後半戦


「私は、由歌ゆかがその仲野ナニガシと付き合うのは反対だ」


「え? なんで? 応援してくれないの?」


由歌ゆかが恋愛に打ち込めば、由歌ゆかがこうしてうちに遊びに来る時間も少なくなるし、二人で話をする時間も無くなる」


「うえ? なに? もしかして、しいら、寂しいの? ほー?」


 思わず驚いて言ってしまう。いや、そんな寂しいからイヤとか可愛いことを識羅しいらが言うとは思わなくて驚いた。

 識羅しいらは私の言葉にカチンと来た顔をして、への字の口になる。おやおや?


由歌ゆか、私がこうして底意で話ができる相手は由歌ゆかだけだと、知ってるだろうに」


「まあ、しいらの本音を受け止められる人が少なそうってのは私も解るんだけど」


「私はと言えば、これまで付き合ってくれ、という相手をフッてきたというのに」


「知ってる、というか私に、しいら宛のラブレターを届けてとか、これまで何度頼まれてきたのやら。なんで私に頼むのよもう」


「これまで、同級先輩後輩教師を男女問わず、30人以上フッてきたのにな」


「ちょっと待って、待ってー? 今、聞き捨てならないのが混ざってたよ? 教師? 教師って不味いよ? で、誰その教師? そのロリコン疑惑のある教師は誰?」


由歌ゆかが相手だとロリコン疑惑もあるが、これは私だから仕方無いだろう」


「同級生なのにっ! 同い年なのにっ! 私の方が三ヶ月歳上なのにっ!」


「たとえ同級生で同い年でも、見た目の問題はいかんともし難い。私の方が背が高く、スタイルも由歌ゆかと比べると違いが分かる」


「大人のブレンドみたいな言い方を、むう、どうしてこうも違うのか」


「由歌、心配するな。幼児体形というのも需要はある。その仲野ナニガシが告白したように。そうか仲野ナニガシがロリコンか」


「同い歳っ! 同級生っ! 仲野君はロリコンじゃないと思うよっ! それより教師が生徒に告白は問題あると思うよそれで誰?」


「秘密だ。相手にも仕事と生活があるし、何よりロリコンという点に目を瞑れば、教師として優秀だ。生徒にも人気がある」


「そこ、目を瞑っていいところ? ロリコンでしょ?」


「だが、生徒に告白するロリコンでは無いかわりに無能な教師よりはよほどマシだ。何より私の意思を尊重し、堂々と告白し、私が断れば目に涙を浮かべながらも潔く諦めた。欲望に負けて力づくで生徒に手を出す外道なロリコンでは無く、いち個人として私と相対した紳士的なロリコン教師だった」


「えー? ロリコンでも無い無能でも無い、そんな教師はいませんか?」


「無理を言うな。天は二物を与えず、牙有るものは角無し、だ。そして無駄に期待のハードルばかり上げてしまえば、応えられない人は自信を無くす。そして社会に引きこもりが増えることになる。人にできないことを期待するのは酷というものだ。私はこれまでの人生でそれを学んだ」


「そりゃまあ、誰も彼もに、しいらみたいなオーバースペックを求められても困るし無茶だし」


「私にとって、由歌ゆかとのこの一時ひとときが癒しであり救いであるというのに、それを削られるとなれば不満も感じる」


「えー? えっと、話が戻ったね。私は、しいらが何か私の恋愛のアドバイスしてくれるかと思っていたんだけど?」


「なぜ私がアドバイスを? 私が由歌ゆかと共に過ごす時間の為に、学習面でアドバイスすることはあっても、その貴重な時間を減らすことに私が手を貸すとでも?」


「うえあー?」


 これは予想外だ。あっれ? 識羅しいらが不満そうな顔して私を見てるよ?


