第3話 狛犬様は見ていた。

「一貴君」

 その薄暗いグランドから聞こえた声を、

気のせいだと思い足早に歩き続けた。

すると薄暗いグラウンドから悪魔が飛び出して来た。

「うわぁー、何だよ脅かすなよ」

「もう、どうして無視するのよ」

「由美香かよ。気のせいだったと思ったわ。

何していた?そんな暗い所で、しかもこんな時間に」

「ああ、ううん、えーっと、そうだ!

体育館で一貴君が練習しているのを見たから、

一緒に帰ろうかなーと思ったりして」

「そうなんだ、それにしても脅かさなくてもいいだろう、

マジでまた入院する所だったわ」

「普通に声を掛けたでしょう、名前も呼んだしょやー」

「そうだけど、普通はそんな暗闇から自分の名前が、

聞こえてこないだろう」

「そっか、まあ確かにそうかもね…」

「それよりさぁ、俺を待つよりも、

四年も片想いをしている男がいるんだろう?

思い切って告白したら?身体にわるいぞ」

「そうだよね…、やっぱりそうだよね〜。

受験勉強も手につかないんだ」

「そうなんだ重症だな、早い方がいいぞ、

高校受験失敗すると笑え無いからな。

て言うかさ、由美香の家と俺の家って同じ方向だよな。

何で今まで一緒に帰る事が無かったんだろう?」

「それは一貴君がバレーボールを、していたからでしょう」

「そっか、そうだよな。て、由美香も部活していただろう」

「吹奏楽は運動部みたいにギリギリまでは練習しないから」

「成る程ね、そう言う事か。あっ、俺ここから曲がるけど、

由美香の家はまだ遠いいの?」

「うん、送ってくれる?近くに神社があるから

チョットだけ暗くて怖いんだ」

 「いいよ家の近くまで一緒に行ってやるよ。でもな~、

暗くて怖いーって、

グラウンドの暗い所に潜んでいた悪魔が使う言葉じゃないぞ」

「もう何なの?その悪魔って言い方、

一貴君のお気に入りなの?それとも馬鹿の一つ覚え?」

「だってさぁ、由美香の言葉には棘があるんだよ、

病院に見舞いに来た時もさ、もう来ないから。とか言っちゃってさ。

見舞いに来たのか冷かしに来たのか、よく分からなかったんだよね」

「そうか、私が悪いんだ…」

「嫌々そういう深い意味じゃないから、そんに落ち込むなよ」

「私も分からなくて、どういう風に一貴君と話したらいいのか…」

「どうした?そんなに思いつめる様な話じゃないよなー?」

「そうだけど…。ほうら神社、暗いでしょう?怖いでしょう?

私と神社に寄ってく?私も変身したいから」

「何、怖い事を言っているんだよ、マジで夜の神社暗いな…」

「一貴君、本当は怖いんでしょう」

「そんな事ないよ。だいたい一人じゃないし、いくぞ、

ついて来い由美香、逃げるなよ」

「ほーら怖いんじゃない、ねぇ一貴君、見て見て。

こっちを見ているよ」

「ええー、誰が、何を見ているのよ、どこ?」

「なんか、お姉言葉になっていたよ」

「由美香ふざけているのか!」

「何を怒っているんだか、狛犬が見ていると言ったのだよ。

一貴君」

「なんだよ狛犬か、脅かすな。それにしても怖いな夜の狛犬は」

「かずき~」

「また始まった、いい加減そういうのはやめたら?」

「今、由美香は変身しました」

「???どう言う事?」

「溜めておくと身体に悪いから吐き出しますよ、いいですか?」

「何々、どうした?吐きそうなの?まさか本当に悪魔なのか?

