第2話 意外に好評?

 朝、目覚めてみても、やっぱり私の体は男だった。夢じゃなかったのか。がっくり。

 私の持っている服は、たとえデニムであっても蝶の柄のスパンコールが付いていたりとか、ミニ丈のとかばっかりで、男の子でも着られそうなものが本当に少ない。仕方がないので、部屋着用のトレパンに白いTシャツを着た。髪は後ろで一つに束ね、キャップをかぶった。しょうがない、メイクはせずに日焼け止めだけ塗る。

 自宅を出て、駅に向かって歩く。いつになく、すれ違う人からの視線を感じた。私、何か変かなあ。不安になって下を向いて歩いた。電車に乗っていると、やはり目線が来る。窓の方へ眼をやると、ガラスに時々自分が映る。髪は長いけれど、メイクもせずにこうしてキャップなんてかぶっていると、やっぱり男にしか見えない。

 最寄りの繁華街に降り立ち、手近なショップに入る。とりあえず何着かあればいい。と言っても、どんなものを買えばいいのか。ちらちらっと、周りの男子を見る。なるほど、あんな感じか。

「ねえ、あの人かっこよくない?何やってる人かなあ。」

「髪長いし、ミュージシャンじゃない?」

こそこそと話しているが、ばっちり聞こえてくる女子たちの会話。どこにかっこいい人がいるのかと思ってその子たちの方をちらっと見たら、目が合ってしまった。

「きゃっ!」

「目が合っちゃった!」

彼女たちは、聞こえていないと思っているのか小声でそんな事を言っている。あ、あれ?つまり私の事話してたの?かっこいいって?

 パンツ類は試着しないと買えないので、いくつか持って試着室へ向かった。試し履きして、大丈夫そうなので買う事にする。試着室のカーテンをシャッと開けると、目の前に背の高い男性が立っていた。いきなり目の前に現れたので(いや、私の方がいきなり現れたんだろうけど)、びっくりしてキャッと言いそうになり、でも実際は

「あっ。」

と言った。声が思ったより低かったので、悲鳴にならなかったようだ。

 すると、その背の高い男性は、

「おっと!」

と言って、ちょっと反り返った。

「す、すみません。」

私が謝ると、その男性は体勢を立て直し、

「いえいえ。・・・君、可愛いね。」

って、えー!?びっくり。そんな、ナンパみたいな事されたことないのに!今、初めて知らない人に可愛いなんて言われたー!どうして?男になったのに、男の格好しているのに、どうしてー?!

 その男性は、にやっとしたのち、通り過ぎて行った。ああ驚いた。とにかく早く買って帰ろう。私は上下何着か買って、大荷物を抱えて店を出た。あまりに大きい荷物なので、エスカレーターに乗る時に、前に乗ろうとした人に当たってしまった。

「あ、すみません。」

私が言うと、前に乗ろうとした若い男性がちらっとこちらを振り返った。そして、顔を戻そうとして、すぐにまた振り返った。つまり、二度見された。

「?」

と、顔に書いて見返すと、その男性はぱっと前に向き直った。しばらくそのまま下りのエスカレーターに乗っていたが、次の階で折り返す時、前の男性は私の顔をジロジロと見てきた。なに?やっぱり何かおかしいの?エスカレーターの横の鏡を見た。今日はメイクもしてないし、スカートも履いてないし、ハイヒールも履いてないし、おかしい所はないはずなんだけどなあ。気づくと、前の男性は鏡越しに私の方をちらちらと見ていた。なんか、恥ずかしい。

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