F-002 お題:流れ星、勘違い
「
暗い夜半の観測室に、ノイズ混じりの声が響く。帰港途中の軍艦の中には不釣り合いに思える少女の声。
イーライと名前を呼ばれた男は、双眼鏡から目を離して傍らに据え付けられた無線機の送話ボタンを押す。
「こちらコンダクター。よく聞こえてるよ。定時報告を」
「現在1万フィートを飛行中。目視範囲内の空域に敵影なし。周辺海域もクリア――」
きわめて事務的な内容がずらずらと続く。若くとも、彼女も立派な軍属だ。が、語気の感じからやや興奮気味なのが伝わってくる。
「どうしたティア、妙に上機嫌じゃないか?」
男はラフな口調で尋ねる。彼女の体調管理とメンタルケアもまた、彼の立派な任務だ。
「そりゃだって、イーライ、空が見えないの?」
「空だって?」彼は訊き返す「空は薄い雲で星明りも落ちてこないよ」
「あ、そっか。ずっと雲の上だからあんまり実感わかないなぁ」
「それで、空がどうした」
「そう空! 空が流れ星で一杯なの!」
なるほど、流星群。まだ若い彼女がはしゃぐのも納得の理由だ。男は自然と相槌を打ちながら手元のメモ帳に会話の内容を記録していく。彼女の話す言葉の全ては一応偵察報告の一端として記録されなければならなかった。
「ふむ、知らなかったな。もう空を見てはしゃぐようなガラでもないが、流星群か……一度くらいは見て見たいものだな」
窓から彼女がいるであろう空を眺めて男はしみじみ思う。水兵を長い事やっていて満天の星空などそれこそ星の数ほど見てきたが、言われてみると流れ星には一度も出会えていない。あの無数の星々が雨のように落ちてくるなんて、どれだけ神秘的なのだろうか。
「イーライ、流れ星見たことないの?」
「まぁな。雲の下で暮らしてると中々タイミングが合わないものさ。今日みたいにな」
「こんなにきれいなのに」
そう残念がる少女。声は途切れたが、無線の電波は届き続けている。不思議そうに男は眉を持ち上げた。
「あっそうだ!」
瞬間、いきなりの大声。男は小さく跳ねあがる。
「13時の方向、よく見ててね!」
まさか、と思いながら男は言われた方を向く。
しばらく後、雲の合間から滑り落ちてくるは一条の青白い光。
「ほら、流れ星、綺麗でしょ!」
その正体はもちろん彼女。
「ティア――お前……!!」
艦隊付きの偵察
竜を御せなかっただけでも始末書ものなのに、艦隊の直上に逆噴射でまばゆく輝く翼竜の急降下。枢軸国の悪名高い急降下爆撃隊を思い出さない船乗りはいないはず……
――なんてこった
男の顔がさあっと青くなってゆく。
短編集積所 黒石九朗 @Chromie_
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