11.『ミス・ドーナツ』


 2年前期の授業は4月の第2週から始まる。

とはいえ、1週目はほとんどの授業がオリエンテーション。90分を使いきれずに早めに切り上げる教師も多い。

 共同戦線を狙ってーーというか、主に沙織が戦力なのだがーー同じ履修登録をした3人は、中途半端に時間が余る度にボックスに入り浸っていた。


 集まってやる事といえばもちろん観測で得たデータの処理と分析である。



「それで、やっとライトカーブ画像の下処理が終わったのよね? 北山くん、ご苦労様」


「どうも。伊勢崎先輩のアドバイスもあって一応フラットとダークの補正をしようと思ったらメモリが足りなくて処理落ちしちまったんだ… メディアセンターに相談したら、大学の計算サーバーに使える枠があるからそれを申請して、環境を整えて、ーーやっと昨日計算できたってわけ」


「本当は、デスクトップのPC1台あれば苦労しない様なレベルの話なんだけどな…。生協PCじゃ無理だったか…」


「まぁ、良いんじゃないか? どうせライトカーブの推定も計算でやろうとすると結構重たいんだろ?」


「そう。まだどうやって計算しようか全然イメージできてないけど、俺たちのノートパソコンでは精度を落とした計算ですら厳しいかもな。ーー必要があればお前らの分の枠も使わせてもらうからな。同意があれば複数人の枠を合算して使えるらしいから」


「それは別に良いわよ。役に立つなら本望よ」


「それで、データは?」

「ほらよ」


 北山は机に載せていたノートパソコンの向きを変え、画面を2人に向けた。画面には表計算ソフトで描写されたグラフが表示されている。


 近似で曲線化された赤線のグラフには観測値を示す菱形のコマが並び、そこから上下にエラーバーが生えている。



「ライトカーブから得られた自転周期は4時間13分。そして大問題なのは…この2箇所の極端な減光だ。 俺たちが観測した掩蔽結果とも絡みそうな部分だな」

 北山が指先で画面を弾きながら言う。


 一周期の緩やかなトレンドの光度変化の中に唐突な減光が2度現れている。


「それで、この減光は結局何なのかしら?

 やっぱり衛星?」


「うーん、仮に衛星だとすると…、、2個あって、しかも減光の度合いが大きいから小惑星本体に対して相応の表面積を持つ筈だよな。

光度は表面積に比例する筈だから、最低光度と最大光度の差から小惑星と衛星の直径の比を試算できる…か?」


「あれ、ちょっと待っておかしいわよ。減光のタイミングから考えて、2個の衛星は小惑星を挟んでほぼ対角にある筈よ? そうしたら、衛星ー小惑星ー衛星と3天体が横並びになった時には凄く明るくならなければ辻褄が合わないんじゃないかしら?」


「… たしかに」


「それに、そもそもそんな大きな衛星が4時間ちょっとで公転しちゃうのかしら…? 力学的にも不自然な気がしてきたわ。だって、距離が近くても引力が大きくないとこういう運動はできない筈よ。その為には相当質量が無いと…」


「天体の運動は質量と距離で決まるから成立するか計算はできる筈だ。衛星の直径と衛星の距離が未知数として残るけど、連立すれば解けるだろう。直感的にはダメな気がするけどな、、最大光度は現時点で辻褄が合わないし…」

 そう言って日高は頭を抱えこんでしまった。


「んー… 考えても今は良いアイデアが出ないな。とりあえず、2人にもデータ送るからそれぞれで考えてみよう」


「そうね。どうにもならなかったらまた原先生に相談しにいきましょ」


「そうだなー…」

 日高はまだ頭の中から思考の渦を追い出せない様で上の空だ。


「さ、店出しの交代に行きましょう。新入生を獲得しないと来年は破産よ? 少子高齢化を食い止めないと未来は無いわね」


「俺は気心知れた少人数だけの方が気楽で良いと思うんだけどなー。今の3,4年だって結局ほとんど幽霊じゃん」

 北山が鞄にパソコンを片付けながら呟く。


「幽霊でも会費払ってくれるんだから、いい幽霊よ。とにかく、人数集めるか会費を増額しないと最低限維持に必要なお金が工面できないんだから。ーー頑張りましょ」


「はいはーい」


 相変わらず脳内処理に忙しい日高の背中を押しながら、2人はサークル棟を後にした。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 新学期が始まって初めての土曜日、日高は下宿の自室でパソコンのモニターに向かってため息を吐き続けていた。


