第4話 鳥居の下で・・・

その日を境に、入院生活の影響で乱れていた

 俺の不登校ぐせが少しずつではあるが

 平常に戻って行った。

 後輩とハイキューが出来る事も

 学校生活に戻って行った

 一因だっただろう。

 顧問の横田先生が声を掛けてくれた事が、

 俺を元のレールに載せてくれたのだろう、

 (マジで感謝しなきゃな)

俺は由美香の事を俊弘に隠しておく訳にも

 行かないから、

 その日の昼休みに昨日の事を全て話した。

 勿論、今の俺の気持ちや

 その答えを由美香が待っている事もだ。

 それで今朝、一緒に登校したと話した。

 自分の気持ちが分かるまで

 由美香との時間を持つ事も、

 俊弘には素直に伝えた。

 意外なほど俊弘はそれを気にしなかった。

 それ程、特別な思いでは無かったのか?

 そんな俊弘に俺は少しホットした。

「一貴俺は帰るけど、どうする?

 途中まで帰るか、それとも」

「悪いけど俊弘、他の奴と

 帰ってくれないかなー」

「いいよ気にするな、真面目に考えてやれ」

「おお、ありがとうな、じゃあ…」

そう言って俊弘と別れ、

 まだホームルームが終わらないC組の前で

 由美香を待っていた。

 由美香は廊下に居るそんな俺を

 見ていたらしく、

 ホームルームが終わると飛んで来た。

「どうしたの?」

「一緒に帰ろうかと待っていたんだけど、

 どうする?」

「いいの?後輩との練習は?」

「ああ、今日の体育館使用は籠球部だから、

 ハイキューは走り込みだけなんだ」

「そうなんだ、私は大丈夫だけど

 一貴と友達の時間が…」

「まあタイミングが合わないと

 中々こんな事も出来ないしさ、

 これでいいんじゃないかなぁ」

「そんなに極端で嫌にならないの?

 私は嬉しいけど」

「大丈夫だ、俺がそうしたいのだから」

「分かった、じゃあ鞄を取ってくるね」

「はいよ、俺は玄関に行ってるよ」

「うん」

「本当に大丈夫か?同級生や下級生が 

 見ている中で俺と一緒に歩く事に

 恥ずかしさとか抵抗は無いの?」

「そうね…、一貴は三年生の中でも

 何故か目立つからね、

 大抵の後輩は怖がってるもんね。

 それでも私はぜーんぜん、

 ありませんね。むしろどうだ、

 てな感じかな?」

「ふーん、そうなんだ安心したわ。

 じゃあ明るいから少し神社にでも

 寄って行く?」

「私は暗くても平気だけど、

 一貴は嫌なんだよねー」

「由美香が脅かすから嫌なだけだよ、

 別に怖くはないからな」

「そっか、良かった頼もしい男の子で

 安心しましたよ」

「マジで棘がある言い方だな…」

神社に着いた俺達は石段の一番上に座り、

 町を眺めていた。

「一貴、町ってこうやって眺めていると

 静かだね、何だかさぁ

 時間が止まっている様に感じない?」

「本当だな、人も車も動いているのに、

 何か別の世界から見下ろしている様な

 そんな気がするな…」

「本当に不思議、このまま

 時間が止まればいいのに…」

「どうした?何か嫌な事でもあったのか」

「本当に馬鹿だね、その逆でしょう」

「その逆?何か良い事があったの?」

「駄目だ、しゃべらなくてもいいよ。

 このままでいて」

「変な由美香」

自分の気持ちを確かめるはずの俺は、

 それを確かめる術を知らぬまま、

 その時間を繰り返していた。

 由美香がその時間をどの様な想いで

 過ごしていたのかは俺には分からない。

 ただ、それを嫌がっていた様には

 見えなかった、様な気がする。

 そんな時間をひと月、ふた月と過ごし、

 自分が由美香のことを意識している事に

 気が付いた。

 それは二人で歩いている時に

 偶然触れる手に、

 何故だか凄く焦る事だった。

(そうか、女の子として見ているんだ)

十二月に入った日、俺達は薄暗くなった

 神社の鳥居の下にいた。

「由美香、随分と答えを待たせてごめん。

 今日はそれを言わなきゃな」

「そうか、出たんだね答えが…」

「由美香ごめん!俺、由美香の事を

 女として意識していた。

 そしてそれが多分じゃなく、

 間違いなく好きな事だと分かった、

 だから俺と付き合って見たら

 良いんじゃないか?」

「あ~ぁビックリした、

 一貴の間違いだらけの日本語で、

 ふられると思った。

 それともワザと?私をいじめているの?」

「…何が?」

「もういいよ、一生懸命に答えて

 くれたんだね、ありがとう

 私の気持ちも変わらないから

 付き合って下さい、よろしくね」

「あー、なまら緊張したべさ、よかった」

「一貴ありがとう、後ろで笑っているよ」

「何がよー、後ろって。ああ狛犬さまか、

 焦るわ」

「一貴、神様の前で嘘はないよね?」

「ああ、神様、狛犬さまの前で

 本当の気持ちを言ったわ」

「じゃあ、由美香の事をギュウーと

 抱きしめられる?」

「出来るかな?腕が周ればいいけど…」

「もう~最低だね、やっぱり、いいや」

「嘘だってばさぁ」

俺はそう言って由美香を抱きしめた。

 小さな肩、そして冷たくなった

 由美香の髪の毛が俺の頬を触っていた

「じゃあ由美香は帰るけど、

 一貴も気を付けて帰ってね、大好きだよ」

「俺も由美香の四年の思いに負けないくらい

 好きだからな~」

「うん、ありがとう。じゃあね」

「じゃあ明日も此処で待っているからな~」

俺達の恋はまだ始まったばかりだ。

 この先二人がどんな恋人になって行くか、

 全てを見届けるのは此処にいる二匹の狛犬

 なのかも知れない。


(因みに、この返事をしたこの日

 十二月二日は、後で知った事だけど

 由美香の15歳の誕生日だった。

 そんな事より、また由美香を抱きしめても

 いいのかな…)

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15の恋と空は、なまらいいしょ 橘 貴一 @NagareruKumo

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