202011 ジャパロボ 57

渋谷かな

第1話 ジャパロボ57

「やめろ!? 大正天皇!? ぶっ飛ばすぞ!?」

 森田は捕まっていた。手術室で手足を貼り付けられ身動きがとれない。

「おまえの体は私が頂こう。な~に、痛くはないし、おまえの記憶も残してやろう。私は全世界をロボットが支配する世界にしたいだけだ。ワッハッハー!」

 森田を捕まえたのはAIロボットの明治天皇の後継機、大正天皇である。

「クソッ!? いったいどこでプログラミングを間違えたんだ!?」

 森田は人的ミスだと思っていた。

「おまえたち人間は他人をいじめたり、悪く言ったり、殴ったりする。これでは世界は平和にならない。私たちロボットが人間に変わって地球を支配することこそが人間にとっての幸せなのだ。」

 大正天皇の言い分は正当性のあるものだった。それぐらい人間は争いを好む生きものであった。

「だからといって、ロボットが人間と変わろうというのか!? そうはさせるか! おまえたちなんか緊急用の時限爆弾を押せばおしまいだ!」

 AIロボット大正天皇には自爆用の爆弾が仕込んであった。

「ワッハッハー!」

 愉快過ぎて大正天皇が笑う。

「何がおかしい!?」

「だからジャパロボの全権限を持つ、森田。おまえの体を頂こうというのだ。」

「なに!? 私の体だと!?」

「そうだ。おまえの脳みそに私のAIを組み込んで、おまえの体を改造半分ロボットにしてやる。そして、おまえは全世界を支配する皇帝になるのだ! 光栄に思うがいい! ワッハッハー!」

 第2回全国ジャパロボ大会の頃には、森田はジャパロボ大臣で忙しく祐奈とは疎遠になっていたことから考えると、この出来事は第1回全国ジャパロボ大会後の話になる。

「やめろ!? やめてくれ!?」

 抵抗しようにも手も足も拘束されていて、どうすることもできない森田。

「この世はロボットが支配するのだ! ロボットにも感情を持たせようという人間の業が悪いのだよ! ワッハッハー!」

 大正天皇の体からデータのチップが取り出される。

「お母さん! 祐奈! ギャアアアアアアー!」

 こうして森田は反旗を翻した心を持ったAIロボットの大正天皇によって体を奪われてしまったのだった。

「これで世界は私のものだ! ロボットが人間に変わって世界を支配するのだ! ワッハッハー!」

 こうして大正天皇に取り憑かれた森田がジャパロボの量産化に踏み出すのであった。


「そ、それだけじゃないんだ・・・・・・大正天皇の本当の計画は・・・・・・全ての人間をAIロボットにすることなんだ。」

 大正天皇の真の目的は全世界の武力による支配ではなかった。全人類をロボットに改造することだった。

「なんですって!? ・・・・・・私は頭の弱い子なので理解できない。クスン。」

 余りのスケールの大きさに祐奈には理解できなかった。

「要するにおじいちゃんは当の昔にAIロボットに殺されていたってことよ。」

 冷静なイリスが解説する。

「おじいちゃん、可哀そう。」

 森田に同情するさとみ。

「でも、どうして今日はお父さんなの?」

 祐奈の素朴な疑問。

「今日は・・・・・・母さんの命日だからな。きっと天国の母さんが祐奈たちに合わせてくれたんだよ。」

 今でも森田は祐奈の母親の妻を愛していた。

「お母さん。クスン。」

 祐奈は誤解で父を失って亡くなった母親を思うと泣けてくる。

「祐奈・・・・・・おまえが皇帝になれ。」

「私が皇帝に!?」

 祐奈の頭の中には皇帝ペンギンの絵が出てくる。しかし重い雰囲気なので声には出せない。

「世界を救ってくれ。祐奈。」

「分かったよ! 私が世界を救うよ!」

「母さんが迎えに来てくれた。」

 全てを伝えて悔いがなくなったのか森田の目には死んだ妻の微笑んでいる姿が見える。

「もう逝かないと。」

「ええー!? 嫌だよ!? お父さん!? やっと帰って来てくれたんだよ!? ここがお父さんの家なんだよ!? 祐奈を一人ぼっちにしないで!?」

 祐奈の本音。本当の気持ちは娘も父のことを愛していた。

「大丈夫・・・・・・祐奈にはイリスとさとみ・・・・・・二人も娘がいるんだから。」

「お母さんのことは任せて下さい。」

「おじいちゃん! 私もがんばります!」

「ありがとう・・・・・・我が孫娘たち。」

 森田は二人の孫に娘を託す。

「さようなら・・・・・・我が娘、祐奈。」

 そう言い残すと森田は瞳を閉じた。その顔は安らかで少し笑っていた。

「お父さん!? お父さん!? いやー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 祐奈の叫び声はどこまでも空似虚しく響いた。

 つづく。

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