 どめど無く溢れるため息の理由は2つある。


 ひとつは、やっと開示された1年後期の成績だ。1年生は専門科目の開講が少ない為、教養科目と領域外科目ーー他先攻の専門的な講義の単位ーーを重点的に取る時間割になる事が多い。


 日高は辛うじて領域外科目で目標の2単位を獲得したものの、教養科目では6単位を落としていた。いずれも朝一番8時45分から開始の授業であった。


 理由は明らかで、前夜の無理な観測によって起床する事ができずに積み上がった出席点ーー公式には出席点としてではなく毎回の小テストの点数としてカウントされるーー不足を、中間テストと期末テストの特典でカバーし切れなかったのである。


 日高は同じく欠席を重ねた北山と共に期末試験前に猛烈な追い込みを行ったが正直な所、試験の手応えは良くなくこの結果はある程度予測された事であった。


 1年後期に落としてた教養科目のうち2単位は必修科目の為、2年後期に再履修しなければならない。他の4単位も、再履修か他の講義の単位を以て充当する必要がある。


 楽しい事を優先し過ぎているという自覚はあったが、心のどこかで帳尻を合わせられるだろうと楽観視していた自分が居た。しかし現実は厳しく、苦々しい結果を突きつけられる事となったのだった。


 もうひとつのため息の理由は、ライトカーブの解析が捗らない、というよりも殆ど停滞している事だった。


 ライトカーブを計算機上でシミュレーションして再現する算段だったのだが、手法としてはライトカーブから形状を起こすのではなく、想定される形状のモデルからライトカーブを演算しそれを実際の観測結果と比較するというアプローチである。

 つまり、初期値として辻褄の合いそうな形状モデルを入力しなければならないのだが、そのにすら辿り着けない状況なのだ。


 一応、知見を求めて随時掩蔽観測ネットワークの掲示板にも投稿しているのだが集うアマチュア観測家達もライトカーブの解析となると持ち寄れる知見が少なく、最近では殆どレスが付く事も無くスレッドの空気も澱んでいる状態である。


 せっかく観測までしたのだから何とか先に進めたい。気持ちだけが空回りして、新しい形状や衛星のアイデアも別のアプローチも浮かんでこない。


 気づくと、時刻は0時半をまわろうとしていた。


「はぁ… シャワー浴びて寝るか…」


 これ以上ため息を吐き続けても何ひとつ進まない事を悟った日高は、今夜の戦略的撤退を決意すると就寝の準備を始めた。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



ーー何の音だーーーー


 日高の意識がゆっくりと浅瀬へ浮上していく。


ーー何だか前もこんな事あったようなーーー


 ぼんやりとした意識の中で思考が繋がっていく。薄目を開けると、緑のカーテンの布地が外からの微かな光に透かされて、室内はほのかに青緑に包まれていた。


(まだ夜か…)


 緩慢な意識で目を覚ました理由すら忘れ、寝返りを打って再び寝付こうとした時視界の中に白くぼんやりと画面を光らせるスマートフォンが目に入った。


(あぁ、通知の振動だったのか… 何だろうこんな夜中に…)


 日高は布団の隅に手を伸ばして充電ケーブルを手繰り寄せると、端末の画面に表示された通知を確認する。




《ねぇ、まだ起きてる?》




 沙織だ。強烈なデジャヴを感じて、日高は急速に覚醒していく。



《起きてるぞ、どうした?》


 素早くメッセージを打ち込んで送信。

 しばらくそのままトークの画面を見つめる。


 ーー既読が付かない。


 物音ひとつしない部屋の中で、自分の心臓が脈打つ音が際立って耳に届く。


 そわそわした落ち着かない気持ちを誤魔化すように、一旦SNSのタイムラインを開く。


 1分、2分、、堪えきれずに再びトークアプリの画面に切り替えてしまう。

 

 ちょうどその瞬間、既読の表示が付いた。

  

