第2話 迷子は届けなきゃ

●迷子は届けなきゃ

「美香ちゃん。その仔が拾った仔? わんちゃんだとばかり思ってたけれど」

 連れて帰ったら、ママがあれ? って顔をした。

「うん。この仔だよ。可愛いでしょ。美香にこんなに懐いてるんだよ。ね?」

 くいくいっとリードを引っ張ると、ぎゅっと足元にしがみ付く。


「最近出始めた、最小加工タイプって奴かしら? そうしているとまるで人間の男の子ね」

「人間の男の子は、はだかんぼで公園に捨てられてないよ」

「それもそうね。首輪も結構使いこまれているし。ミィくん? メスみたいなお名前ね」

 首輪についた金属の札を反してママが言った。

 それ、前にその首輪付けてた仔の名前なんだけど。


 前の持ち主は、詩音しおんちゃんが飼っているメスの人猫の仔猫。毎週ペットショップでお手入れして貰っているから、毛並みがとっても手触り良いし、人間そっくりの部分も赤ちゃんみたいにすべすべしてるの。

 おうちの人にとっても大切にされていて、いつも小母さんに抱っこされてる。でも一番可愛がっているのは小父さんで、詩音ちゃんが赤ちゃんの頃から大事にしているクマのぬいぐるみみたいに、毎晩抱っこして寝てるんだって。


 成り行きで名前が決まっちゃったけど、黙っておこう。だって首輪の着けてない仔は捨てられた仔じゃなくて野良ってことだから、下手すると保健所に連れて行かれちゃうもん。


「でも本当にお世話できるの? 大変よ」

「美香、出来るもん」

 と言った矢先。

「駄目よ! 我慢なさい。いいって言うまでしたら駄目。したらお尻ペンよ」

 ママが拾って来たお猿さんを抱き上げて、お風呂場まで連れて行った。


「ママったら、いきなりどうしたのよ」

「判んないの? ほら」

 洗い場に立たされたミィくんったら、上目遣いにママを見上げながら足を締めてお股に手をやっている。

「あ!」

 それが何を意味するか気付いた時。ミィくんのお股からポタリと滴り落ちたかと思うと、次の瞬間噴き出したおしっこが派手にお風呂場の床を濡らした。


 ふぅと溜息を吐いたママは、優しくお猿さんのミィくんの頭を撫でながら、

「ミィくん。おしっこしていいって言う前にしちゃったから、本当はお仕置しなくちゃいけないんだけど。

 これからちゃんと、ママやパパや美香の言うこと素直に聞ける?

 いい仔にするなら今回だけは赦してあげるわ。いい仔にできる?」

 泣きそうな顔でこくこくと頷くミィくん。

「お利口さんね。いい仔いい仔、ミィくんはいい仔。今綺麗にしてあげるわね」

 シャワーでおしっこを洗い流す。人間様みたいに温水を使って洗って貰えて、ミィくんったらニコニコしている。

 手早くタオルで拭いてやり、抱っこして人間の子供にするようにあやすママ。


「美香ちゃん。子供のヒューマンアニマルって、結構高いのよ。普通は捨てたりしないわね。

 ひょっとしたらこの仔、飼い主さんからはぐれちゃった迷子なんじゃない?」

「えー。ママぁ。パパは飼っても良いって言ったんだよ。美香、お勉強だってお手伝いだって頑張ったでしょう?」

「でも、迷子だったら。こんなに可愛い仔なんですもん。きっと飼い主さん探しているよ」


 ママはミィくんの写真を撮ると、ネットのペットの迷子コーナーに貼り付けた。

 床の上で仰向けに寝て、大きく後ろ足を開いて丸見えにして、舌を出しておどけている写真に添えて、ミィくんと言う名前・保護した場所・発見した日にちが書き込まれる。

 日にちはこの仔を見つけた今日じゃなくて、飼いたかった捨て犬の仔を見つけ、美香がパパにおねだりした日になった。


「残念な顔するんじゃないの。

 迷子のペットは、届けて一週間経てば届けた人の物に出来るのよ。元の飼い主さんが探していたとしても、飼い主さんより懐いていれば返さなくても良いの。

 昔と違って、今はペットも家族なんだから。新しいお家に馴染んでいたら、返さない方が幸せでしょ?」

「そうだね」

「ミィくんを美香の物にする為にも、しっかり面倒見るのよ」

「うん!」

 一週間経てば、美香の物になるんだね。

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捨てられっ仔ミィくん 緒方 敬 @minase_mao

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