「しいら、が拗ねた? くわえてなんだか甘えるような可愛いこと言い出した? どうしたの、しいら?」


「私が本音で話してもキレて怒ることの無い由歌ゆかは、私にとって貴重、という話だ。だが由歌ゆかが恋愛したい、というのであれば、これを応援するのも親友、というものか」


「もしかして、今、私は、しいらに愛の告白をされている?」


「少し違う。私のオモチャが仲野ナニガシに奪われるのが気に入らないだけだ」


「しいらに、おかしな独占欲を持たれていた? オモチャって何どういうこと?」


「しかし、由歌ゆかが今のうちに同級生の男子と付き合うのも、将来のためになるか。恋愛が病気なら学生の内の付き合いは、予防接種のようなものか。大人になってから大きいのにかかると症状が酷くなるかもしれない。十代のうちに恋愛して失恋して免疫力をつけておくのも致命傷を避ける為にいいか」


「失恋するのが前提で学生の恋愛が予防接種にされた! そんな恋愛物語は小説でもドラマでも無いよっ!」


「現実と幻想を一緒にしてはいけない。しかし、由歌ゆか、失恋にならないというなら仲野ナニガシと何処まで行くつもりだ?」


「え? 何処までって、えっと最初のデートは水族館と映画館とどっちがいいと思う?」


「初デートの行き先では無く、最終的に何処まで行くのか、だ。結婚か? 出産か? 何人産むつもりだ?」


「そんなとこまでまだ考えられないよっ!」


「男女の恋愛のゴールは子作り子育てだろうに。では、ベッドインはするが避妊はする、というところだろうか?」


「デートもキスもしたこと無いのに! 仲野君のこと深く知る前にベッドインまでいろいろとショートカットしすぎ!」


「結果が同じならさっさとゴールしてしまえ。恋愛でも最速RTAに挑戦だ。では、私が由歌ゆかに男の性というものを教えようか。アドバイスということなら、この知識が役に立つか」


「え? もしかして、しいらは経験者?」


「処女だがなにか? うーむ、あったこれだ」


 識羅しいらは部屋の本棚の中から古びた本を一冊取り出す。というか、しいらの持ってる本はどこで買ったんだろう? 古書というの? いろんなジャンルのマニアな本をたくさん持ってる。ビブリオマニアっていうの。

 しいらが古い本を開く。なんて書いてあるか読めない。日本語、みたいだけど古文? とまではいかないか。でも古い日本語でなんて書いてあるか読めない。カタカナばっかり? 見たこと無い漢字がある?


「これは旧ソ連で強制収容所に入れられた日本兵の記録の中にあるんだが」


「恋愛相談がどうして第二次世界大戦ワールドウオー?」


「シベリアの極寒の過酷な環境に粗末な食事。娯楽も無く日々の重労働が続く極限状態において、一日の作業を終え、食事は貧相な黒パンと青いトマトと塩スープ。その生活の中で、寝る前に日本兵はこう会話をしたと書かれている。

『おれ、カレーライス』

『おれ、カツ丼』

 と」


「う、ううん。あまりにも辛くて苦しくてひもじくて、美味しいご飯を想像していたとか? カレーライスとかカツ丼を妄想して自分を慰めていたとか、戦争、悲しいなあ」


「鋭いな由歌ゆか、当たってるぞ」


「へ?」


「自分を慰める、だ。極限状態に追い詰められた彼らは、カレーライスやカツ丼を夜のオカズに妄想して自慰、つまりオナニーをしていた」


「はああ? え? カレーライス? オナ?」


「そう、つまり男という生き物は極限まで追い詰められると、カレーライスやカツ丼を想像しながらオナニーできてしまう生き物なのだ」


「えう? あ? なに? うそお? 食べ物でできるの? ほんとに? ゼンゼン理解不能???」


「これは私たち、女には理解できない感覚、だろうか。男という生き物の目的は、遺伝子を残すために種を蒔くこと、その為に生き延びることになる。そこで脳の中で生存欲求として性欲と食欲は近いところにある。一方、女とは性交のあとは妊娠、出産が待ち構える。身体の機能の違いから性欲の種類が、種としての生存目的としての性欲が違う。そのため女は脳の中で性欲と食欲は離れている、ということになる」


「うわあ……、近くて遠い男と女……」


「かつて日本で、ノーパンしゃぶしゃぶ、とか、女体盛り、といった日本文化があったのもこれで説明がつく。男とは女より性欲と食欲が脳の中で密接なのだ」


「いや、その、ちょっとその男性の性、というのを知ってビックリしたけど、カレー……」


「いい女アピールのために、お弁当を作ったり手料理を振る舞って家庭的なところをアピールする。これは、男の胃袋を掴むというのは、男の食欲と性欲を惹き付けコントロールするということに繋がるからだろう」


「お弁当を作って差し入れするけなげ可愛い行為が、なんか変なエロアピールみたいになってきた?」


「極限状態では男はそのお弁当を想像してオナニーを、」


「やめーーーー!!」


 はあ、はあ、なにそれ? 愛を込めて作ったお弁当が汚された? というか、なんでいきなりそんなレベル高そうな話を? いやその、男のそういうのに興味が無いわけでは無いので有るのだけれど。だって女の子だし。だけどまさかそんなカレーライスとカツ丼で? カレー? あへえ! カツ丼? んほお! とか? うあ? まるで理解不能だ……。男ってナンダ? 男とはどんな生き物ナノダ?


「どうした? 由歌ゆか? 顔が赤いぞ?」


 識羅しいらはニマニマしてる。くのお、楽しんでるなあ。


「女には解り難い男の性について、こうして由歌にいくつかアドバイスはできる」


「そのアドバイスはいらないっ! これからカレーライスとカツ丼を見る度にヘンな想像してしまいそうになるっ!」


「ほう? ヘンな想像? それはどんな想像か? ちょっと詳しく言ってみてくれないか?」


「それはその、男の人がその、カツ丼で、その」


「男の人がカツ丼で? 何をどうする? ナニをどうする?」


「やめっ! もうやめーーーー!!」


「くくくくく」


 また人をからかって識羅しいらはもう。ニヤニヤしちゃってまったくもう。


「なんで、しいらはそんな話を私にするの?」


「いずれベッドインするときの為に、男の性愛について知っておくのは必要じゃないか?」


「しいらの男の性愛知識って、ズレてない?」


「何を言う。解剖学、脳生理学から見て正しい知識だ。しかし、人が常識として感じるものとは人が五感で感じるリアリティと、自分が属するコミュニティの習慣になる。日本人とは雑学を常識と思ってる者も多い。迷信もまた経験則からできる常識。その中で根源は同じでも精神が求めるもの、肉体が求めるものは微妙に違いが現れる」


「はあ、で、その本がなに?」


「こうして貴重な資料があるのだから調べて知るべきだ。こうあって欲しい、という嗜好で事実をねじ曲げても人の身体は変わらない。男も女も相手に幻想を重ねて恋愛するのが近代なのだが、このポストトゥルースの時代、真実は無く解釈があるだけ、と言われても人の身体とはそこに存在し変わりはしない」


「つまり、ええと? 恋愛小説や少女マンガみたいな夢を見るなってこと? 現実を見ろって?」


「ドラマなどで共通幻想を作り、皆がそれを信じることを現実だ、という風潮がデマとフェイクニュースが幅を効かせる要因なんだが。作られた現実よりも先ずは己の身体という自然を見ろ、という話でもある」


 識羅しいらは手に持つ本を丁寧に本棚にしまう。まあ確かに、誰がどんな嘘をつこうとも、皆がどんな現実を信じていようとも、私が何を真実と思い込もうと、私の手足は変わらない。私が心変わりしても、私の右手は私の右手のままだ。

 何が嘘か本当かと悩んでも、私が信じるよすがを別のものに変えたとしても、私の身体は変わらずここにあるのだし。


「そして相手にも身体がある。身体が求めるモノにあれこれ理由をつけるのも恋愛というものだろうが、生存欲求は厳然としてある。恋愛と浮わついても最終的にはヤルだけのものだろう」


