捨てられっ仔ミィくん
緒方 敬
第1話 ペットを拾ったの
●ペットを拾ったの
待っててね。やっとパパがOKしたんだから。
商店街を抜け、手提げの中に譲って貰ったお古の首輪とリードを入れて公園に迎えに行く。
お友達の
こないだ見つけたの。築山のトンネルの中にダンボールに入れられた、黒い毛のわんちゃんが捨てられていたんだ。
美香ね。この仔見つけてから毎日餌を運んであげて、内緒で飼っていたの。テストのお点上げて、ママのお手伝いして、やっと飼っても良いってなったんだから。
けれど公園に着いた時、ダンボール箱は空っぽだった。
この前持って来た、美香が幼稚園の時使ってたバスタオルだけがそこにあって、わんちゃんは居なくなっていた。手を差し込むとまだ温かい。ちょっと前までここに居たんだ。
「あのね美香ちゃん。さっき男の人が来て、わんちゃん連れて行っちゃったんだ」
様子を見てたと言う男の子が教えてくれた。
「そう」
飼ってあげるのなら、捨てられたわんちゃんを連れて行くのは良い事だ。そのままだと保健所かお巡りさんに連れて行かれ処分されちゃうんだもん。
美香だって飼ってあげる積りだったけど、まだ美香の物じゃなかったから返してとも言えない。
「あの仔、大人だったから。美香ちゃんが飼うなら仔犬のほうがいいよ。パパに買って貰ったら?」
男の子は塾があるからと帰る時、美香に勧めてくれるけれどそれは無理。
最初は、
「パパはあまり勧められないな。今のペットは人間様そっくりだからね。捨てられた仔だったら弱っててすぐ死んじゃうことが多いし、美香は凄く辛いと思うよ」
と渋るパパを、目に涙をいっぱい溜めて何度も何度もお願いしてやっと許して貰ったくらいだもん。
「直ぐ死んじゃう仔だったら、なおさら最後くらい温かいお家の中で飼ってあげようよ」
って言ったらパパ、
「それで美香大丈夫なのかい?」
って念を押されたの。
なんでパパがそんなことを言うのか聞いてみたら、今は動物園もヒューマンアニマルが多くなって、ペットショップにいるわんちゃんも猫ちゃんもお猿さんも、人間様そっくりの仔が普通だけれど。パパが子供の頃は違ってたんだって。
そんなわけでなんとか、パパに拾ったわんちゃんを飼う事は許して貰ったけれど。捨て犬がいなくなっちゃったんなら、わざわざわんちゃんを買って貰えるとは思えない。だってあの仔みたいなヒューマンアニマル仔犬をお店で買ったら、安くて二百万とかするんだよ。今年パパとママから貰ったお年玉が十万円で、貯金全部降ろしてもやっと半分位だし。
ああ言うわんちゃんは凄く長生き。大事に飼えば美香が大人になっても。ううん、お嫁さんに行く時に成ってもお母さんに成っても、元気で生きている筈。
あの仔みたいにメスだったら、美香の代わりに美香の赤ちゃん産んでくれるからお嫁入り道具の一つとして連れて行くのもありだけど。
結局、またペットはお預けかぁ。がっかりしたけれど、折角来たんだからと公園で遊ぶ。
ブランコを爪先がお空に届く位大きく漕いでいると、向こうに違和感のある物が見えた。
やたらと肌色の目立つ生き物が、くっきりと公園の芝生の緑に浮かんでいる。
新しい捨て犬?
美香ね、急いでブランコに腰掛けると、一番大きく前に振られた時に飛び降りたの。
ふわっと身体が浮いて、前の方にストンと着陸。大人は危ないから止めなさいって言うけれど。
美香、風になった気分だよ。
そのまま急いで見掛けた辺りに走って行くと、築山の麓の芝生に横になったはだかんぼ。
人間だったら年少さんくらいの歳の仔で、足にプラスチックのサンダルを履いている。
その仔がちょうどわんちゃんの降参ポーズに、お股を大きく広げて美香を出迎えてくれたんだ。
「ねぇ。ボクは人間? それとも」
きょとんとして美香を見てる。近所の子供じゃない。ここいらで見かけたことのない仔だ。
人間なら、この位の歳でもお喋りが達者だ。なのに美香の言葉は判ってるように見えるけど、言葉で返事は返らなかった。
ちょっとおどけて舌を出し、にこにこする男の子。いや、ヒューマンアニマルのオスなのかな?
辺りに誰も居ない。お母さんらしき人も、飼い主さんらしき人も誰一人。
きっとこの仔も捨てられちゃったんだ。
お腹の辺りを擦ってやると、ニコニコ笑う。
持って来た首輪を嵌めても嫌がりもしない。首輪はあつらえた様にピッタリで前使ってた仔の穴の位置で丁度良かった。
連れて行かれちゃった大人のメスも可愛かったけれど、この仔はもっと愛らしい。
「ねぇ。お姉ちゃんのお
足にだけプラスチックのサンダルを履いているから、二本足で歩けるはずだ。美香は腕を引っ張って起き上がらせた。
「きゃはは。可愛い!」
むぎゅっと自分から美香の足元にしがみ付いて来るの。
「おいで」
首輪の金具にリードを繋いで軽く引くと、トコトコと大人しく付いて来る。わんちゃんがお猿さんになっちゃったけど、パパ飼うの許してくれるよね。
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