通り魔的犯行

@golden-apple

通り魔的犯行

「あのっ! 抱っこしてもいいですか!?」


私は頭の片隅で流れている童謡を聴きながら、とち狂った言葉を発してしまった。


「えーっと、ごめんなさい?」


こんな変な人間にも優しげにしっかり受け応えしてくれるクマさん(名前はまだ知らない)、声色からもあまり分からない顔色からも困っているのが伺える。


「すすすすみませんっ! そのずっとファンで! あの失礼ながらクマという種族に憧れてまして!」

「うーん… たぶん君じゃ俺サイズは抱っこ無理だよね… 」

「はい! 調子のりましたっ! あまりに素敵な毛艶でしたのですみませんでした! あと普通に言い間違えでした!」


クマさんは獣人さんで、一人称からすると男性(オスになるの??)。

クマ(動物の)に話しかけるだけでも変人なのに、異性にあんな事を言ったなんて、とんだ痴女である。しかも、パニくってたのか言い間違えてるし。


「ありがとう??なのかな? えーっと、ハグすればいいのかな?」

「えっっ!! 良いんですかっ!! ホントにですか!?」

「うん、今さっき発言を後悔したけど、まぁいいよ…」


イカン。鼻息の荒さがもはや痴女のレベルじゃない、変態だ。

彼もドン引きしている…気を付けねば…


「ありがとうございます! 私、ホント昔からクマさんと暮らすのが夢で、無理だと理解しても森で野生の子に出会えないかとウキウキしてたんです!! 嬉しいです!!」

「子って… あんまりクマに使わないよね」


涙まで出てきてしまった…。彼はまた頬を引き攣らせているが、1度変態さを見せつけてしまったのだ。

2度3度も変わらんだろう。私の愛が潰えることはないのだから。

そして自分の事だが、ホントに発言がキモイぞ! 私!


「きゃぁーーーー!! いやん! やっぱカタメなのね〜! あぁ…なんて素敵なの? 幸せで夢見心地とはこの事よ…」

「ぁー…やっぱり許可なんて出すんじゃなかったなぁ…」


ドン引いて、自分の発言を後悔してるらしいクマさんを無視して、私はもふもふしまくった。

野生のクマはもっとゴワゴワしててケモノ臭いんだろうけど、野生じゃない(?)から無臭! 手触りもカタメはカタメでも全然酷くない!! 私、もう死んでもいい!!


「…ぁありがとうございました」

「どうも…」


最後にもう一度、お礼と変態的な発言のお詫びをして、とてつもなく名残惜しいがその場を去る。

彼からしてみれば、突如訪れた衝撃的な恐ろしい出来事だったとは思うが、申し訳ないが通り魔にあったのだと思って諦めて欲しい。

あんなに魅力的なクマであるのが悪いのだから。

そう、心内で謝りながらも開き直る私がいた。


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