3.東京タワー
「はぁ~、たまらない…!」
仕事終わりの午後七時。芝公園に足を運び、ベンチに一人腰かけて暗闇に浮かび上がる電波塔をうっとり眺めるのが私のひそかな癒し。
333mの鉄骨で造られた赤と白がチャーミングでとっても可愛いシンボルタワー。日本一の称号は譲ってしまったけど、未だに現役で電波塔としての役割を果たし、観光地としても有名な建造物。展望デッキから望む景色の美しさも分かるけれど、私が心惹かれているのは東京タワーそのもの。
足下まで近付いてみれば、遠目では分からなかった規格外のサイズと職人技をこの目でしっかりと見ることができる。デフォルメされていない部品と部品の一つ一つが、生々しい武骨さをもってその歴史と技術を私に訴えかけてくる。下から見上げるタワーは何度見ても美しいし、ワクワクする気持ちを止めることができなくなるくらい私を焚きつける。
なんたってもう「電波塔」という言葉からして、浪漫がある。サスペンスにラブロマンス、ホラーにアクション、映画やドラマのフィクションではなんでもござれの夢の舞台。
一度でいいから、あの足場の上をフラフラと自由に歩いてみたい。展望デッキで確認することのできる外階段や足場を目に焼きつけては、自分があの場所に立っていることを想像する。「電波塔」という名称が駆り立てる衝動なのか、どうしてもあそこに上りたくて仕方がないのだ。
風の力の強さはどのくらいなのだろう。感じられる振動はどのくらいなのだろう。固定されているボルトの大きさと冷たさは。長くたち続けた鉄骨の手触りは。匂いは。空へ足を投げ出した感覚は。遮るもののない空と地面の間ってどんな感じだろう。剥き出しの景色の色の鮮やかさは。
「まじまじと東京タワー見ないから、なんだか新鮮」
物思いに耽っていたら、いつの間にか人が訪れていたようだ。ふらりと散歩に来たふうのカップルが、足を止めて東京タワーを眺めている。
上京するまではこの景色が日常になっていくなんて、私も思いもしなかった。けれど、日常になってもこうして好きなものが視界にあり続けることの楽しさや嬉しさは、いつまで経っても消えることがない。
マスクの下でこっそりとそのカップルに微笑みかけて、私もまた見上げた。
寒いこの時期の東京タワーは、あたたかみのあるオレンジに染まり、人間味を感じるような光でその存在を夜空へ輝かせている。夜や闇から遠い東京にあっても、くっきりと浮かび上がって「私はここだ」と言っているようで、勇気づけられる。
最近は忙しくてこうして眺めるだけだったけど、次の休みになったら久しぶりに展望台まで上がってみようかな。
でもやっぱり、東京タワーから見渡す景色もより、私は東京タワーを見ている方が好き。
知名度№1の万人に愛されるたまらない建物度 ★★★★★
たまらんパロメーター あるむ @kakutounorenkinjutushiR
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。たまらんパロメーターの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます