画面のある暗い棺桶
砂地屋
画面のある暗い棺桶
暗い部屋に男がいた。
寝転んで天井の闇を見つめている。
男は身体を横にした。
男の顔の前には壁に設置された画面がある。
指で画面をタッチをしていくと、光がついてある女性の写真とその会話履歴が出てきた。
その会話は男の返事で終わっていた。
それはつい5分前にも見た光景だった。
男は苦しそうに息を吐き、元の画面に戻して寝返りをうち、また、闇を見つめ出した。
どれほど経っただろうか。
男はいつしか眠りにつき、その間に壁の画面の端に光が灯っていた。
急にビクッと身体を震わせた男は酷い顔で起き上がった。
慌てた様子で画面を確認すると、端の光を見たせいなのか安堵の表情を浮かべた。
佇まいを直し、男は画面を切り替えていく。
会話は更新されていた。
男の頬が少し緩む。
眼球が右から左へ行ったり来たりをたっぷりした後、男は画面に文字を入力し始めた。
相手を肯定し褒めるような内容が書き込まれていき、ある程度打つと心地の悪い言葉がないかの読み直しをする。画面上の言葉は行ったり来たりを繰り返されながら徐々に増えていった。
読んだ時間の数十倍をかけて結び終えた文章に満足したのか、男は送信の文字を押す。
画面の端が点滅したのを見届けると男はまた寝転んで、闇を見始めた。
そんな生活を男は3ヶ月繰り返した。
男にとってそれは楽しい日々だった。
暗い部屋に入る前の生きる気力のない彼とは違って、目に意思が宿り始めていた。
しかし、ずっと続くと思われた会話はある日途切れた。
男は女性を心配する内容を送った。
少しして女性から大丈夫との連絡が来た。
男も安心してメッセージを送り返した。
その後だった。
返事が返ってこないまま3日が過ぎた。
男は見違えてしまった。
暗い部屋に入った時のような虚な目を画面に向けていた。
顔には掻きむしった傷ができていた。
食欲も減衰したのか、頬も痩けている。
暗闇を見つめることはもうなかった。
画面をずっと凝視していた。
男は衝動的に手を動かした。
なぜ連絡をくれないのか。
そう打った。
暗い部屋は暗い棺桶に変わった。
画面のある暗い棺桶 砂地屋 @Sunachiya
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