残雪は虚しく…桜色に染められる(1)

 冬休みが明けると、教室内は又しても僕の嫌いな話題に埋れた。各々の冬休みだとか、お年玉の金額だとかそう言ったことに他人が興味あるわけなかろう。それでも口を塞がないのは、気が付かないからだ。自分の話をしている時の周囲の表情を見ればわかりそうなものだが、そう簡単でも無いみたいだ。




 僕には関係のない事だと割り切り、手にしていた本に視線を落とした。数行読み、物語の中へ入り込めそうになった時、教室の後ろの方からあの日の事を口にしている声が聞こえてきた。


「そういえば、ミスコンの浜辺と中村が初詣にいてよ、なんか中村の雰囲気違くて面白かったぞ」




 はっきりと聞こえているぞ。まあ、聞こえてもいい事だからこんな室内で口にしているのだろう。それに、誰かに言われるくらいなら大した事ない。僕にとって一番厄介なのは問い詰められる事。何故ならば、あの時の僕はどうかしていたから。きっと満足に受け答えすら出来やしない。けれど、きっと免れる事はない。時間の問題なんだ。




 そう思っていた僕の予想は的中した。とは言え、聞かれるまでに日にちを跨ぐとは思わなかった。日が変わるにつれて僕の席には人が集ってきた。勿論、彼らの興味があるのは僕なんかじゃなくて浜辺日和ただ一人だ。


 彼女はどんなものが好きなのか。 


 彼女は何が苦手なのか。


 彼女とはいつ頃から仲が良くなったのか。




 もう散々だ、そんなことを思った昼休み。同じクラスの河原さんが仲裁に入ってくれた。それで漸く事は収まって言ったのだ。僕一人では収集が付かなくなりお手上げ状態だっただろう。本当に勇ちゃんへの態度を除いては完璧な人だと思う。


 その場を収め、友人の元へ戻っていったはずの河原さんは、昼休みの終わり際に僕の元に歩み寄ってきた。そのことに気が付いてはいたが、特に逃げ出そうとも考えなかった。どうやら河原さんに話しかけられるのは嫌ではないようだ。




「今日部活ないから、図書室待ち合わせね」


 薄ら笑みを浮かべ、何か企みがあるかのように二ヒヒと声をもらす。


 僕を呼び出す意図は、まるで読めやしなかった。けれども、何かを企んでいるのなら出向いてやる必要など一切ないだろう。それでも、僕の身体は河原さんに従順だった。

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僕が恋した嘘つきさん達 心月みこと @kameyama8986

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