演者の演技 « actor × actor » 




帰り道、いつもより心が軽くても、一人なことに変わりはない。


ただし、


独りで歩くのは、あの十字路まで。




― 僕ははじめに「いじめのない平和なクラスで過ごしたい」と言った。―



「彰人!悪いな、今日のちょっとやりすぎたわ」

時計のかかる小屋のそばで僕を待っていた望が手を振り僕の所へ駆け寄る。



― それはいじめる側に回ることでも、いじめの傍観者になることでもない。―



申し訳なさそうな笑顔を浮かべながら近寄り、望は謝罪を口にする。

「あぁ、気にすんな。まぁお陰様で制服びしょびしょんなったけど」

僕も笑顔を交えて愚痴をこぼす。



― ましてやいじめられることでも、―



「ごめんごめん笑」


両手を胸の前で合わせて自嘲気味に笑った望は僕と並んで歩き出す。そして僕はさり気に慰謝料を要求する。

「昼飯おごってくれたら許してやる、腹減った」


「あちゃ〜」額に手のひらを当て大袈裟にリアクションする。


龍ケ崎望、彼は僕の親友だ。



― 僕が作りたかったのはいじめがない舞台 ―



「しゃあねえか、どこ行く?」


「んー、じゃあハンバーガー」


今日も僕は望とたわいのない会話をして帰路につく。

そしてこのたわいのなさこそが僕の望んだ平和



― 「もし、いじめのシナリオが必要なら、二人で演じよう ―



いつか望と約束したはじまりの日のことを思い出す。


ほら、言っただろう?学校ではみんな誰かを演じてるって。

僕はいじめられ役で、望はいじめっ子役、今はそれが僕らの役目。



―  そして教室を僕らが作り上げる虚構のステージにする。」─



いじめてるのも、いじめられてるのも、全部演技だとは知らず僕らに騙されて、皆はクラスの標的に仕立て上げたと思ってる。



― 僕らの世界には狙撃手スナイパー標的ターゲットのシナリオが必要不可欠だというのなら、―



僕達が牽制している限り、クラスの連中が僕らの芝居に騙されている限り、このクラスで他の誰かがいじめられることはきっとない。



― その理は簡単には曲げることはできないだろう。―



これが僕らが選んだ平和な世界、



― でもその理を偽りにすることなら、僕らは得意なはずだ。―



僕は望に問いかける。

「なぁー、この茶番いつまで続けよっか」


「んー、この世からいじめが無くなるまで?」


「フッ、それってつまり永遠じゃん笑」

そんな世界あり得るのだろうか、でも僕も同意見だ。



― だって僕たちは、―



その気持ちを汲み取ったのか、茜色に染まりだした空を見上げて望が言う。

「マジでそんな日、来ればいいな。」


少し間をおいて僕も同じように空を仰いで返す。

「だな、」


「これからもよろしく、相棒」

望が視線を戻し、僕に笑いかける。


「おう!」

だから僕も精いっぱいの笑顔で返した。

演技じゃない、僕の本当の顔で。





― だって僕たちは、役者だから ―

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ACTORS 海風 @umi-kaze

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