 日高の心拍数が一段と跳ね上がる。


 じっと画面を見つめたまま固まった日高の視線の先で、トークに沙織からの返信が追加された。


《今から通話してもいい?》


《いいよ》



 ほどなくして、通話要求の画面と共に端末が小刻みに震え始める。通話ボタンをタッチし、左手に持ち替えると耳に当てた。


「もしもし、日高? ごめんね、こんな時間に」

「お、おぅ、別に大丈夫だけど… どうした?」


「わかったのよ! 形がわかったわ!!」


「ーーえっ、、… なん、 の?」

「何のって、小惑星の形よ。ライトカーブを満たす形のアイデアが浮かんだの! …ごめんね、朝まで待とうかと思ったんだけど興奮して日高に伝えずには居られなくって」


「そ、そうか、、ちょっとまって」



 日高は一旦端末を布団の上に置くと、布団に倒れ込み声を出さずに頭を掻き毟りながら身体を折り曲げた。


 そしてそのまま5秒フリーズすると、大きく深呼吸して通話へと戻っていった。


「おまたせ。よし、聞こうじゃないか」


「ひ、ひだか? どうかした? だいじょうぶなの?」

「大丈夫だ、問題ない。それでどういう形なんだ?」



「ーードーナツよ。真ん中に反対側まで貫通した孔が開いているのよ」


 その一言は、日高に衝撃を与えながら静かに浸透していった。 


 脳内でドーナツにライトを当て、その断面積の変化を1周期分描き出していく。


 たっぷり10秒を費やして、日高の意識は会話に復帰した。


「なるほど、、確かに辻褄が合うなー」


「あれ、日高は結構冷静なのね。私なんか思いついた瞬間叫んじゃったわよ」


「いや、結構興奮してる。すごい、すごいよ沙織…。どんなに考えてもそんな事思いつけなかった。 いや、確かに孔あきなら… えぇ… どうしてそんな事思いついたんだ?」


「ふふふ…偶然なのよ。スーパーにドーナツの巡回販売が来てたから、今日は買ったのよ。お風呂出て、食べようと思ってつまみ上げた瞬間にピピピピッっと来ちゃったのよ〜」


「悔しいけど、これは沙織に一本取られたな。

 明日イチで北山に連絡してシミュレーションのモデルを作ってもらおう。これで先に進めそうだ。ーーありがとう、沙織」


「お礼はシミュレーション結果と観測結果の合致を見てからにしましょう。はぁースッキリした。最近ずーっとこればっかり頭の中にあって、本当にもやもやしてたのよね〜」


「確かに。スッキリはしたけど、俺は興奮して寝られそうもないや… 月でも見ようかな」


「あら良いわね。もう月の出?」


「そうだな、そろそろ上がってる筈」



 そう言いながら、日高はカーテンを引いて東向きのベランダへ繋がる引き戸を開けた。


 学生街の外、だだっ広い田んぼを越えた先にある日高の下宿は視界が良く、今正に東の空に登らんとする紅い月が良く見えた。



「あら、紅いわね〜。この時間に月を見る事は普段無いから、尖った月が東にある様子が何だか新鮮だわ」


 沙織もベランダに出たのだろう。

 息遣いが変わり、寒さが伝わってくる。




「なぁ、沙織」

「なに?」


「ーー今夜は月が…綺麗、だな」



「ーーーそうね」



 神経を研ぎ澄ませた日高の耳が、小さくクスッと笑う沙織の声を捉えた様なーー気がした。



「寒いからもう戻るわね。また明日連絡取りましょ。 ーーあとね、実は私、漱石は読んだ事ないのよ。じゃ、おやすみなさい」

 そう言って、沙織は電話を切った。



 部屋で1人、再びの静寂に包まれる日高。


「ええぇーー…」


 測りきれない。わからない。

 掌で転がされた気もするし、結局何がなんだかわからない。漱石って、えっ、でも読んだ事ないってどういう、、えっ、


「んんんんんんっーーーーー」


 今度は思う存分奇声を上げながら再び布団に頭を埋めて折れ曲がる日高。


 朝までもう一眠りは、とても出来そうに無かった。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 翌朝日の出と同時に鬼電で起こされた北山にも事態が伝わり、午前9時半には3人は図書館のグループ室に集合していた。