「そこまでスパッとしてる人もいないと思うけれど?」


「しかし、由歌が仲野ナニガシと付き合うとなったら、私はどうすればいい? ヒマになってしまう」


「これをに友達を作ってみる?」


「私がか?」


「なんのかんの言って、これまでこのマンションに私以外呼んだこと無いよね」


「由歌以外の人間と話すと、私がイライラしてしまうのだが……」


「でも、しいら随分と上手くいってるじゃない。クラスでのコミュニケーションも」


「私も昔よりも我慢強くなったものだ。ふむ、由歌が男と付き合うというのなら、私も誰かを相手に付き合うという実験をしてみるのもいいかもしれない」


「実験て、今、実験って言った。不穏な感じで言った」


「かつて本音で話したときは、不幸な事件がいくつも起きたものだが、また試してみるか? フランケン事件の再来が起きるかもしれないが」


「いや、それはやめてあげようよ」


 フランケン事件。あれは私と識羅しいらが小学校三年生のとき。

 当時のクラスの担任教師が犠牲者になった事件だ。

 中年のなんだか威張っているような感じの、いつもイライラしているような痩せた男の先生だった。


 何が原因か忘れたけれど、先生は識羅しいらに説教していた。識羅しいらはその先生の言うことをひとつひとつ丁寧に壊していった。正論というハンマーで。で、力加減のわからない頃の識羅しいらの振るう論破ハンマーは、自分を賢いと自負のある大人の自尊心を木っ端ミジンコにしていった。可哀想なくらいに。


『ガキのくせに偉そう、というがそのガキにも浅いと読み透かされる理論武装は砂糖菓子のようだ。先生、確かにまれたから先生と呼ぶのだろうが、子供の尊敬を得たいのならば滲み出る知性の片鱗とか、その背に付き従いたくなる威厳とか、悩める者を受け止める包容力とか、教え導くことにかける情熱とか、せめて何かひとつくらい無いものだろうか?』


 小学生の女の子にこう言われて、その先生はキレた。そこに至るまで、識羅しいらに説教しようとして、逆説教に晒されて、教室の中、他の生徒達の前で散々な言われようだった。プルプルしてたのがプチッてなった。


『ガ、が、ガキのくせに! 俺は先生だぞ! 担任の先生だぞ! 大人を敬え! 先生の言うことに従え! ガキのくせに!ガキのくせに!ガキのくせにぃ!』


 と喚いて識羅しいらに掴みかかった。口からヨダレと一緒にガキのくせに、という言葉を吐きながら。怖かった。先生が壊れた、というのが誰が見ても一目で解る感じだった。

 識羅しいらは先生の手を避けてヒョイと軽く飛び上がり、

 そのまま見事なフランケンシュタイナーを決めた。


 ジャンプして両足で先生の頭を挟み、掴みかかる先生の勢いを利用して、識羅しいらが逆立ちするように落ちると、先生は脳天から床に激突した。教室というリングに人が逆さまになった墓標が立ち、先生はゆっくりと倒れていった。

 一人の小学校教師を廃人にしたのがフランケン事件だ。校長の甥でコネ就職していた担任の先生は、こうして学校というプロレスのリングから引退していった。


 他にも識羅しいらに、子供は大人の言うことを聞けと突っ掛かっていった人は何人も自滅していった。カンの鋭い子供の方が、コイツはヤバイと気づいて識羅しいらに近づこうとはしなかった。

 思い返すとあの頃から随分と丸くなったなあ、識羅しいらってば。


 その識羅しいらが、また試してみるって?


「私も男と付き合ってみるか? 私の本音と底意に耐えられる者がいるか、試してみようか? 今度は何人、廃人となるだろうか?」


「ちょっと、しいら、そこは手加減してあげて?」


「由歌が私の相手をしてくれたなら、余計な犠牲は防げるのだが」


「犠牲を出すのを前提にして私を脅迫してない?」


「これは脅迫になるのか? よし、由歌が私に暇になる時間を与えなければ、由歌の学校生活は安泰になる、と脅迫しよう。私に暇な時間を与えたならば、私は再び危険な遊戯をしてしまうかもしれない」


