「血戦前」

 ラルクス・マグウェイは外に広がる夜の森に目を向けていた。


 あの森の中に自分達に混乱を招いたトカゲがいる。彼の不安感や恐怖感が歪に絡まり合う。


「マグウェル博士」

 後ろから野太い声が聞こえると、武装した無数の屈強そうな男達が整列していた。


「ああ、ご足労いたたき感謝する」

 ラルクスはトカゲ捕獲作戦のために二つの新兵器を導入した事を説明した。




 一つは特殊スコープである。トカゲの体は小さく、動きも素早い。そのため、肉眼で捉えるのはほぼ不可能だ。


 しかし頭部に装着していれば、例の植物に関する者が視界に入った時、反応するようになっている。


 そして、もう一つの対トカゲ用の兵器を目にした時、隊員達の間にどよめきが生まれた。




 ラルクスは武器の説明をした後、さらに必要な情報を隊員達に説明した。

 急激な肉体変化のため、膨大なエネルギーが必要としており我々を食らう可能性が高い事。


 捕食する際に顎が巨大化する。その瞬間が最も隙が大きな事など、研究所から送られてきたカメラ映像から理解できることをガレインに伝えた。



「ではたのんだよ」

 ラルクスは知りうる事を話し終えると、建物の中に逃げるように入っていった。





 漆黒の闇の中,トカゲは分け目も降らず、突き進んでいた。近づいていくごとにあの臭いが濃くなっていく。この木々の向こう側に奴らがいる。


 敵の本拠地の目前で彼は近くにあった木の陰に我が子を置いて、落ち葉をかぶせた。


「すまないな。お父さん。少し用事があるからここで大人しくしていてくれよ」


 おそらくこれから激しい争いになる。いつものように守ってあげられない可能性もあるのだ。


「お父さんは必ずここに戻ってくるからな」


 愛おしい我が子に額をすり寄せる。ああ、いつまでもこうしていたい。彼の心底、そう思った。


 闘志と憎悪が心のうちで交わっていくのを感じながら、森を抜けた。


 血戦の幕が今、上がった。

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