「さおりー、お手柄だなー。朝から何の騒ぎかと思ったが、話聞いたらバッチリ目が覚めたぞ!ーーっておい、たけちゃん!どうしたんだその顔… 凄いくまだぞ?」


「あぁ、ちょっとな、、ーー大丈夫だ」


 そう答える日高の向こうで、そっと視線を外す沙織の口角が上がっているのを北山は見過ごさなかった。気にはなった、が今は触れる時ではないと判断して話を本題に進める。


「そうか、、ならいいが。じゃ、早速モデリングの為の形状検討に入ろう」


「どうやって進める?」


「とりあえず、ライトカーブを描いて要所に対応する断面形状を描いていこう」


 日高はマーカーを手に取り、ホワイトボードに大きく横幅を取って0-360°まで45°刻みで目盛を引くと、観測されたライトカーブを描き写していく。


「わかりやすく、最初の減光の中央を位相0°にしてみた。改めて描いてみると、2回目の減光はぴったり位相180°なんだな…。どうして気づかなかったんだろう」


「貫通している孔だと考えると、非常に良くフィットするよなー。ーーとりあえず、2回の減光部にドーナツを描いてくれ」


「はーい。私が描く!!」


「えぇどうぞ、ミス・ドーナツ」


 日高が芝居がかった仕草で沙織にマーカーを差し出す。


「何それ、ダジャレ?面白くないわよ」


 文句を言いながらも機嫌を損ねた様子もなく沙織はマーカーを受け取ると、クルリと同じ様なドーナツを2カ所に描いた。


「とりあえず、真円のイメージで描いてみたわ。外径も内径側も」


「とりあえずは良いだろう。…えーっと、0°の減光と180°の減光の違いは何だ?」


「まず、0°の減光の方が間口が広いわね。180°の減光は急に始まって急に戻ってくるわ」


「それに、0°の減光は最低光度の部分で少しフラットに見える所があるよな?」


「それも特徴ね。180°は折り返す様にクイックに戻ってくるもの」


「うーんと、、つまり… 」


 3人は各々頭を捻って脳内で考え始める。

 数分の後、沙織が勢いよく手を打って立ち上がった。


「わかったわ!!!」


「マジかよ! …流石はミス・ドーナツ…」

「ちょっと!広めようとするのやめなさい!」


 そう言いながら沙織はホワイトボードに歩み寄ると、空いたスペースに手早く孔の断面イラストを描いた。


「きっと孔がすり鉢状なのよ。片方の口が広くて、反対側は小さい穴になってるんだと思うわ」


「なるほどー? えーっと、0°の方が広いとすると…、、 あぁ、そうか。内径側への傾斜面が広いと、影響を受ける位相角の範囲も広がるのか。その結果、緩やかなカーブになると」


 納得したような日高とは対照的に北山が問いかける

「なぁ沙織、減光の最低値が2つとも殆ど同じなのはどう説明するんだよ? 間口の大きさが違っても、孔を通して見える反対側の大きさは原理的に等しくなる筈だろ。減光プロセスの違いはあっても最低等級は同じじゃなきゃいけないんじゃないか?」


「それは、孔の内壁の傾斜で説明できると思うわ。衝で正面から光を受けているとはいえ、傾斜した面は垂直に近い面より少ない光しか返さない筈よ。だから、間口が広い0°側の減光は、傾斜面による減光と孔の存在による減光が合わさってより低い等級を示しているのだと思うの」


「おー、、なるほどな。じゃあ孔の断面構造としては位相180°が示す表面付近で一番径が小さくなっている様な構造なんだな」


「そう考えると辻褄が合うわ。あと0°の減光で底にフラットな部分があるのは、正にすり鉢形状によるものだと思うわ。間口の方が広いから、完全に反対側が見通せる様になってから次に反対側の内壁に遮られ始めるまでに多少の時間があるのよ」


「うーん…?? ちょっとついていけない…難しいな…」

 空間のイメージがあまり得意ではない日高は脱落しそうになっている。


「俺は沙織の言いたい事わかるぜ。つまり、フラットになっている部分の位相幅がそのまますり鉢形状の広がる角度って事だな?今、そこでざっくり見ると…10°ぐらいか。この情報はモデリングに役に立つ、いいぞ沙織」


