第21話
深山先輩のクオリティが急上昇している。デートの度に僕は惚れ直す感じ。元々綺麗だったけど、着飾ったら尋常じゃなかった。言い方が悪いけど、ヤンキーはお買い得だった。
「剣道部の女子で買い物に行ったんだよ。デートに、ジーパンとかシャツはダメだって言われて。服とか靴に、高い金を払うのは馬鹿らしいよな」
しかめっ面に恥ずかしさをにじませて、深山先輩が言った。
「先輩。お金を使った価値があります。全然馬鹿らしく無いです。この調子で行きましょう。もうね、ヤンキー言葉とかどうでもいいですよ。やめて欲しかったけど、もう気にしません。だって凄い綺麗なんだもの」
見てるだけで幸せ。言葉を抑えるべきだったけれど、興奮して僕は言ってしまった。
「佐藤はさ、女子に簡単にそういう事を言うんだな。慣れてるんだな」
深山先輩が怪訝そうな顔をする。
「そりゃないですよ先輩。普段皮肉ばかり言ってる僕が、簡単に綺麗とか言うわけないじゃないですか。ましてや自分の彼女を相手にして。お世辞とか嘘を言うくらいなら、ぶん殴られる覚悟で本当の事を言いますよ、僕は……」
僕はしょんぼりして言った。本当にしょんぼりした。
「あーゴメン、違う。分かってんだ私も。佐藤のそういう所。悪い。そんな顔するなよ」
深山先輩が僕の腕を無造作に掴んで、ズカズカと歩き始めた。この感じ、悪くない。お買い得だ。
瀬田君と真里子は外出が大嫌い。人ごみも苦手。だから二人は、もっぱら瀬田君の家でデートをしている。デートの日の食事がまたものすごい。瀬田君と真里子と、瀬田君のお父さんと。いつもながら食べ過ぎる。手づかみで肉とか食べて、誰かが盛大にゲップをする。みんなが大笑い。中世のバイキングみたいだ。瀬田君のご両親は、真里子を嫁にしたいと思っているに違いない。ただし、決して二人にプレッシャーを与える事のないよう、細心の注意を払っている。そこはさすがだ。人見知りの激しい真里子が、全く緊張しないで済んでいる。彼氏の家族とお食事をして、楽しく会話をしてるなんて。ちょっと前までの真里子なら考えられない。進歩したよなあ。
大宴会が終わって、瀬田君の部屋に移動する。みんなでゲームをしたり、剣道の映像を見たり。瀬田君が頑張って愛情表現をして、真里子が小声で答えたりする。可愛らしいカップルである。二人のお付き合いは順調だ。僕としても嬉しい。僕をデートに呼ばないでくれたら、もっと嬉しいのだが。
「俺、そろそろ帰るよ。明日は久々に朝練に出ようかと思うし」
「じゃあ私も帰ります」
真里子が帰り支度を始める。
「まだ八時じゃん。真里子はもう少しゆっくりしていけよ。せっかくのデートじゃない。帰りは瀬田君に送ってもらいなよ」
このパターンを何度も繰り返している。門脇さんじゃないけど、僕のヤキモキ感も最高潮に達している。
「だって、二人っきりだとちょっと恥ずかしい……」
真里子が顔を赤らめる。
「デートに毎回俺が付き合うのはおかしいよ。そろそろ止めようよ」
付き合う僕も僕だが。
「佐藤君、もう少しだけいてくれない? 僕は三人で一緒にいる時が、とても好きなんだ。真里子さんもそうだよね」
瀬田君が言った。真里子が嬉しそうに頷く。僕はジーンとする。愛情とか友情を超えたものがあるような。非常識なのは分かってる。今度は深山先輩も、ここに連れてこようかと僕は思った。
ちなみに。僕は剣道部で邪道剣を遠慮無く使うようになった。おかげさまで、瀬田君や真里子と結構いい勝負をしている。まあ、ほとんど負けてるけど。僕は男子なのに女子の部長になってしまい、怖いものはもう何も無い。一般人相手にも邪道剣を使っている。違法行為なので、今後男子のレギュラーに入れるかどうかは微妙な所だ。ちょっと吹っ切れた感じで、楽しく剣道が出来ている。吹っ切れついでに、深山先輩を名前で呼んでみたいなあ。深山千鶴。千鶴ちゃんとか呼んだら、たぶんパンチじゃ済まないだろうな……。
巨人と邪道剣 ~幼馴染は異種族~ ぺしみん @pessimin
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