は.『▓▓』とは

 そもそも『最善』と『最悪』は比較対象がなくては成り立たない。2つの中間が多数存在しなければならない。2つだけならば『最も』を入れる意味がない。


「おっ勘がいいね。その通り。出されたお題は数時間後に名前も知らない誰かが遭遇する『選択』だから、『最善』を選べるよう頑張ってね!」


 まるで捨て台詞を吐いたようにスクリーンと共に愛翔は消え、変わりに文章が表示される。残された彼らは必死にそれを凝視した。


“400メートル先、真正面にある駅。あなたならどんなルートで向かう?”


 先程から集団の視界に入っていた大型の駅。一同は確認するやいなや走り出し、中には他の者を突き飛ばし妨害する輩もいた。


「俺が見た『選択』も……これと同じように?」


 アイドルの握手券付きチケットと一番くじのフィギュアを狙いに向かったあの時、『最悪の選択肢』では車に轢かれ死亡するというものだった。つまり今と同じシミュレーションが行われ、死亡する苦しみを味わった者がいる。


「……くそっ!」


 罪悪感に苛まれながら、置いていかれた拓真は小走りで駅へと走る。信号は赤を示していたが、拓真の前を走っていた男はお構い無しに突っ切ろうとした。


 するとやはり大型トラックによってはね飛ばされ、それでも止まる事はなくタイヤの下敷きになり、迫り来る多数の車に追撃をもらっていた。


「うがっ! 痛いぃぃぃ」

「意識がまだあるのか……!?」


 拓真や他の参加者は立ち止まる。撥ねた車が一切止まらない事や男が悲鳴を上げ続けている事に戸惑い黙りこくっていたが、黒髪ハチマキの男が拓真に向けて喋り始める。


「『最善』と『最悪』の2つが揃わない限り、意識が消える事はない。生き残りたければ無難に、安全に達成を目指すんだな。お前はどうするか……自由だがな」


 すると信号は青に。黒髪ハチマキの男に続いて拓真達も走り出す。安全策を取ろうと拓真は歩道の端、車道から離れたビルのそばで駆ける。


 が、しかし。不運にも拓真の頭上から無数の鉄パイプが降り注ぐ。工事中の骨組みが不慮の事故によって崩壊するのはありがちなシチュエーション。拓真の腹部を貫き、地面とキスを交わすと動きを封じた。


「あっ……うわぁぁあ!!」


 遅れてやって来た痛みに耐えきれず、悲鳴と涙と血液を溢れさせ震える拓真。けれど彼を助ける者は誰一人としていなかった。



 *



 10分後。尚も拓真の意識は潰えていなかったが、『最善』と『最悪』が選定され、彼らの視界は暗闇に包まれ現実世界に引き戻される。ヘッドセットを外したのは愛翔だった。


「おめでとう『最悪』くん。これは賭け事にもなってるからね……君に賭けた人は可哀想。それじゃ、もっと過酷なエリアに送るから」

「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!?」


 反対意見を出そうとしたものの、望遠鏡による3度目の殴打が拓真を襲った。


 これから彼は更に厳しい条件の『選択』に駆り出され、いつ発狂してもおかしくない、終わりのない死のレースに挑み続ける事となる。




「あっ、『選択』だ」


 それでも名も知らない誰かの役に立っている事実は、救いではあるのかもしれない。


 人知れず犠牲になる者が存在するのだから世界は廻る。




 白の反逆 望郷編 終

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白の反逆 望郷編 ニソシイハ @niseyosouseki-nisoshiiha

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