第十二章 恋愛過敏な聖暗殺者
1時間後。
「マジで耳取れるかと思ったわよ……!」
エリシャが自分の耳たぶを触って言った。ニーナの歯並びのいい歯形がくっきり残っている。
あれから俺たちは簡単な食事の後、近場の屋台でクレープを3つ買って帰ってきた。
何故か味がチョコミントしかなかったのは、恐らくこの町がチョコミント教団のおひざ元だからだろう。
それはともかく、異世界に来て久々のスイーツにエリシャも大満足だった。
アイスはクッキークリーム派の俺も大満足。
甘い物ってホント癒されるよな。チョコミントになりそう。
「ふがふがはふっ!!」
なおニーナだが、時間が経って麻薬の毒が更に回ったのかすっかり頭がバカになっていた。
俺が買ってきたクレープを奪い取ると、寝床に直接それを置き、犬みたいに貪り食う。
口元にはたっぷりクリームを付け、食べ終わると今度は指先までペロペロ舐め出した。
……。
うーむ。
問題なんだろうが、しかしなぜかこのままの方が世界のためになるような気がする。
勇者とか言い出さないし。
つうかここまでの騒動大体こいつが原因な気がするんだが気のせいか?
「……リードでもつけて飼うべきかしらね……」
なんて俺が真剣に考えていると、エリシャがボソリ呟いた。女神よお前もか。
そういやニーナだが、バカになってからは亀甲縛りが落ち着くらしく、すっかりデフォになってしまっている。
その紐を上手く結びなおせば犬用リードにもできそうだ。
なんて、口元のクリームを舐めながら幸せそうに眠るニーナを眺めながら俺が思っていると、
――ゾクリ。
突然背中に悪寒がした。
「ん?……誰かが俺を見てる……?」
俺が辺りをキョロキョロ見回しながら言うと、
「……誰かって、アンタまた何か仕出かしたんじゃないでしょうね?」
エリシャが怪しむような目つきで言った。
「仕出かすってなんだよ?」
「ホラ、さっき聖堂修復のボランティアの子がかわいいとか言ってたじゃない。さっそくセクハラでもしたんじゃないの? それで恨まれてるとか」
「そうか、知らぬ間にこの俺に惚れちまったんだな!? それで俺の事付け回してるとか!」
「ハッ。んなわけないでしょ」
エリシャが俺をあざ笑う。
こいつ鼻で笑いやがった!
「見てろ。今に俺の事大好きなストーカー美少女が目の前に現れるから!」
「アホね。夢は寝て見なさいよ」
「いいや俺には解んだよ! 女に関しては直感が働くからな!! きっと並々ならぬ感情で俺の事を見ているに違いない!!」
言って俺がアヘン窟の天井を見上げると、そこには……!!
「………………………………………」
口にデカいナイフを咥えた美少女が、天上にピタッと張り付いていた!
全身黒ずくめの暗殺者風ファッションに身を包み、黒いフードからプラチナブロンドの髪を二束垂らしている!!
ま、まるで〇キブリみてえ!!
「並々ならない!?」
遅れて気付いたエリシャが叫んだ。
だがそんなツッコミ聞いてる暇はない!
「エリシャ! 〇キブリの交尾ってどうやるんだ!? 教えてくれ!!」
「あたしが知るわけないでしょ!!? つうかアンタあたしのことなんだと思ってるのよ!!?」
「そんなん決まってるだろ! ツインテール(触角)で、しぶとくて、おまけに無駄飯食らいとくれば!」
「死ね!!!!!!」
まだ答え言ってないのに、エリシャが脇に退けてあった聖剣を持ち上げ、ハエでも叩くように俺を叩き潰した!!
ぐべえええええッ!?!?!
「痛えよエリシャああああああ!?!?!? 人の恋路の邪魔すんなああああ!!!!」
「人じゃなくて〇キブリの恋路だったでしょうか!?!? っていうかそんな事言ってる場合じゃないでしょ!?!? 明らかにフツーじゃないわよこの人!!?!?」
ビシッと天井を指差すエリシャ。
少女は天井に張り付いたままジッとしている。
その口に咥えたナイフが、アヘン窟内部の照明を反射してギラギラ輝いていた。
「どこがだ!?」
「思いっきり怪しいじゃないのおおおおお!? もしかしてあたしらの命狙ってるんじゃないのおおおおお!!!?」
「おいおいエリシャ、常識的に考えろよ? ちょっと暗殺者風の恰好をした女がデカいナイフ咥えて俺たちの寝床の上に張り付いてたってだけだ。自意識過剰なんじゃねえか?」
「おどれの自意識を先になんとかしろおおおおお!!!!」
なんて俺らが話してると美少女が逆さにひっくり返り、「ギャフッ!?」ドスッとニーナの上に降り立った。
そして俺と目が合うなり、
「………………」
「…………」
「……ポッ」
突然その頬が赤らんだ。
そして淡い桜色をしたその唇で、
「――アナタを、殺します」
そっと呟いた。
どゆこと!?
「それ頬赤らめて言うセリフ!!??」
ボケと判断したらしいエリシャがツッコんだが、少女は無視。
そのまま緑色のライトセーバーで俺を攻撃してくる!
あぶねえッ!?
俺はとっさに横にあった聖剣の柄を掴むと、荷物として持ち上げた!
聖剣の台座とライトセイバーの緑の穂先が火花を散らす!!
か弱い腕しやがってこいつ、力めっちゃつええ!?
なんて思って相手の顔を見た時、俺は暗殺者の正体に気付いた。
そのフードに隠れた美顔。
そして何よりも、暗殺者のローブ越しにもそれと解る肉付きのいいボディライン。
こいつはまさか……!?