嫌だー、良くない、何の準備も出来て無いし俺は美味く無いと思う」

「行くよー、かずき!」

「嫌だって言っているだろう、やめろよー」

「一貴~。好きだー、ずーと好きだったの」

「うわぁ~~、エッ?なに?今、何て言った?」

「女の子に二度も言わせるのか~、喰っちゃうぞ~」

「今さぁ、由美香…、俺の事好きだと言ったのか?」

「聞き返すな、無神経男」

「由美香が小学校の五年生から好きだっていう男って、

俺の事?」

「そうだよ、お見舞いに行って一貴に会ってから告白しないともう自分がおかしくなる、そう感じたの。

だから病院では何だか変な自分になっていた。

ごめん、好きです一貴のこと」

「…、もしかして俺が転校して来た時から、

思っていてくれたの?」

「あんまり聞くもんじゃ無いと思うよ、恥ずかしいなー」

「俊弘、何て言うのかな…」

「俊弘君の事じゃないでしょう、私の告白への返事は?」

「俺、今まで由美香の事を意識していなかった。

整った顔が綺麗だとは思ってはいたけど、

それが好きだと言う気持ちなのか分からないから、

少し考えさせて貰えるかな?」

「そうだよねごめんね、いきなりこんな事を言っちゃって」

「いや、謝る事も後悔もしないでくれ、

ハイキューばかりでしていたから他の事に興味無くてさ。

俺は自分の気持ちを確かめる時間が欲しいだけなんだ、

誰かの事を好きで付き合いたいと考えた事が無いから、

由美香に対して自分の気持ちが分かるまで待って欲しいんだ。

だから、明日からも同じ様に俺と話してくれないかな?」

「分かった、素直だね。無神経男って言ってごめんね。

待っているから、なるべく早くお願いね。

多分勉強も手につかないと思うから」

「分かった、俺も沢山考えるから、マジで由美香の事をさ」

「うん、じゃあ帰ろうか遅くなったね、ごめん」

「気にするなよそんな事。また明日、学校で」

「じゃあ気を付けて帰ってね、バイバイ一貴」

「バイバイ、由美香」

(一貴か…、呼び捨てだったな。由美香はマジなんだろうな。

俺は漸く初めての夜の神社から解放された。

それにしても怖かった、マジで由美香が何かに憑依されてると思ったわ。

正直、由美香と話をしながらも周りが気になって告白どころじゃなかった。

それに狛犬が怖い顔で睨んでたし、普通あそこで告白する?

由美香にはデリカシーが無いのか?何が喰っちゃうだよ、

マジうけるんだけど。

頑張ったんだよな、四年分の思いか・・・。

でもまいっちゃうな~。俊弘は何って言って来るのかな?

落ち込むかな、それとも怒るのかな?

そんな事よりも自分の気持ちか…、どうなんだろう?

でも良かった、大人の瑠璃さんの甘い誘惑に負けないで。

もし負けていたら、きっと由美香を同じ様な女で見たかも知れない。

真面目に考えなくてはいけないな。

そうは言っても何からどう考えれば良いんだ?

あれれ…、分からんじゃ無いの?

どう考えるんだよ、俺よりも小さいから一六〇センチぐらい。

胸は大きくない、色が白く薄茶の瞳、お尻は分からない。

鼻はかなり綺麗だったかな?耳は分からない、足の大きさは?

二十三センチぐらい?勉強は俺よりもかなり出来る。

おいおい何を考えるんだよ、

父さんの隠しているエロビデオの女性の方が、

想像しやすいじゃ無いのか?

由美香の何をかんがえるって言うんだよ。

駄目だ由美香に対してはエッチな想像すら湧かない、

そうかと言って友達でも無かったよな。

遊ぶ事も無かった、態々話しをしにも行かなかったもんな、

やっぱり友達では無いな。

あー分からない、考えても無駄だ。ってどうするんだよ?

取り敢えずは寝るとするか)

「おはよう、こんな所で何しているの?」

「狛犬に昨夜はビビッてしまいました、すみません、そう謝りに来た」

「変な一貴、それで狛犬は何て言っていたの?」

「また来いよ、と言ってよだれを流していたわ」

「よく朝からそんな冗談を考えられるね」

「何なら由美香を喰ってやってもいいんだぞー、

そう言っていたわ、狛犬様が」

「ハイハイそうですか、何時までも喋ってなさい。

学校に遅れるからね~」

「待てよ由美香を待っていたんだからさ」

「どうして?もう答えが出たの…」

「いや、沢山昨日考えたんだ。由美香のお尻は小さいのかな?

胸は大きく無いよな、とかさぁ」

(俺は由美香に鞄で叩かれた。何で?)

「もう何なの、私の事を考えるって、そう言う事なの?」

「いてぇー、違うよ。何から考えて良いか分からないから、

身長、瞳の色、鼻、耳、沢山考えたんだけど、

どう考えたらいいのか分からなくなって、此処で待っていたんだよ」

「そうなんだ、瞳の色か…、ごめんね叩いて」

「いや、いいんだ、想像していたのは嘘じゃ無いから、

でもどう考えれば良いのか分からないから、

一緒にいた方が答えが出やすいのかな?そう思って待っていたんだ」

「そっか、ありがとう。考えて貰えるだけでも、

幸せと思わなくちゃバチがあたるね?

それとも…狛犬に食べられちゃうかな」

「狛犬様にも選ぶ権利はあると思うけど…」

「も~酷いね。でも一緒に登校するの何だか嬉しいな」

「そんなもんなの?」

「うん、本当にありがとう。一貴は平気なの?」

「別に他の人の事は何とも思わないから大丈夫だよ」

「そっか、良かった」

 学校に着いて教室に入ると俊弘が飛んで来た。

「どうして由美香と一緒だったんだよ~」

「偶々だよ、通学路が同じだからさ」

「そっか、家は同じ方向だったか?」

「ああ」

(俊弘すまん、昼休みまで噓つきな俺を許してくれ)

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