賽の河原の鬼10人vs100人の人間

高田丑歩

やってられるか!

「やってられるか!」

 もうキレたダメだ耐えられない。石を積んでも積んでも完成間近で極卒に破壊される。先輩死人に聞けばこの賽の河原が出来てから石の塔を完成させた奴は見た事ないと言うクソっぷりだ。

 そもそも俺は草野球の試合で倒れてそのまま死んだのだが、何故そんな偶然死に関して責任を負わなきゃならないんだ。地獄を作ったやつは馬鹿で無能なのか?

 積み上げた石を蹴り崩す。極卒が俺を睨んでいる。反抗的な奴が今までいなかったわけではないだろう。狼狽しない極卒を逆手に取り、俺はやつの眉間めがけて石を投擲、見事命中させ転んだ所を馬乗りでボコボコにした。

 極卒が「やめて下さい!」とレイプされる女のように泣きわめいたのでしめたものだと思った。

「なら今すぐ俺を開放しろ」

「無理です!私にそんな権限はありません!」

 完全に怯え切った極卒がみっともなく叫ぶ。

「お前じゃ話にならん、よくわからんが閻魔とか偉そうなやつにかけあえ。じゃないと賽の河原の人間全員集めてこの辺の極卒を皆殺しにする。一週間待ってやる。俺は本気だ」

 そう脅してやると極卒はなりふり構わず駆けて行った。

 さて、あの極卒が言う事を聞くか定かではない。有言実行するためこの辺の人間を味方につけるとしよう。革命だ。戦争だ。わはははは。


                 ※


 一週間で俺は着実に味方を増やしていった。俺と同じように不満を持っていた奴は大勢いたらしく(当然だ)俺が極卒をぼこぼこにした所を陰でほくそ笑んでいたらしい最高な意気地なし野郎共だ。ここ数日話していて皆結構気が合うので背中を預けてもいい輩達だと判断した。

 面白いのは最近は日本の寿命が延びたせいで俺含め結構な年齢でもこの賽の河原に放り出されている事だ。それを鑑みてもさっさとこの地獄はアップデートするか破棄すべき形骸化した地獄だという事が伺える。

「お前がリーダーだな」

 約束の期日、そろそろ来ないとこの辺の極卒を一人ずつヤって行くぞと思った矢先背中から声がする。振り向くと数人の極卒を従えた強そうなゴリゴリの鬼が仁王立ちして俺を見ていた。極卒達は何故か全員ジャージだった。

「話は通ったのか? 俺達を開放しろ」

「悪いがはいそうですかと言う訳にはいかない。こっちも面子がある」

「じゃあ死ね」

「待て、反乱は我々も困る。だから一つゲームをしよう、ここに居る我々とそtぃぷ」

 グダグダと五月蠅いのでやつの眉間に石を的中させた。追撃を試みようとするが周りの極卒が必死に止めに入る。

「ちょストップストップ!このまま私達を殺したらそれこそ永遠に出られませんよ!そっちがゲームで勝てば開放するって異例の許可が出たんですから!」

 俺が最初にボコした極卒が怯えながら懇願する。クソ、一理あるな。結局開放する権利は地獄にある。みすみすその条件を棒に振るのはよくない。これはチャンスなのだ、落ち着け俺。

「そのゲームってのはなんだ」

「こちらの十人と、そちらの百人で鬼ごっこをして全員が捕まる前に石の塔を百段積む事が出来れば参加者全員解放します。悪い条件じゃないでしょう」

 俺は短い時間で熟考する。戦力に差がある、そこまで無理過ぎる内容ではない。条件が割りと良いのでちょっと怪しいが……。

 思わぬ事態に仲間共がざわついているからここは潔くビシっと決めてやろう。

「断る」

「えっ!?でもそれが条件ですので……」

「その条件が何か怪しんだよ。お前から消し炭にするぞ」

「か、勘弁してください。こればかりはちょっと」

 ちっ、ごねてみたがこれは無理そうだ。懸念材料はあるが飲むしかないな。

「いいだろう。でも少し作戦を練らせろ。明日決行だ。同じ時間にここに来い」

「なんでそっちが仕切るんですか……」

 少し面倒な事になったがまぁいいだろう。お役所仕事の極卒などに負けてたまるか、最後は必ず俺が勝つ。


               ※


 翌日。賽の河原から少し離れた場所、こっちは足に自信のあるやつ百人と昨日現れた極卒十人が遠くから向かい合う形で睨み合っている。俺達が解放される記念日だ、無血開城だ、そう全員が意気込んでいると突然地鳴りが周囲を包む。

 動揺するのは俺達だけで極卒達はニヤニヤしていた。野郎ども!やはり何か企んでやがったのか!