「ふふふ、こんなもんよ〜」

 若干ドヤった顔で沙織が椅子に戻る。


「まぁ、北山が理解できたならいいや…。俺は完成したモデルを見て考えるよ。ーー後は、位相90度付近と270度付近の緩やかな減光だな。これは、孔に関係なく小惑星全体の形状を反映しているという認識で良いんだろうか?」


「そうだと思う。試しに孔の部分の減光を消して自然にカーブを繋げてみよう」


 そう言って北山が減光の谷を飛び越える様に青いマーカーで線を繋げる。


「つまり、孔無しで考えれば位相0°と180°が明るい部分で90°と270°付近が暗い部分になるわけだ。形としては結構単純だろう」


 北山はマーカーを手に取って90°と270°付近に縦にしたラグビーボールの様な断面形状を描き込んだ。内部にはすり鉢状に傾斜がついた孔の断面が点線で加えられている。


「おぉー。これで見事に辻褄が合うな。ちょっと感動モノだこれは…」

 日高が感心したように洩らす。


「まぁ、ライトカーブは回転軸方向の断面情報しか反映しないから本当の所はわかんないぜ。ただ、現状一番フィットできそうなモデル案なのは間違いない」


 位相90°毎に描かれた4つの断面形状を見て、頭の中に立体を構築しながら北山が言う。


 まんまるな球を鏡餅の様に軽く潰す。そして、薄い面の中央部に傾斜の付いた孔を貫通させて完成だ。細部の調整は必要だが、形状の大枠はさほど苦労せずに出来るだろう。



「でも不思議だな。何でこんな孔が出来たんだろ。超高速で別の天体がぶつかって撃ち抜かれたのか?」

「いや、天体衝突だったら普通バラバラになると思うんだけどな…」



「不思議ねー。まるで、誰かが掘った… みたい、よね……」


 沙織がそう言った瞬間、沙織も含めた全員の動きが止まった。



「ーーいやいやいや… 誰が掘ったんだよ、、宇宙人か?」

 北山が茶化しながら言うが目は笑っていない。


「ーー孔は小惑星の一番薄い面を貫通してるよな。最も効率よく小惑星を貫通させようと思ったら、こういう形になるのかもな。

 ただまぁ…偶然の一致だろ。小惑星なんか掘ってどうするんだ?資源が欲しいならもっと別の選択肢があると思うけど…」


 日高が冷静にコメントする。


「ーーとにかく、原先生に話をしにいく為にもモデリングしてライトカーブ演算して観測データに良くフィットするまで微調整しなきゃいけないぜ。それぐらいしっかり証拠固めしないと、まともに取り合って貰えないだろ?」


「そうね。原因はそこからまた追求していけば良いわね」


「もし宇宙人が掘ってたら、ミス・ドーナツ星人って呼んでやるよ!」


「北山君!ミスは余分よミスは!」


 沙織が怒って北山を追いかけまわし始めた傍らで、日高はホワイトボードを写真に収めるとイレイザーで消し始める。


 気づけば時計の針は12時を大きく回っており、それに気づいた瞬間日高は急に空腹感を覚えた。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 2023年秋、彼らが『発見』した孔開き小惑星は、原准教授の指導を受けながら新規発見を速報するレターという形で天文を扱う月報論文雑誌に投稿された。

 ちょうど同月の刊行内容に、太陽黒点の磁場形成を非常に良く説明する革新的モデルについての論文が投稿されーーこれは国立天文台が主体となって産学連携のモデルとして開発された新たな観測機器による成果で意図的なメディア戦略が展開されていたーー購読者の関心が、巻末の名も知れぬ学部生達によるたった3ページのレターに向く事は無かった。


 2年に上がった彼らは、熱心な勧誘活動で7名の新入部員を獲得したがその全てが1年生であった為、2年生のメンバーは増えず秋の大学祭以降は3名それぞれがサークルの幹部を務める事となる。


 日々のサークル運営、大学側との折衝、大学祭の準備、授業の内容もより専門的で高度なものとなる中で、彼らの頭の中から徐々に(3371) Mithere の存在は薄れていった。







 ーー3年後、審判の日が訪れるまでは






















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Autumn Leaves じあさん @theaerth

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