙テープによる様々な飾り付けであった。

 まるで小学生の頃に戻ったかのような空間は、メイド達も何かを感じ取っていた。

 



 突然店内が暗くなり、【エチュード ハ短調 作品10-12<革命のエチュード>】が流れ出す。

 厨房からスボ手牡丹とカラースパークの花火と共に、太いのと細いのとで合計〇〇本の蝋燭が灯されたケーキが運ばれてくる。

 流石に火玉がケーキに入ってはいけないという事で、花火はケーキの横に別途セットされている。

 持ち運んできたのは流石ヤンキー、こういうのは得意な恵ことめぐにゃんである。


 テーブルに置かれると音楽は音を極小に落とされ、スボ手牡丹の綺麗な模様が風情を感じさせる。

 流石300年の歴史。これが本当の線香花火である。

 ぱちぱちと花火のダンスが終わらぬままねこみみメイド達はクラッカーを両手に持ち続々と客席へと集まってくる。


 「¡Feliz cumpleaños!」

 ファンファーレ!の音楽と共に、ねこみみメイドさん達が声を揃えて一斉に祝福した。

 パンパーンとクラッカーの音が鳴り響き、中に詰まっていた色のついたテープが虹の川のように飛び出してくる。


 「琉水 魅希様お誕生日おめでとうございますにゃ。」

 メイド長兼オーナー兼店長のカレンから祝福の言葉が舞い降りる。


 「みきるんおめでとー。」

 「みきにいおめでとう。」

 「みきさんおめでとう。」

 その場に集まった他の客、つまりは友人達も祝福の言葉を次々に発していく。



 「〇〇おめでとう。」

 誰だ!唐突に本名で呼ぶ奴は……

 2年前、霊体となった親父であった。

 こうした萌えとは程遠い者からの祝福。

 死後の世界は娯楽が少ないのかもしれない。

 こうして現世に干渉するくらいには。


 本名とはあくまで現世での名であって、真名ではない。

 あ、こらそこ。痛いとか中ニ病拗らせてるとか言わない。


 17時20分。


 ケーキにぶっ刺さった太いのと細いの合わせて……本の蝋燭を一息でかき消した。

 決してモルボルの臭い息ではない。



 カレンを始めねこみみメイドである恵、七虹の古株を始め、かつて働いていた友紀、三依、忍、音子、光恵、苺、真希、夏希、秋希達が祝福の拍手と……


 琉水 魅希聖誕祭の歌を歌った。 


 それはもう痛々しい歌詞であったがメイドさん達は嫌な顔一つせず合唱していた。

 ついでに……友人たちも当然の如くそれに続いた。 

 

 ぐろ~りあ~ぐろ~りあ~と何が栄光なのかは分からない。

 

 

 聖歌が終わると、カレンはもう一度蝋燭に火を灯し、三脚にセットした一眼レフカメラをタイマーセットする。


 「それでは改めまして~」


 「¡Feliz cumpleaños! 〇〇回目の誕生日おめでとうございま~~す!にゃ」


 カシャカシャカシャ……


 霊体となった親父の連れてきた他の霊が、タイマーでは生ぬるいと代わる代わる連写していた。


 そこには本人を中心に友人達、ねこみみメイドさん達、数体の霊体が納められた記念の写真が撮影されていた。

 キャラ達に愛されるのなら本望だ。だから自分もキャラ達を愛そう。





――――――――――――――――――――――――――



 後書きです。


 こういう馬鹿な企画というか話を書く勇気のある者は多分中々いませんよね。

 誰が好き好んで作者自らが登場人物になって、それも自虐ネタをする必要があるのか。

 何年か前だと、ハッピーバースデー トゥミーなんてのもやってましたね。

 世間で流行る何年も前から自分チョコとかもやってたし。


 1年に1度しか出来ないからこそやる。

 そこにシビれなくても良い、あこがれなくても良いィ



 ほら、作家の皆さんも自分の誕生日でやられてみてはいかが?

 アニスミアのねこみみメイド達はいつでも出張可能です。

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