第5話 二つの世界と二つの物語

 心があるから泥臭い内容を書ける。


 スマートには僕も朔夜さんも書けなかった。けれど、二人で補いながら応援コメントしてくれる人の駄目だしや、褒め言葉も参考に書いていった。


 AIの作品みたいにスマートじゃない。


 意味がよくわからないって読者を考えさせてしまう場面もあるし、話が飛びすぎ、時系列がめちゃくちゃな部分もある、テンポが速すぎたり、遅くなりすぎたり。

 

 でも、心に残る作品、葛藤や、支離滅裂な行動に見えても、登場人物たちの考えや想いを書いたり、敢えて表現しかったり。スマートじゃない二人が不器用ながらも自分の中からアイディアを振り絞って空っぽになるまで出し尽くした作品。




「いよいよだな…」

「うん」

 正装をして円卓に座っている僕と朔夜。

 薄暗い中、朔夜さんが声とは裏腹に手が震えているのに気づく。

 僕はその手を握り、頷く。

(大丈夫、僕らを信じよう)


「今年のヨムカク大賞は…斉藤朔夜の『クロスワールド 異世界で戦う勇者は現世でも英雄になる』です!!」


 僕たちは顔を見合わせる。そして、頷く。


「なんと、昨年のヨムカク公式のファンタジックアヴェンジャーズの売り上げをわずか1年で抜き去る快挙です!!」

 

「やったぜ、斉藤!!」

「あぁ、朔夜!!」

 僕たちは抱き合う。

 

 僕たちはAIに勝った。

 一人ではダメだったろうが、二人の力を合わせて。


 そうそう、AIに勝ったら表彰式だ。

 僕は彼女の手を右手でとって舞台上へ向かう。

 

 そして、こっそり左手でポケットの中にある次の勝負の武器を確認する。

 四角い箱に入った指輪を。

 

 しかし、これは僕だけの勝負の話だから次の機会に話そう———

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「5分で読書」になんかに負けない 西東友一 @sanadayoshitune

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