「やぶ蛇だった? 知らなかったよ、しいらがそんなかまってちゃんだったなんて」


「事あるごとに私につきまとっていたのは由歌の方じゃないか? 宿題が終わらないとか、お小遣いが足りないとか、先輩に睨まれたとか、痴漢にあったとか、ストーカーが出たとか」


「その都度、たいへんお世話になりましたぺこり」


「恩を売るつもりも、貸しを返せとも言うつもりも無いから気にしなくていい。気にしなくていいぞ由歌」


「今、なんで二回言ったの? わかったよ。しいらと遊ぶ時間は減らさないようにするから、だからもう不穏な事件とか同級生が失踪していなくなる事件とかやめてよ」


「あれは私が起こした事件なのか?」


「うーん、しいらが原因じゃなくても、巻き込まれたあとで事が大きくなっておかしなことになったのは、しいらがやったんじゃない?」


「丸く納まるように解決しただけなのに。まあいい。この先、由歌が男と付き合うことに際してだが」


 識羅しいらがススッと私に近づいて、え?


「私が応援できることはこんなところか」


 言いながら私をそっと押し倒す、は? えあ? しいらが私に馬乗りになって?


「いずれ由歌がベッドインするときの為に、私がシミュレーションの相手を務めよう」


「なんでデートとか付き合うかどうかをすっ飛ばして押し倒されるシチュエーションのシミュレーションを?」


「では、その前からやろうか? 手を恋人繋ぎにしてキスをしてみようか」


「やめー! ちょっとしいら? なんでこう、積極的にもしかして、そんなに私が仲野君と付き合うのがイヤ?」


「言ったろう? 私のオモチャが誰かに取られるのは気に入らないと。由歌は私のオモチャなのに」


「もしかして、しいら、私のこと好き?」


「どうだろうな? 自分のものだと思っていたのが取られそうになって惜しくなってはいる」


「しいらが子供みたいなこと言ってる、珍しい。そんなに私に執着してたなんて、うわお」


「では、次はキスといこうか、ほら由歌、ムチュー」


「ひゃおわえええ!」


 しいらの顔が迫る! まつげ長いなしいら! のけ反って顔を逸らすとほっぺにしいらの唇が、ムチュッってされた。ぴいい。


「ちょっとしいら! やめーーーー!!」


「うん、いい反応だ由歌。くくく」


「もう、しいらってば!」


「半端な嫌がり方は相手を誘ってるように受け止められるぞ?」


「半端ってなに? 誘ってるとか訳ワカンナイけど?」


「相変わらずそこは天然か。では練習だ由歌。中途半端に嫌がりながら色気を出しつつ、相手が下着を脱がせやすい姿勢の作り方を研究しよう」


「その研究の前にしなきゃいけないこといっぱいあると思うわーお!」


 相変わらず、しいらはイジメっ子だ。

 でもこうして、このマンションで私と話してふざけている時だけは、識羅しいらは楽しそうに笑う。

 それは周りを上手に騙す作った笑顔じゃなくて、私しか見たことが無い識羅しいらの本当の笑顔で。ほんっとに楽しそうだね、しいら。まったくもう。


「む? どうした由歌?」


「どうしたもこうしたも、そろそろ離して、しいらー」


「離して、と言われると離したくなくなるものだ」


 識羅しいらはますますむぎゅっとしがみついてきて、私の首をペロリと舐める。うひい、なにやってんのもう。


「由歌が男に告白されて浮わついた気分になるというなら、試しに私も言葉を紡いでみようか?」


「え?」


「由歌、好き好き大好き愛してる。どうだ?」


「ぜんっぜん心が込もって聞こえないよ? 取り合えず言ってみた感しか無いっ!」


「くくく、私に恋愛感情なぞ期待するな。愛してるフリならいくらでもできるが、由歌なら見抜いてしまうだろうし」


「じゃあ離してー!」


「それはそれ、これはこれ、お楽しみはこれからだ」


「んなーーーー!!」


 まったく、愛ってなんだ?

 愛してるってどういうことだ?

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愛とは呼べない夜を越えたい 八重垣ケイシ @NOMAR

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