 すぐに周りの地面が盛り上がり、ざっと一ヘクタールくらいの敷地を囲うように壁が聳えたった。絶壁といっていい角度で見上げるそれは、俺達がここから出られない事を直感させる。閉じ込められたのだ。何の真似だ、ふざけやがって!

 何の合図もなく鬼たちが凄いスピードで迫ってきた。もう開始って事かよ、とことん舐め腐ってやがる。

「作戦通り散開!各自出来るだけ塔を建てろ!」

 俺の作戦はこうだ。

 十人ずつ十班に分かれて、一人が石を積む間残りの九人が極卒を妨害すると言うもの。単純に散ってくれれば九対一、戦力的には問題ない。犠牲型鬼ごっこだ。一応俺は各班の援護と指示で一人だけ皆から離れて一番遠くから石を投げている。俺だけ安全な場所にいたい訳では決してない。決してだ。

 各班と極卒が衝突を始めた。俺達が散ったのでやつらも少し焦ったようだが、こちらの思惑通り各々の班に極卒が散った。予想通りに事が進むと気分がいい。俺は俺でマイペースに投擲を続ける、一投一投のコントロール力が試される瞬間だ。草野球で俺はピッチャーだった。


 一番遠くの班、持ち前の素早い足裁きで極卒を翻弄している人物がいる。あいつはすばしっこいデブで愛嬌もあるのであだ名はハム太郎だ。俺と仲が良かった。ハム太郎が頑張っている。頑張れ今のお前は輝いているぞ、汗で。

 しかし不自然にその汗が宙に舞った、もっと詳細に言うと

「ハム太郎!?」

 さらに続く血飛沫、首が無くなったハム太郎は滑稽に痙攣しながら地面とダンスを踊っていた。なんてことだハム太郎がやられた! その光景をきっかけに地獄絵図が続く、仲間たちがどんどん虐殺されて行く。やつらめ、本気を出してきやがった。

「うわああああ!」

 ビビリにビビリまくった仲間たちがフォーメーションを崩し逃げ惑う。

「おいクソ野郎共!ちゃんと作戦通りに行動しろ!」

「こんなの聞いてねぇよ!殺される!」

「殺されたって死なないんだから我慢しろ!」

「いやだああああ、ぁ゛っ」

 ちっ、また一人殺された。ここは地獄なんだ殺されたって死ぬ事はない。以前この賽の河原に絶望して自殺したやつが翌日ピンピンしていたのを知っている。俺の事だ。

 こんな事ならこの事実を全員に話しておくんだった。そこそこ時間は稼げたが、あともう少しだと言うのに仲間が凄い勢いで減って行く。これは不味い、非常に不味いぞ。

 一人、極卒が他の奴など見向きもせず俺に向かってくるのが見えた。鬼のような形相をしてる。鬼だけど。よく見ると最初に俺がボコしたやつだった、相当根に持っているらしい。女々しい鬼め。

「ちっ」

 俺は戦略的撤退を試みる。

 しかしやつは以外にも足が速く、数分持たずに俺は追いつかれ鋭い爪でアキレス腱を切断された。倒れながら痛みに堪えつつ投擲、やつはそれを避けて俺に馬乗りになった。

 万事休すだ。

 俺はこの距離でも狙いを定めて再び投擲する、奴は寸前で避けて俺の首を絞めにかかって来た。

「ぶっ殺してやる」

 不意打ちならいくらでも極卒を殺せるが、こうマウントを取られると怪力の前に何もできない。俺は薄れる意識の中、一縷の望みを賭けて最後の投擲をした。やつはそれを簡単に避ける。だがそれでいい。

 首の骨が折れる音がする。

 意識がなくなって来た。

 俺の投げた石はどうなった?

 遠くで別の極卒が何か叫んでいる。

 それを聞いて首を絞める力が弱くなったのを感じた。

 恐らく成功したのだろう。

 首の骨が折れているから一度死ぬ事になるが、恐らく次は転生した世界で目を覚ませそうだ。


 拡散した班で極卒の注意を逸らし、俺が一点を目掛けて投げ続けた石は見事、隅の方で百段積まれたのであった。

 ざまぁ味噌カツ三十円。

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賽の河原の鬼10人vs100人の人間 高田丑歩 @ambulatio

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