終末後のゾンビハーレムは演技じゃない

ちびまるフォイ

続きが気になる物語

ここは人類がいなくなった終末の世界。

夜になるとゾンビ達はうめき声とともにガレキの町を徘徊する。


パシャ。


夜の闇にカメラのフラッシュは非常に目立つ。

ゾンビたちはフラッシュの場所に引き寄せられていく。


「ああもう! いい写真撮れなかった!!」


写真を撮ったらすぐに場所を移動する。

さもなくばフラッシュに反応したゾンビに喰われてしまう。


屋上を渡り、民家の屋根づたいを走って距離を離す。

ゾンビがいないことを確認してから写真をSNSに公開する。


「……やっぱりこの程度か」


投稿内容への反応はいつもより薄かった。

SNSにおいて私はゾンビの世界に住む女の子として演じている。

日々その生活のリアリティを投稿するという体になっている。


誰もがそれを設定だと薄々思っているだろうが、紛れもない真実だ。


「お、来た」


投稿の反応に応じて食べ物や生活必需品が詰まったものが空から落ちてくる。

最初の頃は突飛な設定と、投稿される写真のリアルさから人気が出て物資も豪華だった。


「みんな慣れちゃったのかな」


異常な世界も長く続ければ通常になってしまう。

ゾンビの顔やそこで生活する自分を撮影しても反応は日に日に減っていった。


>もっとゾンビの顔をアップで見たい!

>ゾンビとツーショットはないの?

>ゾンビを殺した写真撮ってきて!


「ふざけるな! 私は命はってるのよ!!」


一度噛まれたらそれだけで私の人生は終わる。

ミイラ取りがミイラになっては意味がない。


>でもこっちの人はもっといい写真撮ってるよ?



「……え?」


ファンの人に教えてもらったアドレスにアクセスする。

そこには同じようにゾンビの世界で生きている設定のアイドルが活動していた。


「なんだ、作り物じゃん……」


ゾンビに囲まれた世界で生きているからこそわかるゾンビの不自然さが写真にはあった。

けれどアイドルは作り物ゾンビとツーショットを撮影したり、ともすれば自分をゾンビにしたり。

顔がカワイイぶん、作り込みなどは気にされていない。


「私のほうが先にやったのに! どうしてこんな子のせいで私が追い込まれなくちゃいけないのよ!」


あっちは作り物でもこっちは本物。

ツーショットなんかとても撮れるわけがない。


けれど目が慣れている人にはより過激なものを提供しないと愛想を疲れてしまう。

そうなったら私はおしまいだ。


「どうすれば私の方に振り向いてくれるのかな……」


支給物資の箱にある携帯バッテリーを手にとったとき、

手元のスマホが足元に落ちてしまった。


落ちたスマホは画面側を地面につけて、こちらへカメラを向けている。

それを見てピンと来た。


「そうだ。自撮り。それもムービーを撮ればきっとみんな振り向いてくれる!」


作り物で演出している人には生放送なんて絶対できない。

リアルな現状を伝えて見せれば、本格派のこちらへ人気が傾くに決まっている。


はじめて生放送の枠取りをすると、一気に視聴者数は急増。


「みなさん、普段は写真しか投稿していませんでしたが

 今日は思い切って生放送してみましたーー」


>すごい! めっちゃリアル!

>え! ゾンビ動いてる!

>金かかってるなぁーー


時間とともに視聴者数はどんどん増えていく。

きっと見ている人が拡散してくれているんだ。

今が押し時。


「これからショッピングモールにいって、食べ物を調達したいと思います。

 人間がいたときにはモールに人が多かったので、今はゾンビの巣。

 非常に危険ですが頑張っていきたいと思いますーー」


視聴者たちは何が起きるかわからない興奮に目が離せなくなる。

この生放送で一気に稼いでおけばしばらくは安全に暮らせる。

時間を置けばより過激なものを求める流れも止められる。


「見てください。あれ全部ゾンビなんです。

 ゾンビは光に集まる修正があるので、ホームセンターのライトを使います」


ライトでゾンビを引き寄せてから、ショッピングカートで蹴散らしつつ前に進む。

普段は物資が手に入るため店の賞味期限切れ食料品なんかいらないが、生放送のためにカートへ放り込んでいく。


「はい、もう十分に集め切れました。それではここを出て……キャッ!!」


栄養失調で死んだゾンビから流れ出た体液ですっ転んだ。

どすんと、尻もちをついたことで商品棚が崩れて大きな音が響く。


「しまっ……!」


話し声程度ならゾンビのうめき声でかき消されていたが、大きな音となれば別。

ゾンビたちは音に引き寄せられてこちらへ向かう。

しかも悪いことにスマホの光が私を照らしている。


逃げ道のないバックヤードまで追い詰められる。

視聴者はますます爆増しているがもはやそれどころではない。


「だれか!! だれか助けて!!」


必死に叫んでも視聴者は私の臓物が画面いっぱいに広がる放送事故を期待する。

これが作りものであるという前提でどこか安心している。

"そんなことにならないのだろう"と。


「あ……あ……」


ゾンビの手が頬に触れるそのとき。



kuroneko_11*

投げ物資:サブマシンガン



生放送中の動画に対してコメントが付いた。

スマホを持っていない手にはいつの間にか銃が握らされている。


「え、これ……!?」


考えている暇はなかった。

迫るゾンビの体を狙って引き金を引いた。


生々しいサブマシンガンの銃声と容赦ない人体欠損に動画は大人気。

あたりのゾンビを全員床に倒すことができた。


「はぁ……はぁ……やった……こんな機能があったなんて……」


まだ硝煙が出ているサブマシンガンをおろし、カメラの前に外用の顔をつくる。


「はい! みなさん今日は楽しんでいただけましたか?

 あっ、まだまだ見たいっていうコメントもたくさんいただいてますねーー。

 でも今日の放送はここまでです、みなさんありがとうございましたーー♪」


コメントにはまだまだ生放送の継続を要望するコメントに溢れていたが、

これ以上続けていたら命がいくつあっても足りない。


半ば強引に放送を終了した。


「はぁ……やっと終わった……」


途中でゾンビに気づかれて追われたときはどうなるかと思った。

慌てていたのでコメントを見る余裕などなかった。

あらためて放送中に寄せられたコメントをさかのぼっていく。


サブマシンガンの支給コメントの前に、別のコメントが残されていた。



斑鳩みー*

投げ物資:防弾チョッキ



「こんなのあったんだ。でも私そんなの着てな……」



振り返ると、防弾チョッキを身に着けたゾンビが起き上がっていた。

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