数字恐怖症の男

ちびまるフォイ

これが最後の数字にしてくれ!

「12121317182713742647257274……うあああああ!!!」


ついに耐えきれなくなって席を立った。


「いったいどうしたのかね!?」


「もう数字なんかいやだ! 毎日来る日も来る日も数字を見つめて頭がおかしくなりそうだ!」」


「そう言うな。君はこの課でも"一番"の期待の新人なんだから」


「ひいぃぃぃ!! 数字が! 数字がぁぁぁ!!」


「おい救急車を! 住所は○○丁目の"99番地"だ!」

「数字はやめろーー!!」


気絶した男は救急車に運ばれて病院へと担ぎ込まれた。

医者の診断によると病状は驚くべきものだった。


「数字恐怖症ですね」


「な、なんですかそれ……」


「聞いたとおりですよ。あらゆる数字が怖くなってしまう奇病です」


「いいから早く直してくださいよ!」


「治す方法は"自"然治癒に頼らざるを得ません」


「うあああ!! 数字が!! 数字が!!」


「落ち着いてください! 今のは数字のではなく、自然の"し"です!」


「4って言うなぁぁーー!!」


男の全身には赤いアザが浮かび始める。


「あなたは数字恐怖症のマックスの状態で過敏に反応してしまうんです。

 しばらく数字と距離をおけばまたもとに戻るはずです!」


男は耳栓で音が聞こえないようにした。


「これで数字が聞こえる心配もないぞ!」


「病院側でもなにか打つ手を探します」

「あ?」


「打つ手を! 探します!」

「え?」


「もういいです!!」


耳栓の効果を確認した男は安心して町へと繰り出した。

ふと見上げた空には大きな看板が目に入る。


『5G対応エリア、拡大中!』


「うああ! 5が! 5が!!!」


全身総毛立って地面にのたうちまわる。

意思とは無関係に体がひどい拒絶反応を示してしまう。


「は、はやく数字がない場所へいかなくては……!!」


繁華街は危険と察知した男は這いずりながら路地裏へと回り込む。


『この先120m工事中』


「ぐはぁぁぁぁ!! ひゃ、120ぅぅぅーー!!!」


デカデカと目に入った数字に男はひっくり返った。

口から血の噴水を吐きながらえびぞりで痙攣している。

その拍子に耳栓まで外れてしまう。


今にも死にそうな男にちょうど未来からやってきた未来人が声をかける。


「あの、今は2080年の11月7日ですか?」


「ぎゃあああーーー!!」


男は体の内部から生じる衝撃波にふっとばされて壁に体を打ちつけられた。

ガラガラと崩れるガレキの下敷きになりながら、もうこれ以上数字を聞くと体が持たないと確信した。


そこに医者がやってきた。


「大丈夫ですか!? いったいどうしてこんなありさまに!?」


「どれだけ数字から逃れようとしても……数字が俺を逃さないんですよ……ぐふっ」


「このままじゃ治るどころか死んじゃいますよ!?」


「でしょうね……。おや? それは……?」


男に指さされて医者はかばんに入っていた2つの神器を取り出した。


「これは数字カットイヤホンと、数字キャンセルサングラスです。

 これをつけていればもう大丈夫ですよ」


「せ、先生……!!」


「私は医者です。病気に困っている人を放っておくわけないじゃないですか。

 これを作るために必死にほうぼう走り回っていたんです」


男の目には涙が溢れた。

今までどれだけ理解のない人間が数字をぶつけてきたか。

人間を信じられなくもなったが、それでも中には親身になってくれる人もいる。

世界はそう悪いものじゃないんだと思った。


「先生ありがとうございます! ありがとうございます!!」


受け取ろう男が手を伸ばすと医者は話した。




「2つ合わせて、198,000円です」

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