エピローグ

「東京創元社×カクヨム 学園ミステリ大賞」応募作

Stray Brain 〜迷走する脳〜

https://kakuyomu.jp/works/16817330659849711175

作者 雨 杜和

エピローグ

エピローグ

https://kakuyomu.jp/works/16817330659849711175/episodes/16817330662265033142





※誤字脱字・構文など

> 病院を出たのは午後になってから、永添はジニの荷物をまとめて愛車に乗せる。

⇒いちおう「乗せる」でも間違いではないのですが、積み込む場合や台の上に置く場合はとくに「載せる」を用います。


> 江ノ島近辺では信号のつなぎが悪く流れが悪かったが、それ以外の道路はスイスイと進んでいく。

⇒「信号のつなぎが悪く流れが悪かったが、」は「悪い」が二回使われています。

 たとえば「信号のつなぎが悪く流れが滞ったが、」にすると片方は削れますね。





※寸評

 やはり脊椎を傷つけられて不具合が出るかも、という状態に陥ったんですね。

 背骨はそれだけリスクがありますから。

 通常は突起で脊柱を守っているのですが、刃物でガリガリ削られると髄膜を傷つけて神経に触るかもしれません。


 エピローグ前半はジニにとっては特別な「普通」を味わうことが主軸。

 後半はジニとヒマリの心の距離を再確認することが主軸。

 ふたりが結ばれて、ハッピーエンドになりましたね。

 これは多くの読み手が望んでいたファイナル・イメージだと思います。





※総評

 続けて総評です。


 まず第一話で坂道から始めて、エピローグに坂道を出して、〝オープニング・イメージ〟と〝ファイナル・イメージ〟の統一がなされており、事件の「使用前」と「使用後」の対比がうまく演出できていると思います。


 第一話では地の文の語りが長く、主人公が出てくるまでにやや時間がかかって読み手にストレスを与えているかもしれません。

> 六月末、沓鵞路二ことジニは、〜

 までジニの三人称視点・三人称一元視点が確定できないので、読み専さんをリードしきれないかもしれません。

 第二話はジニの過去編となります。

 ここで「一ノ瀬克ノ介」を出していることで、物語の大きな伏線にしていますね。

 これが効いてくるのは、ジニが永添との捜査で名前が出てからですから、周到な伏線だと思います。

 第三話・第四話はヒマリの日常の学園生活。

 ここでヒマリを含めた四人が出てきますが、ヒマリを含めた四人グループがちょっと存在感が薄かったかなと思います。できればアオイ、ミコト、ナギの三人の役回りをもう少し活かせば四人組が生き生きとしてくると思います。

 まあジニにとってヒマリが恋愛の相手役だから、残る三名がグループと考えることもできますが。

 第五話・第六話はクロブチ先生の視点。ここでジニにとって乗り越えるべき相手役として暗示されますね。正直クロブチ先生視点になると、物語の秘密が暴露しやすいということで、書き方はかなり慎重を期すべきです。ここはうまく乗り切っていますね。


 第二章

 全体にヒマリの一元視点で彼女の記憶にまつわる話が展開されます。ここで記憶について理解を深めることで、物語全体を支配するサスペンスに火をつけました。

 第五話で屋上からの投身を描いていますが、これが催眠療法の結果なのかどうかが今後の鍵になると見ていたのですが、もしかしてクロブチ先生に放り投げられたのでしょうか。クロブチ先生が由香里を落としたのであれば、なんらかに因果があると伏線として機能したかなと思います。


 第三章

 ヒマリの一元視点で、ジニとの二度目のボーイ・ミーツ・ガール。

 ただ、ヒマリは記憶が消されていて気づけない。

 このあたりも記憶改竄の痕跡で、物語を通じての「記憶」を暗示しています。

 このあたりの展開がうまいですね。

 〝きっかけ〟をうまく演出して、ジニと「記憶」との戦いを暗示させます。

 

