Alcoholic
アリクイ
Alcoholic
「何を言ってるんですか、全く……」
もう顔が真っ赤だというのにくだらない方便で次のグラスへ手を伸ばそうとする先輩を見て、私は呆れてしまった。
「介抱する身にもなってくださいよ。もう何回目だと思ってるんです?」
「わ、悪かったって」
「悪かったじゃないですよもう!この間だってそうじゃないですか、大の男がベロベロに酔っぱらって人の家に転がり込むなんて……あっ」
「…………」
「いやその、すみません……」
二人の間に気まずい沈黙が流れた。酔った勢いで一晩の過ちを犯したあの夜の記憶。先輩の荒い息遣いが、逞しい体の感触が、脳裏にうっすら蘇る。
「なぁ小林、前にも言ったがあのことは」
普段の豪快で男らしい姿とはまるでかけ離れた弱々しい表情を浮かべる先輩。その様子は、行為を終えた翌朝になって婚約者の存在を打ち明けてきた時のそれと全く同じだった。
「わかってますよ。あの晩、私達の間には何もなかった」
先輩の顔に安堵の色が浮かぶのを見て、私は複雑な気持ちになる。先日のことが万が一にも表沙汰になればどうなるか。そんなことは考えるまでもないし、あまり考えたくもない。彼のためにも、全てなかったことにして忘れてしまうべきなのだ。だけどもし、もしここできちんと想いを伝えることができたら、あるいは……。
しつこく心に纏わりつく未練を押し流すように、私はなみなみと注がれたグラスの中身を一気に飲み干した。
「小林、お前……」
「先輩もそんな顔してないで飲んでくださいよ。もう止めたりしませんから」
酒は命の水なんでしょう?と続けると、観念したように先輩もグラスを勢いよく傾けた。過ちを生むのが酒なら、それを洗い流すのもきっとまた酒なのだ。そんな思いで続けられた酒宴は、夜明けまで続いた。
Alcoholic アリクイ @black_arikui
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