「アンタ!? もしかしてセラじゃねえか!?」
「え!?」
俺の言葉にエリシャの顔が凍り付いた。
セラの動きもピタッと止まる。
「うそ……どうして聖女さまがこんな場末のアヘン窟みたいなところにいるのよ!?」
「知らねえけどさ! だってホラ、プラチナ練り込んだみてえな細い金髪に碧眼だろ? それに暗殺者のコートの下から盛り上がるデカいおっぱいとお尻は見間違えねえよ! 更に言えばこのライトセーバーみてえなのも、ブルーアイズのブレス防いだ時と同じ緑色だし!?」
ついでに言えば、無いのはあの月も霞むような微笑だけだった。
目の前の聖女の顔には表情がない。
まるでロボットみたいな無表情をしていて、ただ見つめられてるだけなのに酷く恐ろしい。きっと怒ってるんだ。
でもなんで?
……。
あ!?
「まさか大聖堂崩れたの俺がやったとか思ってんじゃねえだろうな!? だったらお門違いだぞ!! 俺がやったのはあんたのおっぱいを揉んだだけだ!! 決して悪い事はしてねえ!!!」
「充分悪いことしてんじゃないの!!!」
俺がとっさに自己弁護すると、エリシャにゲシッと蹴られる!
「だから聖女さま怒ってあたしたちの所来たんでしょ!? それに聖堂の事だってうちらにも責任あるし!!」
脛を蹴られて座らされ、更に後頭部を掴まれて強制土下座させられた!!
土間に叩きつけられた勢いで部屋が若干揺れたぞ!!?!?
「聖女さま! この通り彼も反省してますし、捕まえて拷問にかけて半殺しにするくらいで済ませてやってくれません痛ああああああッ!?」
「ふざけんなよエリシャあああああ!!! てめえも一緒に頭下げろやあああああ!!!!」
俺がお返しにエリシャの後頭部を引っ掴んで容赦なく土間に叩きつけていると、
「――いえ。そうではありません」
血とか髪とか一部脳みそとか飛び出てる俺とエリシャの惨状には見向きもせず、聖女が口を開いた。
そしてチラっと俺を流し目で見たかと思うと、
「その……先日の続きをお願いしたいんです」
突然俺にすり寄ってきたではないか!?!?!
「せ、先日の続きって!?」
エリシャがそう言うと、
「チュッ」
突然俺の頬に生暖かくて湿っぽい感触が一瞬チュッとして離れた!
……。
え?
今のは、まさか……ファーストキッス!?
「ななっ!? なんでええええええええ!!??!?!」
頭血まみれになったエリシャが叫んだ!!
「ちちちちょっとハコブ!?!??! あんた聖女さまになにしたのよ!?!??! まままさか本当に拉致して洗脳したんじゃないでしょうねッ!!??」
「バッカそんな事するわけねえだろうが!!! 俺は無理やりやるのが好きなんだよ!!!!」
「ちょ!? 当たり前みたいな顔してナニ問題発言してんのよ!?!? っていうかどうして聖女さまがアンタみたいなクズの事好きになるワケ!?!?」
「どうしてもなにも……ハコブさまが仰ってくださったのです。私と運命を共に荷ってくださると」
エリシャが叫ぶと、聖女がポツリと呟いた。
「う、運命?」
「はい。どうやらわたくし……ハコブさまに、恋をしてしまったようなのです。あの時感じた胸のイライラが今も止まらない……!!」
「いやそれ完全に勘違いしてますよね!? 恋じゃなくてタダの嫌悪感ですって!? セクハラした上突然告ってきた気持ちの悪い男子に体が全力で拒否反応起こしてるだけですよ!?!?」
エリシャが両手を振ってツッコむと、
「いいえ! これこそが恋なのです!!」
聖女がこれまでにない強い口調できっぱり言った。
「わたくし、とても嬉しかった……! そもそも聖女といいますのは、このエルハンドラ大陸全人口6000万人の中からただ1人選ばれる神聖な存在。神託によって選ばれた時期に、世界で最も優れた魔力を持つ子供の中から選ばれます。私は歴代の聖女の中でもあまりに魔力が強く、そのために国家間における紛争が起こる事を忌避されてチョコミントの大聖堂に預けられました。それ以来ずっと人と、とりわけ異性と関わる事を禁止されて過ごしてきたのです。ただひたすら世界平和と、チョコミントの神グロリアさまのためにこの身を尽くしてまいりました」
「なんかチョコミントって辺りで毎回力抜けるんだが」
「うふふ。どうぞ力をお抜きください♪」
俺が率直な感想を述べると、セラが嬉しそうに笑った。
「それに、ハコブさまはわたくしを必要だとも言ってくださいました。先にも述べた通り、強すぎるわたくしの魔力は紛争の元。ですから誰からも忌避されてきたのです。そんなわたくしに向かってはっきりと必要だと言ってくださったのもハコブさま、あなた様が初めてでした。
ですが……わたくしは聖女の身。聖女はどんなに好きな方ができても、けっして交際してはならないのです。ましてハグや……キスなどしてはなりません」
「いや、さっき思いっきりしてたわよね?」
「はい。交際が許される方法がたった一つだけあるのです」
「それは?」
言いながら、再びロッドを構えた。
あ、イヤな予感。
「それは……ハコブさまを殺すことなのです!」
言いながら、十字架の先端から『ビシュウン』と例の光の刃を伸ばす。
ファッツアーユードゥーイン!?
荷物持ちなんだが、俺のハーレムパーティの女が最強で美少女なのにアホすぎる! トホコウ @aya47
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