 第四章

 ジニの一元視点で三年前を語ります。

 婦女暴行、今だと不同意性交罪ですが、そこから隔離病棟へと収容されて、誰の助けも得られずに鬱屈した日々を送っている。

 第四話で県立辻ヶ丘高校が出てきて、今のヒマリとつながります。

 このあたりのいったん距離が離れて、時を経て再び出会うというボーイ・ミーツ・ガールの変形がうまく形作られています。

 〝悩みのとき〟で鬱屈していた時期を描いています。


 第五章

 ヒマリの一元視点になります。

 ここが〝第一ターニング・ポイント〟に当たりますね。

 ジニが味わえなかった普通の学園生活に乗り込んでいきます。

 〝サブプロット〟はクロブチ先生ですから、第一章ですでに〝サブプロット〟のキャクターが登場していたことになります。また頼友に代表される一ノ瀬一族が登場しますから、こちらも〝サブプロット〟の登場人物になりますね。

 ここからジニの一元視点に切り替わります。

>そのうしろ姿を、ちらりとヒマリが振り返ったことに、彼は気づいていない。

⇒ここで読み手に「秘密」を提示できていますね。そういう一文はなかなか勇気がないと書けません。

 クロブチとのやりとりも、本編ラストを考えると味わい深いですね。

 第四話で後見人、永添さん登場。ジニを最後まで連れていく役割を持っていますから、ここも〝サブプロット〟ですね。

 その中でも〝お楽しみ〟が着々と進んでいます。

 一ノ瀬克ノ介との親子関係がわかったところで〝ミッドポイント〟となります。

 ここまで順調に物語を楽しんできましたが、ここから再び悩むことになります。

 第七話で婦女暴行の被害者である女性が実は偽物だった。ここから悩み始めまする。〝迫り来る悪い奴ら〟へと入っていくことになりますね。

 ジニを取り巻く状況がどんどん悪くなっていきます。


 第六章

 第一話はヒマリの一元視点から始まりますが、第二話でジニ視点に切り替わります。

 ここで由香里からクロブチ先生と一ノ瀬一族との関係を聞く。それが由香里を危険な目に遭遇し、その罪をジニになすりつけようとする何者かの存在が見え隠れします。

 第三話で再びヒマリの一元視点に戻ります。

 ヒマリの記憶が刺激されてきた場所ですね。これは仲間を準備することですね。

 第四話もジニへと切り替わります。所轄の警察に連れ込まれだか、永添さんが救出してくれますね。

 第五話は永添の一元視点で始まってジニの一元視点へ切り替わります。

 第六話でヒマリへ戻ります。ここでヒマリの記憶改竄に母が関与したことを暴きます。

 第七話は、誰視点なのかがわからないまま進んでいきますので、なるべく早いところで視点保有者を出したいところです。今の文章だと三人称視点かなと思います。

 第八話・第九話は永添の一元視点。ジニの後ろ盾として彼を保護するべく奔走することになりますね。そしてジニの相手役への警戒も指示している。このあたりで共闘の形が出来上がっていたのですね。ここは〝第二ターニング・ポイント〟にあたりますね。

 この次〝フィナーレ〟へと進んでいきます。


 最終章

 第一話・第二話はクロブチ先生の一元視点から始まります。

 いよいよジニと相手役とのラストバトルに向かって進んでいきます。

 第三話でジニ視点に戻って、ここからジニとクロブチの腹のさぐりあいスタート。

 そしてジニが「ナンバー」と話してクロブチが凶暴に変化していきますね。

 第四話でクロブチ先生がジニに事の顛末を語って聞かせる。

 それが外部に筒抜けになれば、クロブチ先生に逃げ場はなくなりますが。

 そしていよいよ第五話で、クロブチ先生とジニとのバトルというか時間稼ぎに入ります。頼りになるのは永添さん。ヒマリを巻き込む形になりましたが、そのために背骨にナイフを突き立てられ続けることになります。

 気を失って、次に起きたら永添さんに介抱されていた。救急隊も呼んでくれたことで一命をとりとめました。

 〝フィナーレ〟がきちんと機能した形です。


 そしてエピローグ。

 最初に書きましたが、〝オープニング・イメージ〟と対になった〝ファイナル・イメージ〟になっていますので、「使用前」「使用後」が明確になっています。


 構成面では大きな瑕疵はありませんでした。

 全体的に「記憶」をテーマにしていますので、やや難しい展開が含まれています。

 ただ、このくらいならミステリ好きは読み進める公算が高いですね。

 全体はきちんとまとまっていますから、あとは結果を待つばかりですね。

 本作の執筆と推敲お疲れ様でした。




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