「血戦」

 トカゲは思わず、目を疑った。草陰から出るやいなや、無数の人間達が自身に向かって銃口を向けてきたのだ。


 おそらく自身が来ることは感づいていたのだろう。


 その後ろには以前、監禁されていた研究所よりも遥かに巨大な建物が後ろに立っていた。


 目のこらすと建物の上の辺りからトカゲを見下ろすラルクス・マグウェイと目があった。


 トカゲは瞬時に彼がこの団体の元締めだと感づいた。


 我が子に接していた際の穏やかな様子とは一変し、トカゲの目には殺意が宿る。

「必ず殺す」


「ターゲットがきました!」

 武装した隊員が叫んだ。おそらく仲間に連絡を送ったのだ。



「卵を持っていません」

「付近に隠した可能性がある。こいつが卵を手放すはずがない奴は研究所を抜ける際も後生大事そうに持っていたからな」


 隊員が何を言っているのか彼には理解できないが、関係ない。自分と我が子の穏やかな日々を脅かした報いを受けさせる。


「撃てー!」

 隊員が声を張り上げた瞬間、無数の弾丸がトカゲに向かって飛んできた。


「遅い」

 トカゲは見切ったように次々と弾丸を躱していく。


「やはり、大した事ないな!」

 トカゲが隊員の一人、喰らいつこうとした時、何かを取り出して、引き金を引いた。


 その瞬間、霧状の何かがトカゲの体を覆い尽くした。凍えるような寒さに彼は思わず、地面に倒れこむ。


「なっ、何だ! 体が!」

 トカゲにとって寒さは何よりも天敵だからだ。体が凍り付いて、全く動かない。



「寒い」

 あまりの寒さに意識が遠くなりそうだ。すぐ近くでは自身のこの状況に追い詰めた張本人が武器を構えていた。



「はは、これが対トカゲ用兵器だ」

 見た目は火炎放射器のそれとよく似ているが、中身は真逆。凍てつくような霧を噴出し、凍結させる。


 変温動物であるトカゲにとって寒さは天敵。この兵器から放つ霧を浴びれば、トカゲでも一溜まりもないだろう。


 現にトカゲは全身の神経や内臓が凍りつくような感覚に襲われていたのだ。

 



「くそっ!」

 反撃しようとした時、突然、視界が湾曲して脳天に雷が落ちたような衝撃が走る。


「くそっ、このタイミングで!」

 その場で倒れ込み、激痛の波に抗おうとのたうち回る。


「ターゲットが急変。突然、苦しみ始めした」


 あまりの痛みで吐き気とともに意識が混濁し始めた。戦闘中にあの臭いの副作用を発症した。


「おそらく植物の副作用だ!」


「くそっ、頭がぐらつく。吐き気もする」

 突然の出来事に動揺を隠しけれない。よく見ると他の隊員達も同じものを持っていた。 嫌な予感が頭をよぎる。



「今だ!」

 隊員の一人が合図をした瞬間、霧を集中的に受けて、あまりの寒さに意識が遠のいていく。


 死の足音が徐々に近づいてくるのが分かった。

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