05 over extended.

 熱が下がってから。


 彼女は、自分の部屋に住むと言い出した。どんなにやさしく諭しても、彼女は聞く耳を持たなかった。すぐに、コップと歯ブラシとタオルを持ってきて。まるで以前からここにいたかのように、自分の部屋に住み始める。


 彼女は、勉強ができる。頭がよくて、器量もよくて。スタミナも、精神力もある。すごい人だった。


 でも、そういうところを好きになったんじゃなくて。その、何かを見るとどうしても放っておけない、やさしいところを、好きになったんだった。


 彼女。勉強を教えてくれるようになった。単位は全部取っているみたいで、一緒に授業を受けることはなかったけど。レジュメを家に置き忘れたとき、こっそり届けてくれたりした。


 彼女。いつも、暖かかった。


「ありがとう」


 そう言う度に。彼女は、決まって、いつも。


「わたしのほうが基礎体温高いから」


 謎の、体温マウントを取ってくる。


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午前四時、体温37度1分 春嵐 @aiot3110

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